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竜の卵を拾いまして  作者: おきょう
第六章

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新しい力①

 

 竜狩りを専門とする冒険者パーティーを捕まえる為、シェイラは朝早くに子供達をアシバへと預け、カザトや他の風竜たちと一緒に里から二つ山を越えた先に降り立っていた。


 なにせ自分達の命を狙っている集団と対峙するのだ。

 相手の人間側も命がけになるはずで、そう簡単にはいかないだろうと思う。

 まさに命がけの作戦、なはず。


(うん。結構深刻な事態だと、私は思うのだけど……)


 シェイラは森の開けた場所に集まった風竜達の様子に、困惑していた。

 冒険者パーティーの目につきにくいようにと人の姿でここに集まってもらったが、全然まったく、これっぽっちも、彼らには緊張感が見受けられなかった。

 意気込んで来たのはシェイラだけ。

 竜達は正反対で、とてものんびりとした様子でそれぞれが雑談をしている。


「あーやっぱ朝の風はいいねぇ。爽やかで! 清々しくて!」

「だなー。今日は雪も降ってねぇし。よし! ちょっとその辺り一周しに行くか!」

「おう!」

「あ、え? あの!? 行ってしまうのですか!?」

「悪い白竜の嬢ちゃん。気分じゃなくなった!」

「じゃあな!」

「ちょっ……!」


 シェイラが止める間もなく二匹の竜は竜の姿に身を戻し飛んでいき、作戦から離脱した。

 

「あぁぁ、もうあんなに遠くまで」


 小さな点にしか捕えられなくなった彼らの姿に呆けるシェイラの後ろでは、また別の竜がくるりと回ってみせて首をひねっている。


「なぁなぁ、俺って普段は竜型だから人の姿に慣れてねぇんだけど。変じゃね?」

「どこがよ?」

「全体的に」

「普通でしょ。ねぇシェイラ」


 声をかけられて振り返ると、明らかに人間には無いものがそこで揺れていた。

 ワザとかもしれないと思いつつ、シェイラはそれを指でさす。


「えーっと……尻尾が隠せていないかなと思います」

「え? あー。そういえば人間には無いんだったか」

「細かいところ過ぎて気づかなかったなぁ。あっはっはは!」

「ははは!」


 人の姿から飛び出た尻尾をぶんぶん振りながら大笑いしている。


「こっ、このままではいけないわ。また竜が犠牲になってしまう。フ、フウさんはどちらに……!」


 シェイラはこの呑気な空気を引き締められるだろう風竜の長の姿を探した。

 長の言葉ならば皆聞いてくれるだろうと思ったのだ。

 しかしどこ探しても、見える範囲内に彼女は見当たらない。

 一体どこにいるのだと目を凝らし探し続けるシェイラの隣に立つカザトが、眠そうにあくびをしながらポツリと呟く。


(おさ)は朝弱いからな。来るにしても昼頃じゃないか?」

「朝八時集合って約束したのにですか!?」

「ヤクソク? ナニソレ。って感じだろ」

「ううぅ。昨日は乗り気でいてくださってたのに……!」

「昨日は目の前で苦しんでるやつが居たからなぁ。今朝にはもう落ち着いてたし、盛り上がりも冷めたんじゃね?」

「でもまた竜が狙われるかもしれないのに!」

「その時になったらまた怒るかもな」

「その時じゃ遅いんです……!」


 シェイラは大きな声で抗議したが「知らねぇよ。本人に言えよ」と一蹴された。

 どうでもいいがカザトは全体が小さくなった分、藍色の髪に刺さる赤い羽根がとても大きく見える。

 カザトが首を動かすたびにぴょこぴょこと揺れる赤い羽根に、どうしても視線が持っていかれてしまうのだ。

 ちょうどシェイラの視線の高さにあるから余計に気になった。


「このままじゃ何も始まらない……!」


 意識して赤い羽根から目を離したシェイラは、気合いを入れ直して薄青の瞳を輝かせ周りを見まわした。 

 ……シェイラは決してリーダーシップを取るタイプの人間ではない。

 でも自由極まりない竜達になりゆきを任せていると、日が暮れてしまいそうだった。

 それにもとはと言えば自分が言い出したことなのだ。

 協力をしてくれようとしている竜が数匹でさえいるだけでも凄い事なのだ。

 だからこれでやってやると、手のひらをぎゅうっと胸の前で握り締め、めいっぱいの声を張った。

 

「みなさん、集まってくださーい! 始めます! 始めますよー!」


 両手を上げて手を振り、雪の上をぴょんぴょんとジャンプをして注目を集めようと必死に頑張った。

 やがて興味を示してくれたらしい竜達が、ゆっくりとだが集まって来る。

 でも全員ではなく、何匹かは雑談に夢中になったまま動かない。


(児童園か学校の先生でもしている気分だわ)


