第一号 渡来島について【そのに】
この話は志野、綾桜によるリレー小説になります。
今回は綾桜執筆です。
Side 豊春命
暖かい日差しがぽかぽかと降り注ぐ窓辺にて。
あまりの日差しの暖かさにせっかく目が覚めたのに、まどろんでしまう。春眠暁を覚えずとはよくいったもので、どうあがいてもこの心地よいまどろみからは起きられない。
「豊さん?起きてますか?」
頭上から聞き慣れた声が聞こえ、まどろみから意識が浮上する。
「ん、おはよう雛ちゃん」
「はい、おはようございます」
「ふわぁ…巡回の時間かい?」
大きく伸びをしながら問えば頷き一つ。ん~身体の至る所がバキバキ言ってる…歳には勝てないな
ぁ。
そんなことを思いながら苦笑いすると雛ちゃんからコートを差し出される。それに合うように人間に変化する。
じゃらじゃらする着物は洋服に、長い髪も肩までのセミロングに…こんなもんかな
「おかしくないかい?大丈夫?」
「よく似合ってますよ。さぁ行きましょう」
「嗚呼」
スニーカーをつっかけ境内を突っ切っていく。途中こまじろうが駆け寄ろうとしたが、ししまるに阻止されてた。気のせいかな、首が締まっていたような…後から金平糖でも買って帰るか。
巡回コースは特に決まってはおらず、その日の天気と気分で決まっていく。
「今日は商店街の方からまわるかい?」
「そうですね。その後は港に行きましょう?今日は定期船が来る日ですよ」
「よし。決まったね」
そうと決まれば早速商店街に歩みを進める。しばらく歩けば商店街のアーチが見えてくる。そのアーチをくぐれば、独特の活気にあふれる商店街だ。ここの商店街は昔から代々続くものが多くあり和気あいあいとしている。心地よい空気に浸りながら歩けば声をかけられた。
「おやまぁ、雛さんと豊春さんじゃないか。お散歩?」
声の主は古びた駄菓子屋のカウンターに鎮座する老婆。老婆…店主の原西梅子ちゃんはにこにこと笑いながら手招いてくる。
皺が刻まれた顔を緩ませて笑う梅子ちゃんは、子供たちからも人気だ。何となくわかる気がするけれど。
招かれるまま店内に入れば、予想されてたかのようにお茶を出される。うーん、用意周到だな。一口飲めばふわりと広がる桜の香り。
「桜茶か…こんな珍しい物をわざわざありがとう」
「おいしいです…」
「あなた方に出さずに誰に出せばいいのかねぇ…神様と巫女さんじゃないか」
呆れたように言う梅子ちゃんの言葉に雛ちゃんと顔を見合わせ苦笑う。
「それでは、そろそろお暇するか」
「お茶ありがとうございました」
「またおいで」
桜茶を飲み終えて駄菓子屋を後にする。次に向かうは港。と言っても商店街を抜けたらすぐそこなんだが。
歩みを進めるごとに磯の香りが強くなる。
そして、アーチを抜ければ一面に海が広がる。うん。いい眺めだ。
きょろきょろとあたりを見渡せば目的の人物と、もう一人が何やら談笑している。
「おーい。海君、三郎さん!!」
手をぶんぶんと振れば二人とも気付いてくれたようで、手を振り返してくれる。ぱたぱたと雛ちゃんの手を引き二人の元に向かう。
「よう、豊さん、雛ちゃん」
「なんだ、デートか?」
「違います」
「残念ながら違うよ」
呆れたように返せば、照れるなよと言う三郎さんにため息一つ。この本土からの定期便の船長、名は南三郎といい、気さくで人懐っこい。しかし、我の扱いがどうも神としてではないような気がしてならない。まあ、別にいいんだけれど、複雑な気分になる。
「デートじゃなくて巡回だろう?な?」
「流石、海彦さんご名答です。そういう貴方はこれから漁ですか?」
雛ちゃんが海君の持つモリを見て問う。
渡来島の名物漁師、川端海彦。その漁の仕方は身一つで海に潜り、モリで獲物を取っている。まさに豪快な海の男。…余談だけれど海君の奉納品は、結構豪華で楽しみにしている。
「おう!今日もジャンジャン獲るぞ!」
歯を見せて笑う海君。そして太陽を反射する海を交互に見て一言。
「…あまり長居をしないように。なんだか海が騒がしいから」
声を張ったわけではないけれど、声は意外と浸透して行き空気を変える。これは≪警告≫で≪予言≫。何が起こるなんてわからないけれど、警告はする。それをどう活用するかは海君次第。海君も承知しているのか神妙に頷く。うん、海君は大丈夫だね。
「…わかった。豊さんありがとうな」
「島民を守るのは当然でしょう?」
一つ笑みを向ければ、安心したように二人は船を出す。おじさんを見送って、さて次はどこに行こうかと雛ちゃんに問う。
渡来島の守り神。豊さん登場。
なんだか駆け足気味ですが、なんとか三人出せました。
次はしのっちです