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深夜

 一虎の傍らから進み出る、細い影。蒼い少女の目の前に立ったのは、黒の女。



「大事はないか?」



 その声に対し、少女の蒼い瞳が動き、コクリと細い顎が縦に振られる。すると黒い女は蒼の少女を抱きしめ、「よかった」と静かに呟いた。

 そして女が振り返り、一虎に言った。



「申し遅れた。私はこの新入生であるこの娘の母親で、今年から裏野高校〔保護者会(プロテクターズ)〕の一員となった、絶薙(たえなぎ)大和(やまと)だ」

『絶薙?あれ?どっかで聞いたこと・・・?』



 一虎は黒の女、絶薙大和の名前に違和感を覚え、記憶を探ろうとする。そこへ、



「そして・・・ホラ!彼が一虎君だぞ?会うのが楽しみだったのだろう?」

『楽しみだった?僕に会うのが?』



 余裕のある笑みを浮かべた大和に押し出されて、蒼の少女が戸惑いと疑問の混じった表情を浮かべた一虎の前に進み出る。美しい蒼い少女の突然の接近に、一虎はすぐに先の疑問も忘れて、緊張に身を固くする。

 だが、



『ん・・・?』



 一虎は、それに気づいた。

 目の前に立つ少女の顔が、仄かに赤くなっている。見つめる一虎の瞳を避けるように蒼い瞳が泳ぎ、ソワソワと、両手で保持した棒状の袋を揺らしている。

 屍の竜から逃げ切り、雄々しく登場し、凛々しい印象だった少女が、



『まさか・・・緊張、してる?』



 状況からそう考えを巡らせた一虎に、しかし初対面の彼女を緊張させる裏由が思いつかない。そもそもどうして少女が空から現れたのかも、わかっていなかった。一虎がそう考えを巡らせるうちに、少女がおずおずと口を開いた。

 それは、



「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ん」



 赤面をそっぽに向け、チラチラと目線だけをこちらに送り、棒状の袋を一虎へと突き出すというものだった。



「・・・は?」



 思わず出た一虎の口をついて出た、疑問の声。瞬間、

 スパン!

蒼い少女の後頭部を引っぱたく音が響き、



「ちゃんとする!」



 母であるらしい大和の厳しい叱責に少女は痛そうに両手で頭を押さえ、涙目で一虎と大和を交互に見る。威圧するような大和の視線に怯えた少女が、おずおずと一虎と視線を合わせる。何度も深呼吸をしながら、少女はついに口を開いた。



「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・天出雲(あまいずも)・・・深夜(ふかよ)。これ、君の〔裏論武装〕」

「僕の、〔裏論武装〕?」



 赤面する蒼の少女が名乗りを上げ、再び一虎に棒状の袋、少年の〔裏論武装〕らしいそれを差し出した。



「・・・お前の人見知りも筋金だな。もっとちゃんと言えるだろう?」

『・・・人見知り?っていうか、お二人苗字が違いますけど、親子?』



 深夜と名乗った少女の傍らで、大和が腕組みして呆れたため息を漏らす。人前で母親に咎められて恥ずかしいのか、少女が少し不満げな視線を大和に送る。内心怪訝、表面呆然の一虎に再び少女の視線が戻るも、それはすぐにあちこちを泳ぎだす。

 そして、もう一度少女が勇気を振り絞った。

 しかし、



「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・君の〔論派(ろんぱ)〕珍しいだから適合する〔ジン核〕無くてでも母さんのは同じでそれ貸す代わりに〔再武装化〕する職人を(ながれ)さんの条件でついでに私が(ながれ)さんに稽古をつけてもらってついでに届けるように言われて・・・」



 聞き取れるかどうかというほどの小声かつ早口かつ順序もバラバラな説明を、



「わかるか!」

『わかりません!』



 一虎の気持ちを代弁した大和のツッコミと張り手が、深夜の後頭部に直撃することで中断した。

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