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期待の裏切り者

 だが、



「いや、それだからこそ、ですね?ええっと・・・」



 どう考えても格下の〔教師〕である鞍馬が、なんとか鎌足の説得を試みようと口を開いた時、



「おや」



 鞍馬を無視して、鎌足の口がそう呟く。

 手を上げた一人の少年に、皆の視線が集中する。鎌足が、嬉しそうに言った。



「君が最初の立候補者ですか?」



 その少年を見て、一虎は『まさか』と思った。『どうして?』とも。

 だが、そんな一虎の疑問に気づくはずもなく、挙手した少年はよく通る低音で言った。



「聞きたいことがある」

「なんでしょう?」



 少年は、笑みを崩さない鎌足を静かに見つめながら言った。



「この場所、多目的アリーナに連れてきたってことは、この施設の機能、つまり、任意で〔時環帯〕の設定を出来るんだろ?その選択権は、生徒と〔教師〕どちらが持つ?」

「希望があれば、生徒の選択を優先させましょう」

「そうか。で?この〔論戦(レクリエーション)〕は、ちゃんと映像として記録・保存され、関係者が閲覧できるようになるのか?例えば・・・」

「ええ。ライブにすると取り返しのつかない事態が起こりかねないため、一度映像は編集の手が加えられますが、その後の映像の使用はフリーです。もちろん、裏野で撮影された映像であると情報に記録されますし、例えばこれを上手く利用すれば、〔裏論武装の宣伝〕などに使っても効果が高いでしょうね」



 言葉を先読みした鎌足に、少年は片方の口角を吊り上げて不敵に笑った。

 そして、



「参加だ」



 言葉に、静かなどよめきが生徒の中を駆けていく。



「はい、では、他には?〔実践と実戦〕は、これ以上ない、有意義で有益な体験ですよ?」



 だが、それ以上の声は、上がらない。

 すると男は言った。



「では、君達は待ち続けて下さい」



 一虎は、その言葉に心臓が大きく鼓動を刻むのを感じた。



『待ち、続ける?』



 内心で呟いた一虎をよそに、男は背中を向けると、ホールの中央から一歩を踏み出した。途端、先程までは存在しなかった灰色の箱が地面から伸びあがり、踏み出した彼の足を支えた。



「君達は、待ち続けるのです!人生を変える劇的な出会いが、向こうからやってくるのを!」



 さらに一歩、男が中空に足を伸ばす。するとまた一つ、灰色の箱が地面から伸びあがる。



「君達は、待ち続けるのです!世界を変えられる力が、勝手に自分の手元に転がり込むのを!」



 一歩、一歩、男が進む。その足を、一つ、また一つ、地面から形成される灰色の箱が支え、彼を高みへと持ち上げる。さらには男の後をついていくように、扁平だったアリーナの床が変化する。板張りを模していた床が罅割れたアスファルトに代わり、男の左右に朽ちた廃ビルや折れた標識の群れが、それが壊れるまでの映像を逆再生したように形成されていく。

 そして男は、生徒全員が見上げる高さに至り、振り返った。



「そう、君達はそうして自らに期し、待ち続けていればいい!だが!」



 両手を広げた男の背後に壁のように幾本も廃ビルが立ち上がり、そのうちの一本から伸びた不気味な枝とも見える歪んだ鉄筋が、男の背に重なる。その立ち姿はさながら、黒い片翼をその背に負う、嘲笑浮かべし悪神。

 そして、



「君はいずれ!そんな君自身の!期待の裏切り者となる!」



 一虎の心臓の鼓動がまた一つ大きく響く。

 右手が動く。


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