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竜の卵を拾いまして  作者: おきょう
第六章

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新しい力④

 結局その日、おびき出そうとしていた竜狩りのパーティーは現れなかった。


 シェイラはほぼ一日中、ひたすらシャボン玉っぽいものを作る練習をしただけだった。

 

『おい』

「グォッ」


 集中して幾つ作れるかを試していた所で、突然に頭の中に響いた声。

 驚いたシェイラの身体が、ビクッと跳ねる。

 同時に、周りに浮いていた玉の全部がパンッとはじけて割れた。


 夕日に照らされ散って消えていく、キラキラした破片に綺麗だなと感激する間もなく、ぶっきらぼうな声が続けて届く。


『今日はもう終わりだ。暗くなる前にもう帰るぞ』

「グゥ」


 風が大きく吹き、雪が舞い上がる。

 それに釣られて首を伸ばし空を仰ぐと、シェイラの周囲に人の姿で隠れていた竜達が、本来の姿になって空に上昇していっているところだった。

 何匹もの竜が夕焼け色の空を飛ぶ光景に目を細めたシェイラは、オレンジの色に染まった自分の翼を広げ、飛びあがり、彼らの後に続くのだった。



 ……そうして二つの山を越え、カザトの家の前までたどり着いた。

 雪の上に足を降ろしながら人の姿に戻ったシェイラは、さっそくカザトへと頭を下げる。


「カザト様。今日一日、守ってくださって有り難うございました」


 彼が見守ってくれてると分かっていたから、囮の役割も落ち着いて出来た。

 他の竜とはまだ打ち解けたとは言い難いけど、カザトのことは信じられる。もし襲われても彼だけは絶体に助けてくれると、核心がもてる。

 だから、とお礼を口にしたシェイラに、カザトは二度瞬きを繰り返したあと、眉を寄せてぶっきら棒にプイッと顔を背けた。


「別に。怪我されたら面倒だから」

「……カザト様って、本当に優しいですよね」

「はぁ!? 何で今のでそうなるんだよ!!」


 口は悪いのに、することなすことが優しいからだ。

 でもおそらく彼は、そんな自分に気づいていないのだろう。


(指摘すると怒鳴られそうよね)


 だからシェイラは口をつぐんで、ほほ笑むだけにする。

 そうやって答えを返さなかったシェイラの態度に、気分を害したのかカザトは頬を膨らませた。

 子供の姿だから、拗ねる様子はとても可愛い。

 そのカザトは不機嫌そうな顔のままで、家の扉に手を掛ける。


 しかし直後にふとシェイラを振り返り、話を変えて言う。


「なぁ……それ、さ。貰うと嬉しいもんなの?」

「え?」


 それと指をさされたのはシェイラの胸元だ。


(それ?)


 彼の言っていることが分からなくて首を傾げた。

 でも少し間を置いて理解し、シェイラはコートの首元のボタンをはずしてネックレスを引き出した。


「これのことですか? 竜の加護?」

「……そう」

「そうですね。離れていても繋がっているような……心強い気分になります」


 そっと指の先で赤く輝く鱗を撫でる。

 堅い石の感触だったが、何となく温かいように感じた。

 脳裏に描いたソウマの姿に無意識に頬を緩ませたシェイラに、カザトは小さな声でもらす。

 

「……アイーシャは、うけとってくれなかった」

「…………そうでしたか」


 シェイラは赤い鱗を手のひらに握りこみながら、眉を下げた。

 慰めの言葉をかけるのはいけないことだろう。


(アイーシャ様は、『竜』であるカザト様を本当に大切にしていたのね)


 人間と竜という寿命の差から絶対に早く居なくなってしまうアイーシャに、残されるカザトが固執しないように、恋人という関係も受け入れなければ、お守り代わりの『竜の加護』さえも受け取らなかった人。

