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竜の卵を拾いまして  作者: おきょう
第六章

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新しい力②

 竜狩りをする輩を捕まえるため、(おとり)になって川のほとりで休むふりを続けるシェイラ。

 彼女はうたた寝をして見せたり、あくびをしたりして、『油断してます!』というアピールを続けていた。

 しかし当然、そう簡単に奴らが現れるはずもなく。

 一時間ほど経っても特に変化は訪れなかった。


「…………」


(やっぱり数日はかかるかしら。いえ、そもそもこんな作戦に乗ってくれないかも……)


 どうにか釣られて欲しいと願いながら、シェイラは周囲を慎重に見回しつつ、ゆったりとした動作で尾を揺らす。

 今まで竜の姿は飛ぶ時くらいにしかなっていなかった。

 だからこの姿で長時間過ごすのは、新鮮な気分だ。


 ―――川を流れる水音と、風に鳴らされる外れの音しかしない、雪深い山の中。

 そういう自然のものを感じながらただ待つしかない状況でずっと居ると、神経が落ち着いて、さらに研ぎ澄まされていくのが良く分かった。


 だからだろうか。


 ほんの些細な何かが肌を撫でるような違和感に、ふと気が付いてしまった。

 しかも良く目を凝らすと、ヒラリヒラリと翻る薄衣が見えるのだ。


(わぁ、精霊がすごく多い。やっぱり力が満ちている場所だからこそ、この地に竜の里が築かれたのかしら)


 二つ山を越えているとはいっても、ひとっ跳びで着ける距離。

 竜の力の元となる目に見えない力も濃いのか、こうして集中してみるとぼんやりと感じることが出来た。


「…………」


 シェイラは思わず、自分自身を見下ろした。

 正確には、身体ではなくその内側に渦巻く力を確認したのだ。


(……もしかして、ここでなら白竜の力が使える? ストヴェールではまるでダメだったけど、水竜の里の方では発動できたもの。力を出しやすい場所と出しにくい場所がるとか……そういうことなのかしら)


 白竜の力の源は人の心。

 しかしそれでも他の竜の力と同じく、こういう場所の方がいいように感じられた。

 とにかく試してみようと、シェイラは水竜の里でソウマに力を引き出して貰って使った時のことを思い出してみる。


(えーっと)


 自分の中に流れる力を意識して、指の先の一点に集めて。


 ――――放つ。


「グォ!?」


 流れる川の水面に、自然なものではないさざ波が起こった。


(わ、凄い、今の感じ、確かに水竜の里で使った時の感覚と一緒だわ!)


 嬉しくて、思わず尻尾をぶんぶん振ってしまう。

 獣の姿になって不自由に感じることは、犬などと同じように感情が身体の一部分に現れてしまう所だ。

 嬉しいと尻尾が激しく左右に揺れるし、緊張するとピンと立つ。

 抑えようとしても止まらない大きく振れる自分の尻尾を少し恥ずかしく感じながら、シェイラは鋭い牙が覗く口元を緩めた。


「グォ!」

(えい!)


 今度はもっと気合いを入れて、力を集めて川面に放ってみる。


(っ! 出た!)


 ぱっと表情を輝かせた直後。


「グゥワッ!?」


 薄青の瞳は驚きに見開かれる。


(え、何これ。何? シャボン玉?)


 竜の手のひらから出て来たのは、大きな大きな竜の手のひらサイズのシャボン玉……っぽいもの。

 透明でふわふわ浮くそれに驚いた。

 おそるおそる突っついてみると、カンッと音がした。

 ふわふわした見た目のわりにはとても硬い。

 でもふわふわしているだけで、特に何かが起こることもないようだ。

 これが何なのかはわからない。

 でもとりあえず害はなさそうだと安心して、せっかく竜術っぽい力が出たのだ。感覚を忘れないうちに、もう一度試してみることにする。


(えい! わ、わ、わっ! いっぱい出た!)


