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竜の卵を拾いまして  作者: おきょう
第一章

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人と竜の恋の果て①

 ココが人化の術を覚えてから、すでに二か月あまり。

 たまに竜を狙う人が来るらしいと聞くけれど、ココのもとまでたどり着く前に排除されていて、目に見える範囲ではとくに大きな物事もなく平穏な日々が続いていた。

 ココは順調に育ち、ある程度の力の調整も出来るようにもなってきている。

 

 そして空の塔の11階。

 ジンジャーの研究室兼住居で、今日もシェイラは授業を受けていた。


「しぇーらぁ。おそといきたいー」


 本棚の前でジンジャーに説明をうけていたところ、スカートのすそを引っ張られた。

 足元をみるとココが期待に満ちた瞳をこちらに向けている。

 つい今さっきまでソファーで寝ころびながら絵本を読んでいたはずなのに。


「授業が終わったらお庭で遊びましょうね」


 シェイラがココの頭を撫でながらそう言うと、ココは怒ったように頬を膨らませる。


「いやっ。おにわじゃないの!」

「……どういう事?」


 絵本に飽きて庭遊びがしたくなったのだろうと思ったのだけど、どうやら違うらしい。

 首をかしげるシェイラに、ジンジャーが優しい声をかける。


「城の外に行きたいと言うことではありませんかな?」

「外へ?そうなの、ココ」

「そうなのー」

「そう…外へ……。今までは私の肩の上にばかり居たのに」


 2本の足で歩けるようになったココは、それまでシェイラの傍から離れようとしなかったのが嘘のように行動範囲を広げていた。

 羽を使ってどこへでも飛んでいけるから、一瞬目を離せばいなくなっている。

 最初は慌てたものの、アウラットには警備は強化され安全だから放っておいても大丈夫と言われた。

 城中の衛兵や侍女にも通達をし、城の中にさえ居るならば誰かしら見守ってくれているように手配もしてくれているらしい。

 たとえまた何か怪しい人が居ても今ほどに成長して、火を吐ける様になったのなら、よほどの者で無い限りココが自分で退治できるだろうと。


(確かにあんなに大きな火の玉を吐けるのなら、大抵の人には負けることもないでしょうけれど)


 ココにも城壁から外へだけは行かないようにと毎日のように言い聞かせていた。

 それでもシェイラは1時間もココの姿が見えないと何かあったのではと居てもたってもいられなくなってしまう。

 過保護だとわかりつつ、ココを探して城中を駆け回っている毎日だ。なんとなく筋肉が付き、体力も続くようになった気がする。



 城の外でココを狙ったものが現れたとき、はたしてシェイラはココを護れるだろうか。

 何の武術も会得していない、ごくごく普通の貴族の娘として育った身でそれが不可能なのは自分でも自覚しているし、もちろん他の誰からみてもわかるはず。

 だからと言って大がかりな警備はココが自由に遊べなくなって、わざわざ外出した意味もなくなってしまう。

 そもそもが人と竜の契約で、よほどの理由がないかぎり竜の行動を縛ることは禁じられているはずだ。

 ココに一人で城壁の外へでてはいけないと言い聞かせることは、そのよほどの理由に含まれている。安全を守るために必要だった。


「実家へ顔をだすくらいなら問題ないのでしょうけど。ココは広い場所を飛び回りたいのよね?」

「うんうん。たかくたかくとびたいの」


 ココが両手を大きく上げてぴょんととび跳ねる。


「……どうしようかしら」


 渋い顔をして思案しているシェイラへ、ジンジャーがある提案を示してくれた。

 もう今日の授業は終わりとばかりに、深いしわの刻まれた手で持っていた古い書物を閉じながら。


「ソウマを付けられてはいかがですかな?」

「ソウマ様ですか?…確かにソウマ様が居れば安全ですし、ココも良く懐いているから理想的ですけれど。でもアウラット殿下の側に仕えているお方をお借りするのは図々しすぎるのでは」

「問題ありません。断る理由もないですし、大丈夫でしょう。とにかくソウマに相談してみなさい。」

「だいじょーぶ。だいじょーぶ。そーまといっしょに、おそとっ!」


 ジンジャーが笑顔になってそう進めてくれた上、ココも外へ出ることを諦める気配がない。

 シェイラは授業を終えたその足でソウマの元へと赴くことにした。


* * * *


「じゃあロワイスの森にでも行くか」

「やったぁ!」

「有難うございます。ロワイスの森?確か首都の東側にある森のことでしたよね」

「そう。あそこはアウラットが所有している土地だから一般人は入れない。ココの角や翼を認めて何か言われることもないからな。俺が居れば護衛なんて必要もないし」

「あ」


 気軽に引き受けてくれたソウマに言われて、ココの背中に生えた翼が珍しいものなのだとシェイラは思い出した。

 見慣れてきて忘れがちだけど、竜を連れていたりすれば注目を浴びるのは当たり前だ。


「ソウマ様。やはりココの角や翼は隠したほうが良いのでしょうか」

「いや、別にみられてもいいんだけど。むしろ喜ばれるし。ただ拝まれたり感動のあまり号泣されたり、祝福を授けてくれーって懇願されたりされて面倒だから、人間の集まる場所じゃあ大体の竜は人の振りしてるんだよ」


