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モンスターペアレント

「そ、そもそもです!汚野校長はこの世界の現状をキチンと裏解しているのですか!?」



 美作の言葉に、汚野は口中で小さく苛立ちの舌打ち。次いで青年に応える。



「わかっちょるに決まっとろうが。むしろ、この間まで学生じゃった新任の管理官たるアンタこそ、そこらへんちゃんとわかってここに来たんじゃろうの?〔幹部候補(エリート)〕のお坊ちゃんよ?」



 美作の若さと未熟さを攻撃した汚野に、美作が怒りと羞恥に顔を真っ赤にして怒鳴った。



「わわわ、私を挑発して話をはぐらかそうとしても無駄無駄無駄です!ささささあ!質問にお答えになって下さい!」



 唾の混じった美作の声に、汚野は小さく呟く。



「・・・ぬう。〔論点・誤魔化しはぐらかし作戦〕、失敗」

「・・・思ったほど、馬鹿ではないようですね?」



 同僚である鞍馬の言葉に、スキンヘッドが疲れた溜息をつく。しかし、舐められてなお最低限の冷静さを失わなかった美作管理官の実直な言葉に対し、これ以上沈黙と恫喝を続ければ、相手の面子は完全に潰れる。ただでさえ険悪な組織関係に、これ以上悪い影響が出てしまうのは避けなければならなかった。

 だから、



「・・・ワシらの生きる世界は、〔論害〕と呼ばれる脅威に日々子供達が命を狙われちょる。〔次世代(ネクスト)〕の命を奪えば、種としての存続を脅かせるからの。連中は、そんな知恵と、〔裏力〕というエネルギーを変換して展開される様々な現象、〔裏論〕を攻撃に使って人類を脅かす」



 応えてしまえば自分の首が絞まるとわかっていて、汚野は言った。これに対し、案の定得意げな顔になった美作が喰らいつく。



「その通りです!だから我々〔政府団〕は、人類根絶を目論む〔論害〕に対抗した!力で子供達を守る社会、〔次世代中心社会〕を目指した!〔次世代優先政策〕を取り、現代社会の構築を行った!そして、必然的に多くの子供達が集う〔学校〕が世界の中心になった!」



 自分の属する組織の成してきた偉業に酔ったように、美作管理官は怒りの鉄槌のごとく拳を作って机にガツンと打ちつけた。



「だからこそ、正々堂々、社会の中心たる〔学校〕の長へ問います!最も〔次世代〕の近くにいる〔教師陣〕には、〔次世代〕を守る義務と責任、それを成せるだけの力があるはずだ!だというのに、あの鎌足とかいう男は、なぜ〔論害〕が近くにいながら、〔入学式を続行するなどという暴挙〕に出た!?」

「そりゃあ、なんじゃ、その・・・」

「我々は奴の行動を、子供達を守る責任を放棄したと捉えてよいのでしょうね!?そもそも鎌足は、〔政府団〕や〔保護者会〕、〔企業群〕が推薦、任命した〔教師〕ではない!アナタが校長権限で〔教師〕と任命した男だ!つまりアナタは、あんな無能な男を〔教師〕とし、裏野で働かせていた!そう捉えてよろしいのでしょうね!?」

「おい、そりゃあ言い過ぎってもんじゃろうが。あの男は・・・」



 そんな美作の追及に、汚野校長が口を開いた直後、



「私も〔次世代〕の生みの親、アナタ方に娘を預ける母として、要求したいことがある」



 円卓の片隅を埋める1団から、絶薙大和が立ち上がって声を上げた。その言葉を援護ととった美作が、



「見なさい!〔保護者会(プロテクターズ)〕もアナタ方に弁明を求めています!〔責任の所在〕を明らかにしなければならないのです!そもそもアナタ方は彼らの・・・!」



 勢いを強めて汚野へさらなる追撃を行おうとした瞬間、



「管理官」

「は?」

「少し、黙れ」



 4大武装組織の一角、〔保護者会〕に属する絶薙大和の刃のごときひと睨みが青年に刺さった。



「し、しかし・・・」



 そう続けようとした管理官へ、



「管理官は、〔政府団〕から独立した組織である〔学校〕と、そこを守る〔教師陣〕を監視し、必要に応じて干渉する立場にある。ゆえにこのような〔教師の暴挙〕を見過ごすと、アナタはその管理責任を問われかねない。だから〔責任の所在〕を明らかにしたいのはわかる。ここで全てを鎌足という〔教師〕のせいにしておかねば、アナタは監督・管理不足と見なされ、〔政府団〕の面子は丸潰れ。アナタの出世街道は閉ざされるわけだ」

「あ、いえ、私は・・・」



 図星を突く大和の冷静な声に美作が狼狽える。

 そして、



「だがな政治屋」



 黒の女はその間隙を見逃さず、



「私の娘の命が危ぶまれたのだ。立場や面子を守るための追及は、後にしてもらおうか」



 管理官を一刀両断、(ことば)で斬り伏せた。ゴクリと生唾を飲み、〔政府団〕代表たる美作管理官がすごすごと椅子に座る。

 その様子を見守った汚野と鞍馬は、



「・・・多分、これヤバいのう?死ぬ?ワシ死ぬ?」

「・・・いや、え~っと、どうでしょう?」



 などと小声で交わし、そう思わせた黒の女を見つめる。女、絶薙大和が振り返り、言った。



「校長。私の要求は1つだ」

「な、なんですかいの?」

「私と鎌足縁を戦わせろ」



 大和のあまりにも不穏な意志表示に、場の空気が凍った。

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