 ポンポンポンポン、透明な玉が出て来て浮かびあがる。

 

(え? と、飛んでっちゃう! い、いのかしら……)



* * * *



 何やらふわふわとした玉を作りだしているシェイラに、高い木の葉の陰から見ていたカザトは眉をよせた。 


「何を遊んでんだよ。緊迫した場だって分かってんのか?」

「カザト、何これ」

「知らない」


 ふわふわとカザトの居るところまで飛んできた玉を、同じように近くに潜んでいた仲間がキャッチする。

 彼らもそろそろ飽きだしていたようで、白竜の術が作り出したものに目を輝かせて珍しそうにしている。

 玉は直径三メートルくらい。

 人の姿で見るとずいぶん大きいが、重さはないようで簡単に抱えることができた。

 一人が広げた両腕で支えたそれを、もう一人が拳でたたいてみる様子を、カザトはぼんやりと見学した。


「見た目はシャボン玉だが、かなり硬いな。人間の姿の力じゃ壊せない」

「風だとどうだ? よっと」


 一人が風をあやつり、切り刻むように玉に当てる。

 するとガラスが割れるように四方八方に砕け、その破片は大気に戻り消えていった。


「へぇ。面白いな」

「これが白竜の力か。なぁカザト、これ使えるんじゃないか?」

「え?」


 もう一つ飛んできた玉をなんとなくキャッチしたカザトに、仲間はその玉を指さした。


「これ、人間には壊すの大変そうだし。数作って入れちゃえばいいじゃん」

「…………」


 その、おそらく適当に言ったのであろう提案に、カザトは目を見開いた。

 確かに襲ってきた何人もの人間をこれに閉じ込めることが出来れば、ずいぶん楽になる。

 力はこちらの方が絶対に勝っているが、数の面では負けているから、その部分だけが少し心配でもあったのだ。


「あ、割れた」


 しかし何もしていないのにカザトの持っていた玉がパンッと弾けてしまい、持続力に問題があることを知る。

 少し考えたカザトは、木の上からシェイラへと術を繰り出すことにした。


* * * *


『シェイラ』


 突然、頭の中に響いた声に驚いた。


(カザト様? どうされましたか? ……私は念話は使えないから声が届かないんだったわ)

「グゥ……」


 肩を落としたシェイラの頭に、また続けてカザトの声が響く。 


『これ、もっと長く保たせて、人間を捕らえるのに使えないか?』


(これって、シャボン玉っぽいもの?)


 シェイラは顔をあげて、自分の周りに幾つも浮いている玉を見渡した。

 確かにふわふわした見た目のわりにとても硬い。

 

(でも)


 ふっ、と気を抜くと、途端にシャボン玉は全部砕けて消えてしまうのだ。

 持続性がないのだ。

 集団である人間を捕らえるのだから数が必要だし、それなりの時間持たせることも必要だろう。

 カザトが言うようにもっと長く保たせることがやはり必須条件で、それが自分に出来るだろうかと思うと、冷や汗が滲んで来る。


(でもこれだったら、お互いに怪我をせずにすむわ)


 カザトに話せばきっと甘いと言われるだろうが、シェイラは出来れば流れる血を極力減らしたかった。

 たとえ相手が悪人であって、シェイラ自身も嫌いだと思ってしまうような人でも、……それでも痛いのも悲しいのも、嫌なのだ。

 白竜の力はたぶん守りに特化したものなので、攻撃は不得手なのだろう。

 しかもつい今の今まで何一つ竜らしいことは出来なかった。役に立たないかもしれないと思っていた自分が力を使って解決の手助けを出来るのなら、やらない手だてはない。


(よしっ!)


 シェイラは首を伸ばして大きく動かして頷くことで、動作でカザトの声に許諾の旨を返した。

 そしてやる気をみなぎらせた彼女は、とにかくこのシャボン玉っぽいものを安定して作れるようにと、数をこなすことにする。

 どうぜ今、やることはここで待つことだけだ。

 気合いにつられてピンッと白い尻尾が立った。


「グゥ! グォ! ガァ!」


 威勢のいい声と同時に、ポンポンポンポン飛び出て来る透明な玉は、光を反射して七色にも見えとても綺麗で、結構緊迫した現場にいるにしてはずいぶんと美しい光景になっていた。


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