第一号 渡来島について【そのご】
今回は志野担当です。
side 雛
伊東さんと犬飼さんに別れを告げて次の場所へと向かう。次は役場なら今後の予定も聞く必要があるかな。
「あ、そういえばもうすぐ春季大祭ですね」
「ん?嗚呼、もうそんな時期かぁ」
「豊さん、今年も五穀豊穣、よろしくお願いしますね」
「もちろん!」
自信満々に告げるその様子に笑みがこぼれてくる。きっと今年もいい年になるんだろう。根拠もないそんな思いが湧き上がってくる。
豊さんの為にも、島の人たちのためにも絶対に大祭を成功させよう。そう決意をあらたにした時だった。
「雛ちゃん、豊春はん!」
「京さん!」
声をかけてきたのは橘 京さん。この渡来島で旦那さんと旅館を営んでいる。渡来島には旅行客の泊まる場所が京さんのところしかないからたいへん助かっている。
京さんは言葉の通り京都出身のすごく淑やかな和服美人だ。私もこんな年の取り方をしたいと思っている。
「ごめんやす。今日はこん辺りを巡回どすねんか?毎度ご苦労さまどす」
[こんにちは。今日はこのあたりを巡回なんですか?いつもご苦労さまです]
「いえいえ。散歩のついでですから。ね、豊さん」
「うん。それに島の人たちが快適に過ごすのをサポートするのも役目だしね」
「てことで、何か困ったことはありませんか?」
「そうどすなぁ…今は特にはあらしまへんな。雛 ちゃんと豊春はんんおかげで快適やわ」
[そうね…今は特にはないわ。雛ちゃんと豊春さんのおかげで快適よ]
柔らかい上品な笑みと共に向けられた言葉に胸が高鳴る。こういった言葉をもらう度にもっと頑張ろうと思う。まだまだ未熟だけど、この人たちが穏やかに過ごせるように心を尽くそうと思う。
ちらりと隣を見れば、豊さんも穏やかな表情をしていた。きっと同じ事を思っているんだろう。むしろ思いは豊さんの方が強いと思う。なんたって、この島の守り神なんだらか。
「あ、そろそろ夕食ん準備がおますさかいおしまいやす。今度はおぶやて飲みにおこしやすな。とっておきんおぶがおますん」
[あ、そろそろ夕食の準備があるので失礼しますね。今度はお茶でも飲みにおいで。とっておきのお茶があるの]
「はい!ぜひ」
京さんを見送ったあと、再び役場へと歩を進め始める。その間にも色々な人から声がかかってくる。その声に度々足を止めつつも無事に役場についた。
古びた外見の役場へと入る。キョロキョロと人を探せば、向こうが先に気づいたのか声がかかってきた。
「早乙女さん、豊春さん」
「あ、佐藤さん」
「やあ」
やってきたのは佐藤 太朗さん。この役場で文化財課に所属している。神社の大祭なんかの大きな行事は準備を手伝ってもらっている。外見は平々凡々としていても、とても丁寧で優しい人だ。佐藤さんに癒やしを求める人も少なからずいるらしい。
「今日はどうされたんですか?」
「えぇ、今度の春季大祭のことなんですけど……」
そうして、今春季大祭がついて軽く打ち合わせをする。基本は私と佐藤さんで話を決めていくが気になるところで豊さんが口を出してくる。なんとか大まかな形が出来上がったところで息をつく。
「…………ふぅ、だいたいこんなかんじですかね?」
「そうですね。後は追々決めればいいでしょう」
「そういえば、今年の妖の動きはどうだい?」
いつの間にか出されていたお茶に口をつけながら雑談に興じる。
「そうですね。今年はまだ移動はありませんね。手続きに新しい方が来た記録はありませんし……いまのところ変わらずって感じですね」
「そうか」
佐藤さんの言葉に豊さんはひとつ頷くと何かを考えるように目を瞑る。
佐藤さんは妖の移住手続きなんかもしている。そのため、妖事情に詳しかったりする。多くの妖に関わっている人だからその言葉には信憑性がある。
「ま、今のところ大丈夫だと思いますよ」
「そうだね。それじゃあ我々はそろそろおいとまするよ」
「はい、お気をつけて」
「佐藤さん、ありがとうございました」
佐藤さんに見送られて役場を出る。思いのほか長居していたのか空はすっかりとオレンジ色に染まっていた。そろそろ帰らないと夕ご飯が遅くなってしまう。それに山彦さんに鹿肉を貰いに行くとも行ったし、こまじろうとししまるのことも心配だ。
横を見上げれば豊さんと目が合う。
「じゃあ、帰るついでに学校に寄っていきましょうか」
「そうだね」
そう言って笑みを交わしあった後、夕日に背を向けて歩き始めた。
遅くなってすいません!
(他のことに気を取られて忘れてたなんて言えない……)
今回は旅館の女将さんの京さんと役場の佐藤さんでした。
京さんの京都弁は変換サイトにて標準語を変換したものです。
私はさっぱり京都弁はわからないもので…。
そして長いうえによくわからなくなってしまったところでりんちゃんにバトンターッチ!