石鹸
以前から使われることが多い石鹸について。
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身近にあふれる石鹸ですが、その起源は非常に古いものです。
元は液状のものが固形になり、今現在、液状のものが再び愛用されています。
なんだか不思議な感じですね。
ポイントとしては、材料としてはとてもありふれた物ですので、作るのはそう難しくありません。
植物灰でもいいですし、天然ソーダでも容易に作れます。
この知識を有効に使うのは、恐らく芳香剤が問題になると私は思っています。
◆歴史◆
石鹸の歴史は紀元前3000年頃が始まりと言われています。
動物を焼いて滴った脂が灰と混ざり合い、それが石鹸のようなものになったのが起源ではないか、と考えられています。
8世紀ごろには液状石鹸が家庭内工業として定着し、
12世紀には固定石鹸が発明されています。
ヘロドトスがいうには、メソポタミアで石鹸が使われたかなり後になって、レバント地方のフェニキア人が利用し、スキタイ人が髪を洗うのに使ったそうです。
では、石鹸を使わなかった地域の人達はどうしていたかと言うと、エジプト人とユダヤ人は、ソーダを使いました。
ソーダ単体でも、汚れを落とす役割を果たしていたわけです。
エジプトは特に天然ソーダ、ナトロンの産出が豊富なので、脱色や消毒とソーダが大活躍します。
ギリシア人は糠、砂、灰、軽石を好み、ローマ人は入浴時にオリーブオイルを使って汚れを擦り落としたそうです。
ローマ時代では石鹸は普通に使われるようになりました。
最初は皮膚病や傷跡の消毒に良いので使われていたのが、清潔のために広がったようです。
古い時代ほど、庶民は高いので医療用として用いていたのが、一般化していったという流れです。
一方ファンタジーの舞台となる暗黒時代のヨーロッパでは、あまり石鹸は使われなくなってしまいました。
国が違ってしまうために、オリーブオイルが輸出されないんですね。
この辺りはローマ帝国の崩壊からヨーロッパという概念の成立、ヴァイキングやイスラムからの侵攻など、世界史の知識が必要になりますので、割愛します。
中・東ヨーロッパとは違い、
北ヨーロッパでは動物性脂(特に魚油)と植物灰を使った液状石鹸が主流でした。
植物性油脂と違い、それはもうヒドイ臭いがしたようです。
動物油脂で作られた石鹸は、洗濯や織物を洗浄するのには向いていましたが、風呂に入れたり、身体を洗うのには向いていなかったんです。
イタリアやスペインで石鹸作りは生き残りました。
棒状の硬い石鹸は、オリーブオイルと木の灰(海藻灰)で作られました。
これはスペインで1000年以上、有効な輸出品として扱われています。
白色で無臭の医療用石鹸は、結構一般的に使われたようですが、色と香りつきのトイレ用石鹸は贅沢品として輸出されました。
14世紀、石鹸作りの技術はイギリスにまで渡りました。
また、マルセイユやキャスティールの石鹸は北ヨーロッパより遥かに優れ、これがきっかけに、南部ヨーロッパからの石鹸の輸出が活発に始まりました。
彼らは国から保護されたのですが、同時に製作技術は国が厳密に管理し、制作者たちは旅行や転出ができなくなりました。
中国では、石鹸は使われなかったようです。
油を使った石鹸は20世紀になって使われ始めたようです。
彼らは、石鹸とは別に、洗浄成分のサポニンを含んだ天然の植物を利用しました。
漢王朝時代より、石鹸豆と呼ばれるそれを潰し、花や鉱物の粉末、芳香物質と一緒に調合されました。
絹を何度も洗えるほど、質は生地に優しくも、とても綺麗に洗浄できたようです。
2019:07:14
追記:工業化が進んだのは非常に遅く、戦後のアメリカ生活史の本では、各家庭の母親が石鹸作りを担っていたので、大規模な工場生産がなかなか浸透しなかった、という記事を読んだことがあります。
◆製造法◆
秋になると保存食を作るために、家畜を殺します。
その時に大量の牛脂とラードが得られました。
脂をたき、溶けたら同量の水と、それに塩を入れて混ぜます。
30分ほどそのまま煮込みます。
その後、冷えてくると油脂が表面に浮くので、それを掬います。
動物特有のスゴイ臭気がしたので、屋外で行われました。
さらにこれを重曹などを混ぜながら、水油で炊いていくと、精製されて臭気が取れていくようです。
動物脂が取れなかった際には料理に使った廃油で石鹸が作られました。
当時は料理クズなどもすべて各家庭は捨てずに再利用していました。
アルカリの製造方法としては、木の灰から作られたようです。
1.溝付の石版の上に、底なしの樽を置きます。
2.樽の底に藁だとか、木だとか、石だとか入れます。
3.上に灰を被せて、水を加えます。
4.溝から流れてきた水酸化カリウム水溶液を溜めます。
灰や水は足されていたようですね。
これで道具は揃いました。
次に石鹸の製作です。
大きい鍋に、水酸化カリウムと油脂を入れ、沸騰させます。
6~8時間、沸騰させることで生地がだんだんと固くなり、泡が立ち始めた頃に火を落とします。
判断基準は舌によって行われ、ビリビリしないかどうかが判断基準だったそうです。
水酸化カリウムが弱ければ足され、強ければ水が足されました。
他にもハーブからとった芳香剤が足されました。
この製法は液体石鹸です。
これは普通の植物灰から作られたためですね。カリ石鹸と呼ばれます。
カリ石鹸を固形化するには塩が用いられました。最後の工程の際に、塩を混ぜて固めました。
普通の固形石鹸は海藻の灰や天然ソーダから作った、ソーダ石鹸です。
天然ソーダは世界60カ国以上から産出されているので、そんなに珍しいものではありません。
近代法はご自身で調べてください。
◆最後に◆
石鹸は国によって製造法が制定されるくらい、強い影響力を持っていました。
粗悪な石鹸は輸出品として外貨を稼ぐのが難しくなりますし、人体に悪影響を与えるためです。
模造品が出回ったことを危険視した1688年フランス国王ルイ14世が、マルセイユ以外での石けん製造を禁止。
激しい製造基準を命じました。
前述しますが、保護を受けた代わりに街から出ることもできなくなりました。
影響力を考えた上で、転生に用いるようにしましょう。
ローマ時代、大衆入浴場では混浴が当たり前。
大人の社交場(意味深)になっていました。
後期には浴場主が娼婦を準備して儲けていた例もあります。
ああ、もちろん時間別に男女を分けていた浴場も多かったようですよ。
お風呂に入らなくなったのは、新大陸から梅毒といった伝染病が入ってからなので、中世という時代区分には微妙に離れます。
よって、混浴シーンは向こうの人からすれば、当たり前だったのです。
ファンタジーを書く際にも参考になるのではないでしょうか。