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竜の卵を拾いまして  作者: おきょう
第四章

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精霊と竜①

「ソウマ様。もしかしてどこか当てがあるのでしょうか」


 森の中をあまりにも迷いなく、どんどん進んでいくソウマに、シェイラは不思議に思って声をかけた。

 振り返ったソウマは何度か赤い瞳を瞬かせたあと。

 へらりと、力の抜けるような笑顔をうかべて返す。


「まったく」

「ま、まったくですか……」

「おいおい。大丈夫かよソウマ」


 パーシヴァルが後頭部を掻き撫ぜながら、あきれた風に細めた目を流してくる。

 

「パーシヴァルさん、付き合っていただいてしまってすみません」

「いやいや。小さな子が居なくなったってのに探さないわけにはいかないだろう」

「有り難うございます」


 ココとスピカが居なくなったことを里の皆に知らせても、やはり誰もが「そのうち帰ってくるだろう」と、どうしてシェイラが慌てているのか理解できないという反応だった。

 しかし中には一緒に心配して協力してくれる水竜も、確かにいた。

 そして冒険者たち三人も、快く手をあげてくれたのだ。

 

 誰が何をするかを改めて話し合った結果、クリスティーネを含む何匹かの水竜はやはり空から。

 シェイラとソウマとパーシヴァルは空からは見渡しにくい森の中を、レオとローリーは別行動し、同じく空から見渡すことの難しい洞窟を周ってくれることになったのだ。

 

 そしてシェイラ達は三人で森の中に分け入っているわけだが。

 一つの見逃しも無いようにと気を張っているシェイラに反して、ソウマは気楽にどんどん進んでいく。


「もっと慎重に探した方が良くありませんか? 草陰で小さくなっていたりしたら目に付きづらいですし」

「だって、近くにいるなら気配で分かるだろ。大丈夫だって」


 竜の気配を探れるソウマの意見に反論できず、シェイラは口をつぐんだ。

 竜の気配という感覚が、どうにも良く分からなくて、唇を少し突き出してしまう。

 だって気配で探ることは、自分には出来ないから。


(竜の気配、ココでもわかるのに。私が出来るようになるのは一体いつになるのかしら)


 歩きながら、シェイラはため息を吐く。

 スピカには個人差があるのだから気にする必要はないなんて綺麗事を言っておきながら、いざ自分に必要になったとたん、その力が欲しくてもどかしくなる。

 もしもシェイラが気配を察することが出来たなら、ココとスピカが自分から離れて行ったときに気づけたかもしれないのに。


「誰かにさらわれた可能性もほぼない。水竜の性格からいって、気に入らねぇなら誘拐なんて面倒くさいことしないだろうし。そんなに心配しなくて大丈夫だって」


 落ち込むシェイラを励ます為か、ソウマはことさらに明るく笑う。

 そんな会話を聞いていたパーシヴァルがふと口を開いた。


「人間の可能性は本当にないのか? 島の外に出たとかも、可能性は低いとしても探すべきじゃないか?」

「海岸には術が張り巡らされていて、人間や竜の出入りはすぐにわかるんだ。島だからそういうのはやりやすいんだよ。俺ら火竜の里では隆起が大きすぎて常にってのはちょっと出来ないんだけど」

「へぇ? 同じ竜でも違うもんなんだな」

「そう。でもだから、水竜の里では外にでたら報告が入るはずで、その術をかいくぐってっていうのは本当に考えにくい。今いる唯一の人間であるパーシヴァル達は、朝まで俺と飲んでたし、疑う必要ないしな」

「え、そうなのですか?」


 彼らの会話に、シェイラは顔を上げた。


「あぁ。シェイラは何だか大変そうだったから誘わなかったんだが」

「あの後、パーシヴァル達の借りてる家に邪魔して、飲んでた」


 朝まで一緒だったならば、パーシヴァルたちの誰かが子ども達をかどわかしたという僅かにあった可能性はゼロになった。

 やはり、ココとスピカは自主的に出て行ったので間違いないのだろう


「ローリーは結構早くに寝てたけど、見える場所に転がってたし。パーシヴァルとレオは朝まで酒を交わしていたから人間の可能性は皆無。つまり自主的に飛び出してった、あぁ要は家出だな!」