 ココを肩に乗せて肩車しながら、ソウマは苦笑した。


「それは戸惑いますね……」

「祭りとかの催しものになると結構な数が紛れてたりするんだけどな。遊びにいくなら、注目されるのは避けたいたいだろ?」

「だろぉ?」

「おいココ、真似すんな」

「まねすんなー」


 ソウマの言う通り、遊びに行こうとしているのに囲まれて足止めされるのは喜ばしくない事態だった。

 注目を受けるのも崇めたてられるのもココなのだ。

 見知らぬ人が大勢いる場所では、怯えたココが困惑し、自己防衛のために力を使いかねない。


「そうですね。ではロワイスの森に。ご迷惑をおかけして申し訳ありません。どうぞよろしくお願いします」


 シェイラは頷いて、他人に会う心配のない、アウラット所有の森へ連れて行ってもらうことにした。

 ココを宙に持ち上げてひっくり返して遊んでいたソウマは、歯を見せてにっと笑う。


「おう。…あ、でも今からだと到着する頃には日が沈んでるな」


 ロワイスの森は王城から東へ3時間ほど行ったところにある。

 首都である域とは少し離れていた。


 往復の移動時間を考え、尚且つ幼い子に負担のないようにと、話し合った結果1泊することになった。


「森の近くの町に泊るのですか?」

「いや。森を巡回をする奴らが使う小屋があるんだよ。簡素な建物だけど1泊くらいなら問題ないだろう」


 ココは今すぐ行きたいと駄々をこねていた。

 けれど流石に泊まりとなると着替えなどの準備が必要だ。

 出発は翌日の朝早くに決まった。



* * * *



 そこは一般人の立ち入りが禁止されている、ロワイスの森と呼ばれる王族の私有地。

 樹齢数百年はたっているだろう大きな木が生い茂り、岩の隙間から湧き出た清らかな水が幾つもの小川を形作っている。

 首都の近くにありながら、人の手の入らない自然のままの姿を保った場所だ。


 ―――ひときわ高い木の先端近い枝に腰を下ろし、幹にもたれかかるような姿勢で眠る男が居た。


 頭部の高い位置で結った髪は深い藍色。

 髪を束ねる結い紐の位置に付けられた赤い羽飾りが、風を受けて時折揺れていた。

 どこからともなく降り立った小鳥3羽が、肩に止まり。

 幹を伝ってやってきた栗鼠(りす)(ブーツ)の先にすり寄った。

 自身に戯れる小動物に気づかないのか。または興味がないのか。

 寄ってくる小動物にかまうこともなく、男は落ちればひとたまりもないだろう高さの枝の上で彼は心地よく睡眠を続けている。


 人間の近寄らないロワイスの森は、この男にとって心地の良いの場所だった。



(――――馬の(いなな)きが聞こえるな)


 ガタガタと騒がしい車輪の走る音が徐々に近づいて来たかと思えば、ちょうど男の眠る木の直ぐ下で止まった。


 肩に乗っていた小鳥たちが鳴き声を上げながら空に飛び立つ。

 栗鼠も驚いたように小さな体を跳ねあげて、素早い動作で逃げていった。


「……なに」


 うっすらと目を開けると、木々の隙間から指し入る日の光が眩しく感じた。

 見上げた太陽の位置から、どうやら日が昇ってそれなりの時間がたっているようだ。


 それでもまだ寝たりない男は睡眠を妨害されたことに眉を寄せてあからさまに苛立った。

 小さく舌打ちをしてから、気持ちの良い時間を邪魔した奴を一目確認しようと、遠い地上を見下ろそうと身を乗り出す。

 身軽な動きでくるりと身体を返し、膝を枝に引っ掛け蝙蝠(コウモリ)のように逆さにぶら下がった。


「うん?火竜が2匹か」


 竜の気配があることに気づいて、男は僅かに金色の目を見張る。


「んーと。ソウマと…あと、誰?やけに小さいんだけど」


 安全で居心地のよい里を出る竜は多くは無い。

 なによりも彼のように一匹で気ままに広い世界を渡り旅する竜にとっては、知っている竜と偶然に再会出来るのは珍しいことだった。

 だからソウマの連れにも興味がわいた。

 男は自分の気配を()で余所へ逃がし気付かれない様に細工を施すと、枝に逆さ宙吊りになった姿勢のまま、なんとなく彼らを観察することにした。



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