プレッシャー
「・・・とりあえず、今の状況を再確認する。現在判明している〔竹〕の〔急成長〕を〔象徴〕とする赫夜の〔特性能力〕、〔刀身の延長〕。これはお前が赫夜の3つの制限を外さずに使える唯一の〔裏論〕だ。そして、赫夜とお前が無裏せずそれを使用した場合の〔最大射程〕は、28.56mだ。ここまではいいな?」
「う、うん」
「加えて現状を鑑みるに、お前の〔身体能力強化〕は〔竹〕の〔特性能力〕、〔伸びてしなる刀身〕の重量と、発生する遠心力を支えられるだけの〔剛力〕、つまりパワーを重点的に補強してる。お前は腕力で押す、パワー系の〔裏論使い(ディベーター)〕ってことだな」
「僕は、パワー系の、〔裏論使い(ディベーター)〕?でも、確かに〔竹〕みたいに〔急速に伸びたりしなったり〕する植物を、〔急成長〕を〔象徴〕としてるなら、その〔特性能力〕を使って戦うことが前提。そうすると、重くなったり遠心力が発生する〔伸びたりしなったりする刀〕は、パワーがないと扱いきれないよね」
「そういうことだ。で、結論を言うと、俺はこの〔特性能力〕と〔抜刀術〕の2つを組み合わせて、天出雲を倒す〔キメ技〕にするべきだと思っている」
一虎は、その言葉に頷きを返す。そしてあることに気づいて問いかける。
「あ、で、でも、確か赫夜には、〔ジン核〕の本体にかかる負担を軽減するために、3つ〔使用制限〕があったよね?その中に、なんか、〔抜刀〕なんたらって」
一虎の問いかけに、物覚えが悪い生徒を見る目で柳児が振り向く。
「〔抜刀回数制限〕。一日に3回しか刀を抜けないっていう制限だ。1回で覚えろ」
「ご、ごめん。それで、その〔抜刀回数制限〕なんだけど、3回しか刀を抜けないなら、僕は1日に3回その〔キメ技〕を使えるってこと?」
一虎は、「いい加減一虎から離れろ白髪ネギ」、「そんなの私の勝手です~」と、険悪ムードの赫夜とアインに挟まれながらもなんとか柳児との会話を続ける。そんな一虎に、柳児は言った。
「いや。現在考案中のこの技は、1日1回、しかも3回目の〔抜刀〕でしか使えない」
「え・・・!?」
思わぬ柳児の答えに、一虎は驚きを隠せずに目を丸くする。しかし柳児は確信を持った口調で言った。
「根拠は3つある。1つは、お前と赫夜が初めて会った時の状況と、この間の拳銃ゴミ女との〔論戦〕でわかったことだが、赫夜は本体である〔ジン核〕の負担を軽減するために、その日の〔最初の抜刀で必ず折れる〕ように設定されていること」
「〔最初の抜刀で必ず折れる〕?どう、して?」
「それは、赫夜の〔象徴〕に関係がある。赫夜の〔象徴〕である〔竹〕の〔急成長〕は、〔刀が折れる〕ことで、徐々にその効果を発揮するんだ。つまり、1回目と2回目の〔抜刀〕で2度刀を折る。その上で3回目の〔抜刀〕を行えば、最も高い効果が発揮されるようになっているんだ。詳しくはまた説明するが、要するに、〔特性能力〕の効果を最大限発揮出来て、確実な威力が出せると想定出来るのは、俺の計算では最後の1回だけだ」
「で、でも、それだと・・・」
不安から言い募る一虎を制し、柳児が続けた。
「そもそも相手はあの天出雲だ。アイツは、〔計画〕の通りに俺の〔弁論〕で弱体化が成功してたとして、さらにそこにお前の最大威力の〔裏論〕が当たったとして、やっと倒せるような相手なんだ。それに、1回目と2回目で無闇に〔キメ技〕を放てば、1番威力の高くなる3回目には見切られる可能性がある。それに、俺の得意戦術である〔弱点包囲網〕で絶対確実な攻撃のチャンスを作れるのは、恐らく1回きり。つまり」
「3回目ノ〔抜刀〕ガ、最初デ最後ノチャンス。ソノ一撃ニ全テガカカッテイル」
「そういうことだ」
一虎は、柳児と桧王の言葉に息を呑む。つまり彼らが言っていたのは、
『この〔計画〕で、天出雲さんとの〔論戦〕で、僕が最後の一撃を外せば・・・負ける』
そうなっては、この〔計画〕が破綻する。そのイメージに、一虎の心が恐怖を感じ始めた。そして、逃げ場を求めた一虎の思考はあることに気づいた。
「あの、そういえば、赫夜の3つの〔使用制限〕の中に、もう1つ、〔特定の型〕を使ったら最大出力を出せるって項目もあったよね?その制限を解除すれば、何かもう少しマシな〔裏論〕が・・・」
そう言い募った一虎に、
「ダメだ!」
