反咲
深夜の質問に、敵対者の声が嫌味っぽく響いた。
「〔応答〕。先に名乗るのが礼儀だろ?」
「・・・〔戦論派・蹴撃系〕・〔裏論使い(ディベーター)〕、天出雲深夜」
「・・・なるほど、〔裏力〕の質である〔論派〕と、能力の〔系統〕。それを同時に示す〔派系〕まで律儀に名乗るその潔さは、〔正論派〕の馬鹿正直さとは違う。〔常に強者たろうとする論派〕、〔戦論派〕の美学か」
薄暗い部屋の奥から、人の動く気配。悠然と立つ深夜の側で、一虎は息を呑む。少年の後ろには、わくわくしている赫夜に、頭を垂れる桧王がいた。
現れる、長身。上下灰色のスウェットを身に纏う、それは男。その両手を覆う黒革の手袋と、手首についた小型の円盤からタラリと伸びる、幾本かの細く白い〔糸〕。そして、顔全体の要所を覆っているのは白色はどうやら美顔パックであり、その上には〔楽〕の文字が横長にレイアウトされたアイマスクが鎮座している。
奇妙な姿の少年が、名乗る。
「〔異論派・操作系〕、反咲柳児」
「・・・〔異論派〕。〔目的のためなら手段を選ばない論派〕」
深夜に言葉を向けられた少年、人相不明男、反咲柳児は、右手で背中まである寝癖のついた黒髪をボリボリかき、左足で右足の内ももをかく。
だが、全身に倦怠感を纏って怠惰を表す少年の動きが、ハタととまる。
「・・・」
「「?」」
片足立ちのまま糸が切れたように動きを止めた少年を見て、一虎と深夜に怪訝な色。すると、どうやら彼の従者だったらしい桧王が、口を開く。
「柳児様ハ、二度寝ニ入ラレマシタ」
赫夜が面白がって反咲柳児に体当たりするまで、一虎と深夜は動けなかった。