「い、家出……」

「だろ?」

「う……、確かに…、家出……」

「はいはーい。反省はあとなー。」

「………」


 ココとスピカが居なくなったことで動揺し続けているシェイラの為、さきほどからソウマは普段より一層軽く明るい口調で話してくれている。

 落ち込みそうな流れになればこうして直ぐにそれ以上沈まないように流してくれた

 彼の気づかいも分かるし、落ち込んでいる場合でないとも分かっている、

 でも、シェイラは彼のように明るくはなれない。

どうしてもうじうじと気分を落としてしまうのだ。


「出て行くなんて、私の顔を見たくもないってことかしら」

「はは!」

「どうしてそこで笑うんですか……」

「だって、有り得ない心配してて面白い」


 ソウマに笑われながらくしゃりと髪を撫でられた。

 大きな手の重みを頭に感じつつ、おずおずと彼を見上げて尋ねてみる。 


「ココ達が森の中に入った可能性は大きいのでしょうか」

「ん? んー……。どうせココが率先してスピカを連れて行ったんだろうし。だったら火竜の本能的に、暗くてじめっとした洞窟は避けるかなぁと」


 彼は生い茂る葉の向こう側を見透かすかのように、目を細めて上を見上げていた。


「空からはもうクリスたちに任せてるし、俺らが地上から探すとしたら森が一番可能性が大きいと思う。まぁそれでも見つからないとするとやっぱり洞窟だけど、これは今使って無いのも含めると無数にあるからなぁ……」

「…………」

「…………」


 ソウマの語尾がにぶり、シェイラとパーシヴァルが無言になるのは、洞窟だけはあってほしくないからだ。

 ローリーたちに調べはじめては貰っているものの、竜の住処として掘られた洞窟が、この島には無数に存在する。きりが無い。

 


水竜が原因で焼いて怒っているなら、水竜のいるところは絶対避けるだろうとも思う。

そうすると川もだめ。湖もだめ。集落も広くはないから水竜の目の届かないところなんてそうそうない。


「……まぁ。ほらほら、シェイラ前歩いてみ?」


 考え込んでいるシェイラの手を引き、ソウマは自分より前へとシェイラを促した。


「え、私? 私が前に出ても仕方がないのでは。ソウマ様が気配を探って下さらないと」


 森の中を歩きなれていないシェイラが率先してもどうにもならない気がする。

 困惑して首だけで振り返ろうとしたとき、耳元に背後のソウマの熱い息が微かにかかった。

 思わず小さく肩を跳ねさせたシェイラに、彼は小さく、低い声でささやく。


「導きの竜の力に、頼ってみようかと」

「は? ほ、本気ですか」


 パーシヴァルが居るので小声で返すと、ソウマは大きくうなずいた。


「それは……」


シェイラは自信なさげに眉を下げる。


(私が、ココとスピカの元まで導けるとでも?)


 一応飛ぶことはできるにしても、火竜や水竜のように、目に見えて分かりやすい力はまだ一度も使えたことはない。

 そもそも白竜の力がどんなものであるかでさえ、よくわからない状況なのだ。


(争う竜達を留めることができるような、力って、どんなものなのかしら)


 戦いになるとすればおそらく火竜は炎を吹き、水流は氷の刃を飛ばす。

 そんな強大な力を操る何匹もが飛び交う争いになるのだろう。

 古の時代に白竜がしたと聞くように、彼らを鎮めることが、自分にできるとはとても思えない。

 シェイラは争いの中に突っ込んでいくタイプでもないのだ。


(遠くからはらはらと戸惑いながら右往左往するだけだと思うわ)


「とにかく、やってみるしか無いわよね」


 子供たちを探すためならと、シェイラはゆっくりと目を瞑る。


「シェイラ?」


 足を止めて黙り込んだシェイラを、パーシヴァルが怪訝な声をかけたが、ソウマに「しぃ」と黙るように諭されて、意味が分からないながらも口を閉じたようだった。

 ソウマとパーシヴァルの見守る中、シェイラは一生懸命、自分の力に集中する。


「……――――」


 耳に届くのは、さわさわという葉擦れの音。

 遠くから、フクロウが鳴くような低い声も微かに聞こえた。

 肌を撫でる風は緑と土の香りが強く、自然といつの間にか肩の力がぬけていく。

 シェイラはゆっくりとそれらを感じ、森の香りに深呼吸を何度か繰り返しだ。


 ――そして暫くし、瞼を上げた。

 どうだった?と聞きたげなソウマに、少しだけ目を伏せて首を振る。


「…………分かりません」

「やっぱりか」


 白竜の力が目覚めるのは、ずいぶん先のようだと肩を落とした。


「ま、何となくでいいから。どっちがいい?」

「どっち?」


 ソウマは、まだシェイラの導きの力がココとスピカのもとにたどり着く(しるべ)になると思っている。

 信じてくれて、頼って暮れていることは凄くうれしい。

 でもそんなの、どう考えても無謀すぎる。


(でも、本当に手がかりがないのよね)


