鋼と鍛冶
小説に参考にされた方は、一言でもいいのでコメントいただければ、とても励みになります。ご協力ください。
玉鋼やダマスカス鋼と聞いて心躍らない男子がいるだろうか、いや、いない。……反語!
というわけで、今回は冶金、鍛冶について書きます。
無茶苦茶奥が深くて、調べれば調べるほど、余計に調べるものが出てきて困りました。
今後も、分かり次第改訂を加えていきますので、最終更新日にお気をつけください。
原料調達、
道具
家事工程にわけで書きます。
◆原料調達◆
その昔、石器時代と別れを告げた人類は、青銅器に手を出しました。
これが紀元前3000年頃。メソポタミア文明のシュメール人が発見しました。
実はこの当時から鉄は一部生成されていましたが、融点が高いことで、普及していませんでした。
主にアクセサリーや、儀礼用として使われました。
鉄が本格的に使われだしたのは、紀元前1200年頃。ヒッタイト人の滅亡後です。
この頃の鉄の採集場所は地上であったと思われます。
隕石、隕鉄というものです。
鉄分95%、ニッケル5%ぐらいと考えてください。
地表で取れるものには限りがありますので、その後は山を切り崩して鉄鉱石を採ったでしょう。
戦国時代の砂鉄の収集には、川辺で行われました。
これは川に流れた水酸化鉄が葦のバクテリアの力によって、凝集されたからです。
これらの鉄は殆どが酸化鉄で、一度還元する必要がありました。
◆鍛冶道具◆
○火炉○
いわゆる炉。
レン炉、高炉、たたら炉、パドル炉などがある。
初期のレン炉は谷風など、自然の空気を利用していました。
15世紀の水車動力の普及までは、日産10kg前後でした。
水車動力・コークスによって、日産2tぐらいまで増えます。
圧倒的な差ですね。
○金床○
ハンマーを叩く台。鉄床とも書きます。
○ハンマー、槌○
1キロぐらいのものが多く使われる。向う槌で3kgぐらいです。
向う槌は押し広げるために使い、先手と呼ばれます。細かな形成過程は親方の仕事ですね。
トンチンカンは、息の合わない向う槌のことからきています。
ハンマーの形状には、先の尖ったものや、マイナスドライバーのようなものがあり、刀の目釘の部分や、金属と柄の接合部のための切れ込みを入れたりに使われます。
○ハサミ○
板金を挟むものです。切れる意味でのハサミは、つまんでいた部分を切り離すのに使われます。
○鏨○
切れ込みを入れます。柄を差し込む所を作るのに使われます。
○火かき棒・スコップ○
木炭を混ぜたり、足したりする。
○ふいご○
足踏み、手引き、箱などがあります。
多量に造るためには、押しても引いても風が送れる箱ふいごがよく使われました。
日本のたたら製鉄は、人力ふいごだったので、大変な力がいりました。
○水、もしくは油、またははちみつなど○
金属を急速に覚ます焼入れの際に。
水の温度を知ろうとしたら、腕が斬られる逸話は有名ですね。
グラインダー、もしくは研磨機
水車……ふいご、ハンマー、研磨機の動力として15世紀ごろから。
◆金属の融点◆
「鉄は赤くして打て」
上げ過ぎると炭素の量が減り、軟らかいナマクラになってしまうので、温度調節が大切です。
酸化鉄の還元温度が900℃前後です。
鉄 1536℃(純鉄なので、あまり意味はありませんが)
銅 1084℃
スズ 232℃
スラッグ(ごみ) 1200℃←ここまでは上げる必要がある
◆作業風景◆
この場合は、もっとも原始的な方法をご紹介しましょう。
まず、炉の中に木炭を入れ、火をつけます。
温度表というのがあって、炎の色でおおよその温度がわかります。
低ければ赤、高ければ白です。黄色ぐらいで鉄が溶けます。
熱された炉の中に酸化した鉄鉱石と、木炭を入れます。
800~900度ぐらいに保たれますが、このとき、炉内は酸素不足に陥ります。
炎が酸素を求め、結果酸化鉄の酸素が還元されます。
これが第一工程です。
この後、炉の温度を上げ、鉄鉱石を再び入れると、1200度ぐらいまで上げます。
鉄鉱石の中の、石の成分などが溶け出していきます。
この時出るゴミをスラグやスラッグといいます。
メタルスラッグというゲームがあった気がしますが、鍛鉄の過程で出てくる産廃のことです。
鉄鉱石の約半分ぐらいが純粋な鉄として、最初に抽出されます。
スラッグは再度、炉にくべられ、一緒に流れでた鉄を再抽出します。
スラッグが流れでた鉄は、スポンジというか、軽石のような形になっています。
続いてこれらの抽出した鉄を、再び加熱し、今度は槌で叩いていきます。
槌を振る度に火花が飛びます。これも出きっていないスラッグです。
叩いて如何にスラッグを押し出すかが、鍛造という作業の決め手になります。
成形された鉄の板金を、叩いて好みの形に変えていきます。
刀やナイフなどでは、折り返して(二つに折って、1つに纏める)成分の均一化を図ります。
古刀では1~2回くらいしか行われませんでした。
ダマスカス鋼のナイフで、私が見た映像では8回していました。
『日本鍛冶紀行』の職人さんは、古い農具などを再生させるため、15回もの折り返しをしています。
この時、鉄の表面に酸化被膜ができます。
スラグの成分があったり、鉄と鉄の鍛接(溶けて一つになる)のを邪魔するので、金ブラシで落とします。
折り返しには鍛接剤というものを使います。
色々あるそうですが、調達しやすいものには藁の灰があります。
「結構出来るよ」その道70年のおじいちゃんが言ってました。
あとはホウ砂、硼酸、鉄粉でも良いようです。
この鍛接剤、刀や包丁、ナイフなどを作る時、鋼と地金を鍛接するのに大切です。
鋼だけだと硬すぎて折れてしまうという、日本刀の特徴です。
鋼と地金が完全に鍛接されたら、最後に焼入れを行います。
熱した鉄を水、西洋なら油、時にハチミツに浸けます。
800度ぐらいから500度ぐらいまで急激に冷やされることで、鉄が引き締められます。
この後、急に冷やしすぎると割れたりヒビが入る原因になりますので、常温で冷やします。
現在ではこの後、氷点下数十度まで下げる作業があり、サブゼロ処理といいます。
その後、硬くなりすぎて折れやすい金属を、加熱して戻す焼戻しを行います。
日本刀などでは180度ほどだそうです。
パンを焼く時に炙るのは、ナマクラになってしまうので良くないそうですよ。
後は刃の研磨や、柄との接合があります。
以上が鍛冶のおおよその工程でした。
斧の製作動画がyoutubeでJohn Neemanさんによって公開されているので、
興味のある方は一度みてみると分かりやすいと思います。
ちなみにこの場合は、手引きふいごを使用しています。
◆まとめ◆
ファンタジーの鍛冶技術は、冒険者が多く、鍛冶が栄えていたでしょうが、文明的には15世紀未満の生産力だと思います。
炉の数が多く、鍛冶師が多いので供給が間に合っていたのかもしれません。
高炉を設置して、水車動力を導入すれば、生産性を一気に高めることができます。
刀鍛冶は基本的には儲かりません。
燃料費が高くつく上、商売人に上手く買い叩かれて、数打ちを無理やり打たされた名工はいくらでもいます。
小説の中ぐらい、イキイキとした工匠の姿が見たいものです。