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竜の卵を拾いまして  作者: おきょう
第五章

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幼馴染み③

※本日2話分更新の予定です。

読み飛ばしにお気を付けくださいませ。

こちら1話目です。

「うわー! 髪、真っ赤だな! これだけ見事な赤毛って珍しくないか?」


 シェイラが連れて来たココとスピカに、ニコルは何が面白かったのか大笑い。

 ためらうこと無く手を伸ばし、二人の頭を乱雑に撫でた。


「おー! あははは!」

「まっ、まぁー!」


 ココはぐらぐらと頭が揺れるのが面白いのか一緒に大笑いしているけれど、スピカはやはり涙目だ。


「こら、ニコル」


 気づいたシャーロットがニコルの腕を引いて止め、椅子から立ち上がると身をかがめて二人に視線を合わせた。


「こんにちは」


 幼い子供に向けるための柔らかな声音で、優しくほほ笑みながら話しかける。

 お調子者のニコルと一緒に育った為に、シャーロットはとても面倒見が良い子になったのだ。


「私はシャーロット・オレンジよ。シャーロットって、呼んで。仲良くしてね?」

「……す、スピカ」

「こんにちは! ココです!」

「ココとスピカね、よろしく。あれは弟のニコル。乱暴してごめんなさい」


 シャーロットもそっと、ココとスピカの頭に手を伸ばす。

 今度は優しい、(いつく)しむような触れ方で、スピカも安心したらしい。

 黒い瞳に涙のなごりを残しつつも、ふにゃりと表情を崩して笑ってみせた。


「ううん。びっくりした、だけ……」

「ココはおもしろかったー!」

「そう、良かったわ」


 ココとスピカの挨拶が済んだところで、シェイラは自分の席の両側にココとスピカを抱き上げて座らせた。

 高さを合わせるために、事前に硬めのクッションを何枚か重ねて椅子に敷いている。

 テーブルは六人がけ。

 片側にココとシェイラとスピカが順に腰掛け、向かい側にはシャーロットとニコルが並んでいる。

 空いているもう一つの席……シャーロットの隣に、ユーラが座る予定だ。


「―――で、二人はどこの誰?」


 全員が腰を落ち着けたところで、ニコルが疑問に思って当然のことを口にする。


「そういうのは、相手が言わない限りは聞かないという心遣いをするべきだと思うの」


 シャーロットは眉をひそめ、ニコルをたしなめた。

 テーブルの向こう側だから見えないけれど、ニコルの表情からするとシャーロットが足を踏むかどこか抓るかしたらしい。

 しかしニコルは一切(こた)えてはいないようだ。


「えー? だって気になるじゃん。親戚の子? シェイラ」

「親戚、ではないわ」

「まさか知らない間に子供を産んでいたとかはないよなぁ。会わなかった期間を考えると、不可能じゃないし」

「もう、やめなさいよニコルっ」

「……産んでも、いないわね」


 シェイラは苦笑を浮かべながら首を振り、考える。


(うーん……どこまでなら、言っても良いかしら)


 ニコルとシャーロットは幼いころからずっと一緒にいた、信頼できる友人だ。

 何を知っても、不用意に他人に広めることは無いはず。

 もっともニコルにいたっては嘘が苦手な子だから、誰かに聞かれれば誤魔化すことは難しいような気もするのだが。


(でも、変なことに竜を使おうとは絶対に考えないでしょうし……。警戒しすぎて隠し事ばかりなのもココとスピカが動きづらくなるだけだし。――うん、大丈夫)


 決意したシェイラの、膝の上に置いた手に自然と力が入った。

 

「シェイラ、ニコルの言うことは気にしないで、嫌なら嫌って、」

「……でも、私の子よ」

「「は?」」


 シャーロットの言葉をさえぎる形になってしまった、その台詞に双子は固まり、目を丸める。


 二人はその顔のままゆっくりと顔を見合わせ、おそるおそる、口を開き。

 同時に、同じ言葉を放った。


「「……もしかして、竜の子だったり?」」


 今度はシェイラの方が驚き目を丸める。

 いつ、どこで、彼らはココとスピカを竜とつなぎ合わせたというのだ。

 今日、彼らを出迎えてから一度だって『竜』という単語は出していないのに。


「ど、どうしてそう思うの?」

「どうしてって、……シェイラ、貴方は自分が今、世間で注目の的だって自覚がないのね」

「え?」

「しぇーら、ゆうめいなの?」


 ココが赤い目を瞬かせて首をかたむけた。

 シャーロットはココとスピカにむかい大きく頷く。


「それはもう。あの有名な火竜ソウマ様の恋人の令嬢だと、社交界での噂の的になっているわ」

「う、わさ? え? どうして?」


 意味が分からず呆けていると、背後からくすくすと笑い声が聞こえた。

 振り向くと着替えを済ませたユーラが笑いを漏らす口元を両手で押さえながらこちらに寄ってくるところだった。

 予想していたよりもずいぶん早い。

 とても急いで身支度してきたのだろう。

 彼女のまとう若葉色のシフォン素材のドレスとリボンは、とても似合っている。

 ユーラはそのまま、空いていたシャーロットの隣の席に着いてから説明をしてくれた。


「お姉さまは城からもストヴェールからも離れていたから、知らないのかしら。ほら、ソウマ様がたくさんのお客様の前でお姉さまとの関係を公表したじゃない」

「ああ……王都の屋敷でのパーティでのことね」

「そ。ソウマ様は有名な竜だから、お相手のお姉さまのことも一気に皆の注目のまとになってしまったのよ」


 たくさんの人の前で知らせることになったから、王都の貴族間では知れ渡っているだろうとは思っていた。

 しかしそんなに噂をされたり、注目をされたりというような状況になっているとは、知らなかった。

 それだけ人間と竜の恋とは、一般的には知られていないとても珍しいことなのだろう。

 