 話を聞かない。適当。

 みんなで纏まって何かを成し遂げようとすることが、竜には向いていないようだった。

 きっと時間通りにこの場に来てくれただけでも上出来なのだろう。

 

 シェイラは外れている竜達にもそれぞれ声をかけ、必死で説得し、改めてみんなに集まって貰ってから、説明をする。


「えーと、今は目立たないためにも全員人間の姿で集まって貰っていますが、それぞれのグループで一匹だけ素の竜の姿になった状態でこの森の中に散っていただきます。それにおびき寄せられた人間たちを、周囲に隠れて潜んでいた竜達みんなで囲って捕縛、という流れです」

「なるほどなるほど」

「良く分かった」

「楽勝だな」

「うむうむ」


 とても大げさに頷いて見せる竜達に、シェイラは不安を覚えた。


「てっ、適当な返事にも聞こえますが……。あの、数が予定よりずっと少ないので、今日は三組だけにしましょう」

「おぉ。そうだな。三組な。まぁいけるいける!」

「うん。間違いない」

「とりあえず冒険者ぱってい? っていう人間を捕まえればいいんだろぉ?」

「パーティーだってば」

「あはははは!」

「分かりましたか!? 大丈夫ですか!? 本当に気を付けてくださいよ!?」


 失敗すれば命をも奪われるかもしれないのに。

 とっても適当で、とっても軽い様子だった。

 

「大丈夫かしら……ええと、ではみなさん。よろしくお願いします。くれぐれも怪我はしないよう……本当に危険ならすぐに逃げてください」


* * * *


 しばらくして三組に分かれて皆が散っていったあと、そのうちの一組となったシェイラも人間を誘き出す為に竜の姿へと身を変える。


『山の中で、それも真冬だからな。竜の身体を収められるところはそう多くはないか』

「グオ」


 相変わらず子供の姿をとっているカザトが、潜んだ木の上から竜術で言葉を乗せた風を送り込んでくる。

 頭に響く彼の声は他の風竜たちと比べて緊張感のあるもので、シェイラはほっと安心出来た。

 ただし風に乗せて送って貰った言葉の返事になる竜術をシェイラは使えないので、「グォ」と頷いて返すしかない。

 竜の時に意思疎通が出来るように早くなりたいものだと思った。


 そもそも、この辺りの山の地形にシェイラは詳しくない。

 人を誘き出す為に待機する場を考えるのはカザトと、そして今一緒にいる数匹の竜に任せるべきだろうと思ったので、彼らが場所を決めるのを小さくなってしばらく待機することにした。

 少しして、カザトと他の仲間たちの協議によって決まったらしい場所をまた風に乗せられて知らされる。


 そうしてたどり着いたのは大きな滝の傍だった。

 頭上から心臓に響く程に大きな音を立てて、底の見えないほど深い滝つぼの中へと水が落ちていく。

 その滝つぼを囲む川岸で、シェイラは休息をとっている竜のふりをして囮となるのだ。


「グゥ」


 首を伸ばして、川の中に直接口をつけてみることにする。

 近づいて見た波紋に揺れる水面には、竜の姿の自分の顔が写っていた。


(考えてみれば竜の姿の自分をまじまじと見たことはないかも。全身映る鏡なんてないし。竜の時の私ってこんな顔だったのね……あ、お水おいしいわ)


 この真冬でも川が凍ることは無いようだが、水はキンと冷えていた。

 とても冷たくて、飲み込んだあとに胃の奥にひやりとした感触を感じる。

 それでもとても澄んでいて、柔らかな美味しい水だと思った。


「グォォォォ」


 喉を濡らしたシェイラは大きく息を吸い、なるべく遠くまで響くように喉を反らして、大きな鳴き声を出す。

 いつどこから竜狩りをする人間たちが放つ矢が飛んでくるかと想像すると恐怖で震えそうだけれど、周囲の木の上や岩陰には、人の姿になった竜達が隠れて警護してくれているはずだ。

 さっきは適当な様子だったけれど、シェイラは彼らを信じている。

 少なくともカザトはきちんと見てくれていると、それほど長い年月を一緒にいたわけでもないけれど思っていた。

 彼は、絶対に信頼出来る。

 だから大丈夫だと、シェイラは大きく鳴き声を響かせ、白い翼を大きく広げバサバサと羽音をたてながら川の水を纏わせ跳ねさせて遊ぶ。


「グォ! グオォ! グォォォーーー!」


 山の隅々にまで響き渡るように。これ以上大切な竜を傷つけないでと願いながら大きく喉を反らすのだった。



* * * *



 ――竜狩り専門のパーティーを捕縛するための(おとり)作戦が始まった頃。


 アシバに連れられ預けられた先の子竜の巣の中からあっさりと抜け出した二匹が、何やら動き出そうとしていた。


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