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竜の卵を拾いまして  作者: おきょう
第四章

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白竜の力②

「ソウマ様っ……」


 シェイラは真剣な、強い意志をもった眼差しを真っ直ぐにソウマに向けた。

 そんな彼女の、普段よりも凛とした印象を受ける姿にソウマは僅かに驚いた顔をしたあと、すぐに首を傾げ、どうしたのかと言葉の続きを促してくれる。


「私さっき、あの精霊の力を消したのですよね」


 ソウマとパーシヴァルがそう言っていたものの、シェイラ自身は混乱してばかりで周囲が全く見えていなかった為、確認が出来なかった。


 でも、彼らの言うことが本当ならば。

 白竜の能力が竜や精霊を形成する、世界に満ちる目に見えない力を弾き返したり消したりすることが出来るものならば。

 遥か(いにしえ)の時代に白竜が、四種全ての竜の争いの中に飛び込んでおさめてしまった理由がついてしまう。

 シェイラは早なる自分の心臓の音を意識して落ち着ける為、ゆっくりと長く息を吐いた。


「これが……私の、力なのだったら……」


 白竜の力が世界に漂う目に見えない力を弾いたり消したりするようなものなのだとしたら。


(―――上手くいく保証なんてないわ。けれど)


 出来るかは不確かだ。

 でも、とシェイラは開いていた手を握りこんで力を込める。

 白竜の力を使えば、この精霊たちが纏う『禍々しい何か』を打ち消すことが出来るかもしれない。

 木の陰で痛くて怖くて泣いているココ。

 苦しみながらも必死で戦ってくれていたソウマとパーシヴァル。

 苦しみ消えていく精霊達と、無理やりに姿を変えさせられ狂気に染まった精霊達。そんな彼らに今までのシェイラは、何も出来なかった。


(これでなら皆を、私が守ることが出来るかもしれない)


 ―――それはずっとずっと、生まれてから今まで守られる側(・・・・・)だったシェイラが生まれて初めて 『戦う』ことを意識した瞬間。

 ココを狙う人に無意識で立ち向かったこともあったけれど。

 あんな訳も分からずに咄嗟(とっさ)に動くのではなく、明確に自分の意思で『戦う』こと。

 自分の意思で、何かに立ち向かうこと。

 控えめであまり主張することの無かった性格のシェイラにとっては、人生で初めてのことだ。


「…………ソウマ様」

「おう」


 意思を固めたシェイラが再び顔を上げると、ソウマがわずかにこちらに視線を寄せ、満足気に口端を上げた。

 彼はシェイラが考えている間にも青い炎を操っていて、弱った黒い精霊たちを退治していた。


「シェイラ? 君は一体何なんだ? 俺の知っている竜の力のどれにも当てはまらないように見えるんだが」

「…………」


 困惑したふうなパーシヴァルに対して、シェイラは言葉ではなく、己の身をもってして答えることにする。


 僅かに瞼を伏せ、意識を背中へと寄せ―――肩甲骨の辺りに力を込めた。


「つっ……」


 ふわりと広がる、幾分か慣れた翼の感触。

 ゆるり。雪のように白く染まった髪が風に靡き、鋭さを増した竜の瞳が現れる。

 

 艶やかな鱗に覆われた白い翼に、パーシヴァルは目玉が零れ落ちんばかりに目を丸めて驚愕し、はくはくと音にならない音を唇から漏らしていた。


「なっ、はく、りゅう……?」


 ようやく掠れた声で紡ぎだされたその言葉は、驚きに満ちていた。

 シェイラは黙っていたことへの心苦しさから眉をさげて苦笑を浮かべつつ、口を開く。


「パーシヴァル様。ココとスピカの傍にいてあげて貰えませんか」


 そう言ったあと、周囲に舞う精霊達の中、黒くそまった何匹かの精霊達を見上げる。

 赤く狂気に迫った精霊の目と視線があっても、シェイラはもう怯むことなく彼らを見据える。

 パーシヴァルの手に有る、ストヴェール家の家紋の刻まれた短剣は、既にソウマが纏わせた青い炎は消え、良く知った鉄の銀の輝きをもつ、ごく普通の短剣になってしまっていた。