その場にいた全員が思わず振り向くほどの、柳児の怒声が飛びかかった。なぜ怒鳴られたのかわからず呆然とする一虎に、恐ろしい目をした柳児が再度叫ぶ。
「いいか!?確かにお前の言うように〔特定型解放仕様〕の条件をクリアした後に繰り出される大規模破壊型の〔裏論〕、〔月〕を象徴とするそれは強力だ!」
言うと、柳児は紫を基調とする3次元ディスプレイを展開し、示す。
「ここ数日のデータ採取でわかったが、お前は一度に〔ジン核〕に〔裏力〕を注げる量を示す値、〔裏口径〕はとんでもなく小せぇ!だが、〔器〕のデカさは間違いなく新入生でもトップ!つまり、お前は2種類ある〔裏力〕のうち、〔器〕に蓄積出来るほうの〔裏力〕、〔慢性的裏力〕の量がとんでもねぇんだ!」
「そ、そう、なの?」
「ああ!そんなお前が、〔器〕に溜まった莫大な量の〔慢性的裏力〕を一気に放出出来れば、それは楽に〔キメ技〕以上の破壊力を出せる!そして〔特定型解放仕様〕ってのは、そもそもお前みたいなタイプ、〔裏口径〕が小さくて〔器〕がデカい奴専用に開発された技術だ!」
「僕みたいな、タイプ専用?」
「〔特定型解放仕様〕ってのはな、〔裏口径〕が小さくて一気に大量の〔裏力〕を解放出来ないお前の〔慢性的裏力〕を、一時的に〔ジン核〕に蓄積する特殊機能だ!」
言われた一虎は、柳児の言葉に怪訝な声で返す。
「で、でも〔論派〕が統一された〔裏力〕は、保存や蓄積出来ないんじゃないの?だって、空気中の様々な〔論派〕のそれと混ざり合って、すぐに不純物の多い〔混論派〕になっちゃうはずでしょ?」
その言葉に、柳児が即座に反応し、叫ぶ。
「だから言ったろ!一時的だって!どういう仕組みなのかは、俺だって知らないんだ!技術としては普及してるが、具体的なシステムについては扱いが国家機密クラスだからな!俺の親父、〔全段〕であるあのゴミだって、知ってるかどうか。まあそれはいいとして!その特殊機能で莫大な〔裏力〕を確保した上で、強力な〔裏論〕を放つってのが〔特定型解放仕様〕だ!」
だがな、と前置いて、柳児が叫ぶ。
「〔特定の型〕を使って〔裏力〕を溜め、それで放つ最大出力の〔裏論〕は、赫夜の本体に莫大な負担がかかる!だからそれは使わせない!俺が許さない!それを使わなくていいように、この〔計画〕は作ったんだからな!」
柳児がそう言い切ったと同時、場には凍りつくような沈黙が降る。そこに至ってやっと柳児は自分の言い方が適切ではなかったことに気づき、気まずそうな顔で一虎を見た。
そして、気圧されてしまった一虎が、苦笑を浮かべて先に口火を切った。
「あ、そ、そう、だよね。僕、〔裏論〕のこととか、よくわかってないのに、ご、ごめんね?」
「あ、いや・・・そのだな・・・そもそも、その〔特定型解放仕様〕を外す段階から問題があってだな?今のお前の〔裏口径〕のサイズじゃあ、〔特定の型〕である〔円月発光〕を5分はやらないと最大出力の〔裏論〕を使えるまで〔裏力〕が溜まらなくて、しかもその〔型〕を途中で止めたら溜めた〔裏力〕が霧散しちまうから、その間全く身動きが取れなくなっちまうんだ。しかも大容量の〔裏論〕である〔化身化〕を積んだ赫夜の本体には、溜めた〔裏力〕を放出する〔裏論〕が、1つしか積めなかったみたいなんだ」
「そ、そうなんだ」
「そ、その上、そのたった1つの〔裏論〕、〔月の裏論〕を初めて使う時は、月の力を司る女王、〔腐骨竜〕と同じ、純竜種である〔月虹竜〕と〔弁論〕して、〔月〕の使用許可をもらえるよう〔説得〕しなくちゃならなくて、そんな後衛系の、〔三段〕の〔裏論〕を使うには、前衛である〔一段〕がいないと、敵の攻撃を防ぎ切れないし、俺は〔二段〕よりだし、ええっと、だな・・・」
柳児が落ち込む一虎を慰めるように、様々な問題点をあげつらい、お前のせいではないとアピールする。
だが、
「う、うん。いいんだ。気にしないで。そう、僕が最後の一撃を決めればいいんだから」
一虎は、自分でそう言ってまた自分に課せられた責任の重さを思い出す。
『本当に、僕に出来るのか?』
不安に襲われた顔は自然と強張り、下がってしまった視線は一虎に自分の握った拳が震えていることに気づかせる。
その時、
「た、竹叢。その、リ、〔裏返思考〕だ」
一虎の様子に気づいた柳児が罰が悪そうにそう言った。