世界は!
唐突な要求。男の言葉の意図を裏解出来ず、混乱を増し、群衆がざわめく。すると、先ほど少年の側で悲鳴を上げた金髪オールバックの青年が、再び声を上げた。
「まずはこの状況を、正々堂々説明しろ鎌足!なぜ我が校が攻撃を受けている!?何が起きているんだ!?私は〔政府団〕代表、裏野高等専門学校の新任担当官として、この状況を知る権利がある!」
その叫びに対し、映像の中の男は、
「・・・仕方ありませんね」
「おい、聞いているのか!?」
ため息交じりにそう言い、オールバックの怒りの叫びを無視して続けた。
「では私は、この場を取り仕切る裏野〔教師陣〕代表として申し上げる」
男は1つ、息を吸い、
「〔入学式〕を〔続行〕します」
そう言った。
彼の言葉に新入生とその保護者がどよめく。何者かによって校舎が倒壊するレベルの攻撃を加えられているにも関わらず、式を続行するという男の宣言に戸惑う。
その喧騒の中で、一人だけ反応が違う者がいた。鎌足を見て一歩を後ずさった少年、一虎だ。彼は感じたままを頭の中で言葉にする。
『なん、だ、あれ?』
たった一目彼は、映像の中に映る男、鎌足を見た。
それだけで一虎の肌は羽をむしられた鳥のように粟立ち、肺は酸素を求めて不規則な喘ぎとなっていく。暑くもないのに制服の下を汗が流れ、寒くもないのに背筋を悪寒が撫でた。
その男はただ、くたびれた黒のスーツを身にまとい、眉にかかる程度の黒髪を風に遊ばせているだけの存在だった。
だが一虎は、彼の白い顔に穿たれた2つの〔穴〕に呑まれた。
それは見た目だけならば〔眼球〕や〔瞳〕と呼ばれて差支えないものだった。
しかし一虎は、
『あれは、あれ・・・?』
光を歪ませ、汚す。黒のガラス球。
それの異様に気圧され、少年の息が早く、そして苦しくなっていく。
一虎の立つ地面が揺らぎ、体に力が入らなくなっていく。
周囲の光景がぼんやりとして、男の〔黒い2つの穴〕に意識が呑みこまれる。
寸前、
「見るな」
背後から近づいた黒の女が一虎の目を覆い、その体をしっかりと抱き寄せた。女性に抱き締められるという、常ならば動揺を隠せないであろう思春期まっさかりの少年ではあったが、この時ばかりは異様が去っていく安堵から、一虎は彼女に完全に身を任せた。
「無明のあれにアテられるか。ならばどうも平凡な君にも、期待できる〔器〕はありそうだ」
楽しげな黒の女が何を言っているのか、一虎には裏解できない。だが、今の一虎にはどうでもよいことだった。
少年がそのまま息を整え、女性に解放されたとき、鎌足と名乗った〔教師〕の声が鼓膜を打った。
「世界は!〔裏力〕に満ちている!」