 人間の彼が普通の剣ではもう戦うことは出来ない。

 パーシヴァルは手の中の剣と、少し離れたところにいるココを交互にみてから、シェイラへ向かって頷いた。


「わかった」

「あと。出来ればその大剣も一緒に持って行って、可能な限り離れてください」

「そうだな。これ以上は人間の俺が立ち入れる領域じゃない……せめてこれ以上の悪化を防ぐために剣とあの子たちを連れて出来るだけ、離れるようにする。」


『ギッ……』

『キィ、キッ!!』


 シェイラ達の会話の間に、また黒く変化する精霊が増えて来た。


「来るぞ」


 ソウマが唸るような声で、シェイラとパーシヴァルに警戒を促す。 

 増えた黒い精霊達は、まだこちらを警戒するふうに様子をうかがっているが、直ぐに攻撃に入るのだろう。

 パーシヴァルは、精霊達の様子を何度も確認しながら、シェイラが持ち上げることさえ出来なかった大剣を片手で持ち、軽々と背中の鞘に通してからココの元へと走りだす。

 その彼の大柄な背を見送りつつ、シェイラはソウマへと声をかけた。


「ソウマ様。竜の力ってどう使えば良いのですか。力の使いかた、全然分からなくて」


 どうすれば良いのかと彼へ尋ねれば、ソウマは背中に翼を生やしたまま、隣からシェイラの手を取った。

 熱を持った大きな手に包まれ、張りつめていた気に幾らか余裕が生まれた。


「手伝う」


 言うと同時に、彼の手と繋がれた手元に、身体の中にある力が寄り集まってくるのがわかった。


「これ……」

「覚えてるだろ?」

「はい」


 シェイラは、ソウマがくれたネックレス――竜の加護へのお返しにと、自分の中から力を引き出して、白い鱗を凝縮化させた指輪をだしてくれた時のことを思い出し口元をほころばせた。


 その白い石の埋め込まれた指輪は、今もぴったりと彼の左手の薬指に収まっている。

 おそらくソウマはあの時と同じように、シェイラの竜の力を引き出す為に、繋いだ手のひらから促してくれているのだ。


「自分の中の力に集中して、力を集めて。数が多いから、周囲全体に広げるように放てたらいいんだけど、出来るか?」

「やってみます」

『ギッ……』


 精霊の一匹が、黒い炎を作り出して攻撃して来た。

 シェイラはびっくりして身を固めたが、すぐにソウマが空いた方の手を振り、出した青の炎で払ってくれる。

 シェイラの手を取り、力を引き出すのを手伝ってくれながら、ここまで出来るだなんて。

 聞いたことはなかったけれど、もしかしてソウマは火竜のなかでもずいぶん力が強い方になるのだろうかと、心の端で思いながらも自分の力に集中する。


「っ……」


 じわじわ。じわじわと、身の内に渦巻く力が強まるのを感じた。

 意識すればするほどに全身に熱が巡り、額とつないだ手に汗が滲みだす。

 手の中の一点に、集めて集めて、一つの球状の力の塊を作り出すイメージでシェイラはその塊を大きく大きくしていった。

 力の塊は集めるほどに濃く色づいていく。

 次第に淡い白い光の玉として目に見えるようになった。


「今、です」


 シェイラは集中するために伏せていた瞼を上げ、塊が破裂する寸前であることを小さな声で伝える。

 ソウマが頷き、繋ぐ手にきゅっと力が込められたと思った瞬間。

 

 白竜の力の塊は、火竜の力の僅かな刺激を受け、「パンッ―…!」と乾いた音を鳴らし破裂した。


「っ……!」


 予想以上に大きな音にシェイラは肩を竦める。

 破裂と同時に四方八方に白竜の力が周囲に解き放たれ、森の中、木々の間を抜け果て無く広がっていく。


『ギッ……!!!!!!』

『ギィッ!? ギッ!!!!』

『キッキーィー……!!』


 放たれた力に触れた精霊達は、総じて驚きと混乱に動きを留めた。


 さらに注ぎ続ける白竜の力に、黒く染まっていた精霊達の姿は光の粒となって消えていく。

 まだ完全に変化していなかった精霊達は、心地よさそうに身を任せていた。

 苦しみ地に落ちていた精霊達は、力を取り戻し再び宙に舞い始める。


(―――もっと、もっと私が早く力を扱えていたなら、もっと沢山の精霊を救えたはずなのに)


 シェイラは苦々しい気持ちで、光の粒となり大気に消えていく黒い精霊達を見送るのだった。

 

  

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