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薄ら汚い野に咲く一輪のハゲ

 同刻。



「どういうことか、ちゃんとした説明を聞けるんでしょうね、汚野(きたの)校長!?私、美作(みまさか)は、〔政府団(ガバメンツ)〕代表、裏野高校担当管理官として、正々堂々、アナタから説明を受ける権利がある!」



 一虎の側にいた、〔論害〕の脅威から誰よりも早く逃げ出した金髪オールバックの青年、美作は円卓の反対側に向かって叫んだ。

 サッシが下ろされ、薄く蛍光灯の点った会議室。その中央に設置された円卓につく十数人分の総意を代弁した美作の言葉と、人数分の視線を受ける、1人の男がいた。

 男、裏野高校・校長・汚野(きたの)は、青年の訴えに対し、ゆったりとした動きで口髭といかついサングラスを直した。男の武骨な右掌は、そのまま滑るようなスキンヘッドを撫でる。だがその行為は、周囲から刺さるように注がれる疑念と不信を伴う眼差しを和らげることは出来ない。男、汚野校長はそれでもその一際浮き立つ巨躯を不動のまま維持する。

 そして、



「鎌足がくるまでは、ワシには何とも言えませんけえのぅ」



 汚野は見た目通りの極道な雰囲気を放出しながら、訛った言葉を重々しく放った。黒いサングラス越しに、美作青年を威圧する視線が光る。その言葉に円卓の一角、4つに分かれた派閥の1つから、黒いスーツの中年女が殺気のレベルまで高まった一際濃密な〔裏力(ストレス)〕を放つ。鋭く睨みを効かせたその人物は、つい先ほど片腕で校舎大の骨塊(こつかい)を受け止めた超絶の戦闘者。〔論害〕に追われていた天出雲深夜の母にして、竹叢一虎の持つ〔ジン核〕の貸与者、絶薙大和だった。大和の醸す、敵意に近い感情の放出が、空気をズシリと重くさせる。

 スキンヘッドの校長・汚野が、それを不遜な腕組みで堂々迎え撃ったことで、亀裂が奔らんばかりに会議室の空気が軋んだ。

 すると、



「あ、あのあの校長?ホントに大丈夫なんでしょうか?流石にこれは、穏やかじゃないですよ」



 不敵なスキンヘッドの傍らに立つ影、上品な薄茶色の髪に柔和な面立ちの男が、汚野だけに聞こえる気弱な声量でそう聞いた。ブラウンの高級ブランドスーツの袖を、もじもじと落ち着きなく動かす男、裏野の若き〔教師(ティーチャー)〕である青年・鞍馬(くらま)正治(せいじ)を汚野は鼻先で小さく笑い、指先で手招く。自信に満ちた汚野の様子にわずか安堵した鞍馬がそそくさと耳を寄せる。すると汚野は小声で言った。

 曰く、



「ワシ、知らんもん」

「・・・は?」



 鞍馬は、汚野の言葉の意味が裏解出来ず、数瞬の間を置いて聞き返した。すると、裏野高等専門学校の代表、校長たる汚野は矢継ぎ早の囁きを続けた。



「ワシ、知らんもん!また鎌ちゃんが勝手にしたことじゃもん!ちゅーか、〔遠征〕からちょっと補給で帰ってきて、あの場におらんかったワシにどーせえ言うん!?ええ!?それにホラあれ、ワシを睨んどる奴!戦闘狂で有名な〔裏論使い(ディベーター)〕、絶薙大和じゃろ!?ヤバいっちゅうの!視線で斬られるっちゅうの!斬られるっちゅうか、すでに斬れとるよねワシ!?のう!?ワシ死んだのう!?おお、死んだのう!?」



 汚野の、態度とは裏腹な言葉に、鞍馬はポカンと口を開けて唖然とする。実のところ、汚野校長はこの状況に内心で超ビビっていたのだ。裏野〔教師陣(ティーチャーズ)〕代表のまさかの言い逃れに、式を全うした直後に姿を消した鎌足に代わり、この場をなんとか取り仕切っていた鞍馬青年が追い縋る。



「そ、そんなあ。き、汚野校長は〔次世代中心社会〕において、〔次世代〕を守る4大武装組織の一角、〔学校〕を拠点とする〔教師陣〕の代表。裏野の校長なんですよお?そもそも、鎌足先生と僕に入学式を一任したのは校長ですし、幾ら〔遠征〕で校外にいたと言っても、〔鎌足先生の起こした暴挙〕に対して、責任があるんですからあ」

「知らん!ワシ、知らんよ!」



しかし傍から見れば、汚野は不敵にニヤニヤしながら同僚と内緒話でもしているようにしか見えない。そのため、2人が言葉を交わせば交わすほど、周囲の視線の刃がより鋭さを増す。2人の〔教師(ティーチャー)〕は背中をびっしょりと汗で濡らしながら、それでもなんとか威厳を保とうと、顔面を引きつらせながらギリギリ不敵に見える引きつった微笑を浮かべる。

すると、4大武装組織の1つ、〔政府団(ガバメンツ)〕を名乗った美作管理官が、軋る空気に怯えながらも口火を切った。

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