 とても強くて恰好いいと思う。

 カザトからすれば、片想い感が強くて複雑だったのだろうが。

 人間側の気持ちが分かってしまうシェイラには、カザトの想いを受け入れられなかったアイーシャの臆病さも強さもわかってしまう。


「カザト様。アイーシャ様にとって、間違いなくあなたが一番愛おしい人だったのだと思います」

「は? 何、いきなり……」

「だってカザト様が凄く凄く優しくて格好いい竜なのだと、私も知っていますから。アイーシャ様はそんなところが好きになったのだなと」

「なっ……ば、ばっかじゃねぇ!」


 赤い顔をしていて怒鳴ったカザトは、慌てたようすでシェイラから顔を反らし、目の前の扉を開けた。

 先に入った彼に続いてシェイラも中に入ると、すぐ目先の広がる居間にいたココとスピカが迎えてくれる。

 

「ただいま」

「あ、シェイラだ」

「しぇーらママー!」

「二人とも、お留守番ごくろうさ、まっ!?」


 飛び込んで抱き付いてきた二人の身体を受け止めきれずに二歩ほど下がったシェイラは、くっ付いて来る二人を抱き返しながら、混乱する。


「え、え、え、え!?」


 何だかココとスピカ、二人分の重さにしては重すぎたのだ。

 というか、スピカが足元に引っ付いているのに対して、ココの頭がシェイラの視線ととても近い場所にある。

 彼はシェイラのちょうど胃の辺りに頬を摺り寄せ、腰に手を回し抱き付いていた。

 シェイラの背中まできっちりと腕を回せるほど、彼の腕は長くなかったはず。

 赤い髪と、さっき聞こえた声からしてこれはココなのだろうが、でも、違和感があり過ぎた。


「こ、こ?」


 呼ぶと、頬を寄せていたココがぱっと顔を上げる。

 見上げてきた赤い瞳の色は間違いなくココのものなのに。


「シェイラ。俺、大きくなった!」


 なんだか非常におかしなことが起こってる。


「…………」


 シェイラははくはくと声の出ない口を動かしながら。

 まん丸に開いた薄青の目で、彼を凝視する。

 思わず両手でむにっと、目の前のほっぺを摘まんで伸ばしてしまった。


「い、いひゃい! しぇーら、いひゃい!」

「……、あ、ごめんなさい。夢かと思って…」

「どーひてオリェのほっぺひっぱるのぉー」

「だって、現実かどうか確認しないとと思って……」

「ほれなら、しぇーらがしぇーらのほっぺ、ひぱるんだろー」

「……そうね。そうよね」


 むにむにむにむに。

 ココの頬を伸ばしても揉んでも突っついても、現実は変わらなかった。


(むしろ知ってるのより硬いわ)


 ふくふくの子供っぱい頬でなくなったことを、確認させられただけだった。

 しばらくココの顔を弄りまわし、シェイラはようやく、何となく理解した。

 この少年は、間違いなくココだと認識もした。


 シェイラは眉を寄せ、目の前に立つココに顔を近づける。


「ちょっとココ、どうして大きくなってるの!?  何があったの!? アシバ様は!? 一緒に待ってたのではないの!?」


 矢継ぎ早にした質問に帰ってきた答えは、たった一言だった。


「逃げた」

「っ―――逃げたって、アシバ様が? どうして」

「あのね? おこられるのやだーって。にげたの!」


 スピカの説明に、シェイラは溜息を吐く。

 面倒くさいことに関わることを好かないのは確かに竜らしいといえば竜らしい。

 けれど、それにしても無責任すぎる。

 でもとにかく今はアシバへの抗議は後にしてココとスピカに詳しく話を聞こうと、シェイラは二人を部屋の奥へと促した。


 シェイラが大騒ぎしている間、どうやらカザトは平然とそのまま進み入り居間のテーブルに着き、そこに置いてあったビスケットを美味しく摘まんでいたようだ。

 一人でお茶まで淹れておやつの時間を楽しみ始めた彼から少し離れた場所―――窓際のソファに移動する。

 ココとスピカに挟まれる形でシェイラは座り、彼らの話を腰を据えて聞くことにした。


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