白!
少女の声に応じて両足先の白い靴の踵に変化が起こるのを少年は見た。深夜の〔裏力〕を抽出した靴型の〔裏論武装〕が、〔裏論〕という超常現象へとエネルギーを変換し、展開。靴のヒール部分が、溶け出したガラスのように、しかしコマ落しの映像のごとく瞬く間に、深夜の踵を持ち上げる。さらには、両足のそれが完全にハイヒールへ変化するのを待たず、深夜の右脚が持ち上がる。
「〔天地闊法〕・〔攻脚〕」
少女の黒のニーハイソックスに覆われた健脚が、蛇のようにしなる。
そして、
「〔頂狩〕」
少女の上段蹴りが、険しく怜悧な顔を狙った異物を、一薙ぎのもとに叩き落とした。だが、それを見計らっていたかのように、
「!?」
軸足となった深夜の左脚、それが踏みしめていたカーペットが奥へと引かれる。軸脚が床から外れ、深夜の身体が宙に浮く。それを狙い澄ました追撃、携帯ゲーム機とマグカップ、漫画本と弁当箱、〔論戦の基本〕と書かれた薄い参考書が、不安定な姿勢の少女に飛んだ。
対し、
「〔刃の踵〕」
深夜はその動きを停滞させることはなかった。狭い通路の壁に手を伸ばすと、腕を張って、深夜を後方へ倒そうとする慣性を無裏矢裏止める。同時に少女は、流れた右脚の捻転力を利用して回転、流れるようにスカートが螺旋を描く。さらには右脚が鎌首をもたげたと同時に、深夜の声に応じた〔裏論武装〕・〔ヒール12〕は、ヒールをガラス質の刃へと変じている。
そして、
「〔攻脚〕・〔滅玉嵐〕」
ボッ!
一虎に目と耳に届いたのは、空気が爆ぜる音と白い閃光。飛来物を薄く鋭い刃の形状に変化した踵で両断した深夜の姿。繰り出した脚の螺旋軌道で、物体をミキサーのように粉砕し、見るも無残な残骸とせしめた美技だった。呆然と見惚れる一虎に続き、赫夜と桧王も諍いを中断して少女の姿に見入る。続いて、まるで今思い出したように、重力に引かれてふわりと床に脚を降ろす深夜の姿が一虎の瞳に映る。そして、少年の視界が靴とは別の白を捉え、逆三角形をしたその形状が目に焼付く。その視線に気づき、遅れて降りてきたスカートを慌てて押さえる深夜の手。見つめ合う沈黙。
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・見た?」
「見てな・・・・・・・・・・・・・・・・・ごめん白!」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・腐れロリコン覗き魔」
「ち、違うって!み、見えたけど、それは違うから!」
お尻部分のスカートを押さえた深夜の蒼い眼には、先にも増した不信感。一体どうやったら彼女との関係を修復出来るのかわからくなってきた一虎は、さらなる不遇に脳内で頭を抱え、引きつった笑みを浮かべた。するとその隙を突き、深夜と一虎を結ぶ直線状に、梱包された段ボールが飛来。深夜はダンサーの優雅なステップを思わせる横スライドで身をかわし、必然中身の詰まったそれが、一虎の腹部に見事命中、悶絶させる。
さらに、
「・・・〔立証〕を求める」
蹲った一虎を無視して、深夜が部屋の奥へ向けてそう言った。