 自分があてずっぽうに方向を示すか、ソウマかパーシバルが適当に方向を差すかの差であり、どれもあまり期待できそうになり。


「うーん」


 シェイラは眉を寄せ、しばらく苦悩したあと。

 そっと、人差し指で一点を差した。


「あっち、のような気がしないでもないです」


 特に何の当てもなく、何となく、恐る恐る指さしてみる。

 頷いたソウマに対して、パーシヴァルはものすごく不可解そうな顔をしていた。

 ソウマとシェイラの会話内容が全く意味がわからないと首を振った。


「…………どうしてあっちなんだ?」

「え、ええと。何となく、です」

「ふーん?、そうか」


 それで良いのかと首をひねるパーシヴァルの背を、ソウマが軽く叩く。


「まぁまぁ。何のつながりもない俺らより、母親の勘ってやつを信じようぜ?」

「あぁ、母親の勘……。そうだな。どうせ手がかり無いんだし……うん……」


 パーシヴァルは微妙な顔をしているし、シェイラだってまったく全然自信がない。

 しかし今は進むしかないと、三人はまた歩き始めた。



 ……―――シェイラが何気なく差した方向は、残念なことに進めば進むほどに平坦な場所ではなくなり、足場がとても悪くなっていく。


「っ……」


 隆起した根は手をかけてよじ登らなければならないほどのものもあり、とても幼い子供の足で進めたとは思えない。

 それを指摘すると、翼だして飛んだ可能性もあるしな。と返された。もっともである


「は、ぁ……っ」


 恐らく、時間にしてはもう昼を周ったころだろうか。朝早くに出発したから既に結構な時間がたっているはずだ。


「はっ……ふ……」


 シェイラは早くなった浅い息を繰り返しながら、足を踏み出す。

 長く歩いたことで汗がじんわりと肌ににじみ、足の裏にじんじんとした鈍い痛みが生じていた。

 たくさん歩いたことで体は温まっているのに、木々が深くなり陽がまったく指さなくなってきたからか、肌に当たる風は一層に冷えてきたように感じた。


「休憩するか?」

「いえ、大丈夫です。すみません、パーシヴァルさん」

「いーや? 正直もっと早くへばると思ってた。頑張り屋だな」


 二人は平然と歩いていて、息一つ乱れていない。

 シェイラも旅にでてからずいぶんと体力はついたはずなのに、でもさすがにもこれだけ歩けば草臥れる。


(たぶん、早さも合わせてゆっくり歩いてくれているのよね)


心遣いが分かっていて、しかもシェイラの問題に付きあわせている状態なのに、さらに立ち止まって休憩したいというような甘えをみせるつもりはない。

 

 ……それからまたしばらく歩き進め、はぁ、はぁ、と浅い息が止まらなくなってきた頃。

 ソウマがふと足を止め、シェイラとパーシヴァルを振り返った。

 

「あ、近いかも」

「え!?」

「火竜の気配。ココのものかはまだわかんねぇーけど。」

「どっち! どこですか!」

「えーっと、…あっちの方? なんかもやっとする」

「あっちですね!?」


 ソウマの指した方向に、シェイラは地を蹴り走り出した。


「おいシェイラ!」


 背後からかけられた慌てたような声にも止まることは出来ずに、シェイラは一目散にかけ続ける。


 ――木々の生い茂る森の中。

 一心に足を動かすシェイラは、ほどなくして一際に大きな木の下で彼らを見つけた。

 シェイラはココとスピカに必死になり過ぎていて、彼らの周囲にいる精霊達を気に掛けている余裕はなかった。

 ただ一目散に、二人にむかって走りながら声を上げる。


「ココ、スピカ!!!」


 近づくにつれはっきりと分かったのは、完全に竜の姿にもどってしまい、ぐったりと倒れているスピカ。

 その様子に気が付いたシェイラは、「ひっ」と小さく息を引きつらせ、顔を青ざめさせた。


 そしてココは、膝の上に彼女を抱えうずくまっていた。

 掛けられたシェイラの声に振り向いた赤い瞳にたっぷりの涙を溜めて。


「つっ……!」


 ココの赤い瞳はシェイラの姿を目に入れるなり、みるみるまに崩れていく。

 それまで必死に我慢していたものが崩れてしまったかのように、彼は溜まっていた大粒の涙をぽとりと落とす。


「し、しぇーらぁ……!」


 くしゃくしゃに顔を歪め、ほろほろと落ちる涙で頬を濡らしながら、ぎゅうっと竜の姿のスピカを抱きしめ、探していた子はシェイラの名を呼ぶのだった。


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