(しかも相手が、第二王子アウラット様の契約竜……この国で一番有名な竜だものね)


「このストヴェールにも、王子殿下の契約竜と子爵家の令嬢のシェイラの話はすぐに伝わってきたわ。うちは貴族ではないけれど、貴族のお客様がたくさんいるし、流行に乗り遅れないように人様の話には敏感ですもの」

「俺は良く分かんねぇけど。まぁ女の人たちが王子の契約竜との恋を羨ましがってるような話は良く聞くなぁ」

「そう、なのね……」


 まさか王都だけではなく、ストヴェールにまで話が広がっているとは。

 これはもう国中に知れ渡っているということだろうか。

 注目を浴びることが得意でないシェイラは、知ってしまったこの状況に目眩を起こしそうになった。


(どうして、人前でソウマ様とのことを宣言してしまったのかしら)


 あの時は、ソウマとの仲違いが修復した直後で色々と気分が上がっていた。

 だから普段にはない調子で、人前での恋人宣言なんて素敵、だなんて大胆な考えにいたってしまった。  

 シェイラは調子に乗っていた自分の行動が今ごろ恥ずかしくなってきた。

 時を戻せるのなら、是非ともやり直したい。

 

 赤く頬を染めうつむくシェイラに、ニコルが口を開く。


「つまり、その二匹ともが竜の子ってことで正解なわけだ? まあこれだけ見事な赤い髪はそうそう見られないし、スピカの方も有り得ないくらいに綺麗な子だし、人間じゃないって言われた方が納得できるな」

「ニコル……賢くなったわね」


 しばらく見なかったうちに、あっさりとそこにまで考えを繋げられるほど、彼は成長したのだろうか。


 記憶にあるかぎり勉強は出来るタイプではなかったはず。

 しかし考えてみればやけに勘が良く、勉学とは別の意味で頭のまわるところがあった気もする。

 シェイラもまだまだ子供だったから、ただ気付いていなかっただけなのかもしれない。


「そうか? ―――で、竜だっていってもシェイラとソウマ様の子、というわけでは……ないのなら、その子たちは一体?」

「この子達は、卵のころから縁があって、私の目の前で孵化したの。そのまま私が親代わりとして育てているのよ」

「へぇ……!!」


 自分自身は白竜であることは、とりあえず今の段階では言わないで置くことにした。

 シェイラと子竜達だけの問題ではなく、ストヴェール子爵家の家族皆の血の話になるから、巻き込む人数が多すぎる。


「なるほどなぁ。ま、とりあえず二人が何なのは分かったし、お互いに挨拶も済ませたし、ユーラも来たし、もういいよな?」


 ニコルが言うよりも早く、チョコでコーティングしたドーナッツに手を伸ばす。

 

「あ、お茶……!」


 そこでシェイラはもう結構な時間が経っていたことに気付いた。

 慌ててティーポットの横に置いておいた、蒸らし時間をはかる為の小さな砂時計を見ると、とっくに砂は落ち切っている。


「あぁ……ごめんなさい。少し濃いかもしれないわ」

「ミルクティーなんだし、もっとミルクを足せば問題ないわ。シェイラ、蓋をあけて? 私がミルクを注ぐわ」

「有り難う、シャーロット」


 ポットの口を開くと、濃く抽出された紅茶の良い香りがただよった。

 湯気のたつ中へとシャーロットがゆっくりミルクを注いでいく。

 注がれる勢いでポットがずれないようにと手で軽く抑えるシェイラだったけれど、服の裾をココが引いて声をかけてきた。

 

「しぇーら、おれ、くっきーがいい!」

「ちょ、っと、待ってね」


 今手を離せば、やけどをしてしまうかもしれない。

 ポットを倒してしまえば子供たちが熱い紅茶とミルクをかぶってしまう可能性さえあるのだ。

 危ないから。だから少し待って、と冷や汗をかきながらお願いしたシェイラを、立ち上がったユーラがこちら側へ回ってきてくれて助けてくれる。


「私が取ってあげるわ? どの形がいいかしら」

「ゆーら! ありがとー、ええっと……ほしの!」

「はい。星の形のね。お花のもどうぞ。スピカはどれ?」

「んー、スコーンがいいなぁ。しろいほう」

「スコーンね。クロテッドクリーム? それともハチミツ? ジャムがいいかしら」

「はちみつ! あ、くりーむもつける!」


 ……そうして、ミルクたっぷりの紅茶とたくさんのお菓子を楽しみながらの、お茶会が始まった。



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