早撃と滅多撃
そして時間は、月光に照らされた廃ビル群の中、アイン・シュバルツの放った銃弾が一虎を捉えた瞬間に戻る。
いや、
「竹叢くん?もう大丈夫ですよ?」
一虎は、自分は死んだと思っていた少年は、さも楽しげなその声を聴いた。
「あ、れ・・・?」
恐る恐る、一虎は目を開ける。まず自分の五体が満足か、確かめる。欠けている部分はない。『どうして?』と考えた一虎は、いつのまにか自分を覆うように広がった黒い膜を見て、ビクリと身体を怯ませた。だがすぐに、広がった黒の中心に黄金に輝く2つの円形を見つけ、気づく。
「鎌足、先生?」
一虎に向かって放たれた弾丸を防いだ黒い膜は、先ほどまで自分に付き添って走り、かの怪奇な〔教師〕の声を発していた黒風船だった。
「やはり君のサポートには苦労丸を選んで正解でしたね。アイン先生の得意な高速の抜撃射撃・〔早撃〕と、この〔裏生物〕の衝撃吸収能力は相性が最悪。〔この程度〕の射撃では、貫かれることはないでしょう」
〔苦労丸〕と呼ばれた黒の風船、〔裏生物〕であるそれを、いかなる方法を用いてか操る鎌足は、一虎の気づきを肯定してそう言った。そして同時に、一虎には別の疑問がわき上がる。それは現在この施設内にいる、アインへの3人の挑戦者の内、
『どうして、先生は僕だけにこんなサポートを・・・?』
しかし、
「おしゃべりは死を遠ざけるぞ?」
その疑問に割って入る、気だるげで、何の気力も感じられない声。
同時、
ドッ!
轟く、一度だけの銃声。大きく広がった黒い風船型〔裏生物〕、苦労丸の体が、一虎を刺そうとするように内側に針のような膨らみを6つ作る。次いで、廃ビルを倒壊させる威力をもった弾丸を、ゴムが元の形状に戻るように弾いた。
つまり、
「撃ってきたあああ!?」
一虎は苦労丸の体で隠された殺戮者、アインの銃撃を知って混乱をきたす。鎌足の操る〔裏生物〕が完全にその脅威を阻んでいるのだとわかっていも、五感が捉える死の気配に一虎の顔は強張り、恐怖で身体が動かなくなる。一虎の黄色い3次元ディスプレイに映し出されていた、銃を構えたアインの姿が、少年を凍えさせる。
だが、
「おい、鎌足縁。私の〔早撃〕が、その〔裏生物〕を貫けないと言ったな?」
「ええ。まあ、〔この程度〕の射撃ならば、ですが」
「そうか、なら」
一虎は、映像に映ったアインがウェービーな金髪を靡かせて、コート状の〔拘束衣〕の裾を月光に閃かせて開くのを見た。
そして、
「そろそろお腹が辛い。これ以上体が火照る前に」
現れた、体中に装着された拳銃また拳銃を、アインは、
「死に失せろ」
目にも留まらぬ速度で抜き、撃った。
瞬間、
ドドドドドドドドドドドドドドド!
「うわああああああああああああああああああああああ!?」
先ほどまでと打って変わり、何発分もの銃声が一虎の鼓膜を襲った。無数の銃弾を受けた苦労丸の黒い膜状の身体が、内側に棘を持つウニのように一虎を覆っていく。3次元ディスプレイが何度も閃く銃火を一虎の網膜に届け、少年の視線は嫌でもその光景に引きつけられる。
その光景とは、
『〔早撃〕で撃ちきった銃を、使い捨てて!?』
1つの拳銃につき1度銃声を上げさせて、〔早撃〕の過負荷に耐えきれず自壊したそれを映像の中のアインは無造作に捨てる。さらにはどういう原裏か、陽炎のようにホルスターに顕現する次の拳銃を抜き、撃ってくる。
つまり、
「ほう。瞬時に銃を抜き、一度銃声が鳴る間に全弾を撃ち尽くす〔早撃〕の弱点、装填数の限界を、何丁ものそれを使い捨てることでカバーしてきましたか。ああ、竹叢くん?」
この状況においても笑み混じりの声でいる鎌足に、一虎は「ひゃい!?」と返事をした。すると危機的状況の中で続く、気楽な声。
「おそらくこれが彼女の持ち技の1つ、圧倒的弾幕による殲滅射撃・〔滅多撃〕です。まさか〔ハン核〕を使用した銃器でも使えるとは思いませんでした。彼女の力を抑えるために、彼女には主力兵装である〔裏論武装〕、〔6つの形態を持つ銃〕は渡していないんですが、いやあ、とても良い勉強になりますねえ?ホラ、ちょっと苦労丸ヤバそうですよ?」
「勉強どころじゃないですよこれええええええええ!?」
襲いくる状況に叫びを上げる一虎。しかし彼には、これをどうにかする術がない。
『ど、どうすれば!?どうすれば!?こ、れ!?』
そんなパニック寸前の一虎に、
「一虎さんっ!」
「え?」
遠方の廃ビルの影、そこから一つの叫び。制服姿のそれは一虎の下へ向かおうと、アインとの間に何の遮蔽物もない街路に脚を踏み出した。
光景に、一虎は、
「ダメだ!赫夜!」
現在この施設内に任意で設定され、人工的に構築された〔時環帯〕、〔廃墟〕と〔月夜〕の効果により、少女の姿となった赫夜に叫んだ。




