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S9 本気


「それではまずは見せてもらいましょうか、時任君?」


征爾は相沢軍団長に案内された軍団舎で話をする事になった。

立派なソファーがあるので長時間の着席もそう疲れないだろう。

そして今の軍団舎には相沢姉妹と征爾しか居なかった。

内緒話には持って来いの場所だったのだ。


「分かりました」


そう言われて征爾は周囲に彼女たちしかいない事を確認して力を使う。



≪『時操作』展開≫

征爾は周囲の時の流れが鈍くなっている事を確認して、自分が座っていたソファーを横へずらした。

時がほぼ止まっているため、抵抗が起きる力も弱くソファーは簡単にずれた。

征爾はずれたソファーに座って時操作を解いた。

他人の目からは彼の椅子が突然後ろへ瞬間移動したようにしか見えない。



「……!」

「――やっぱり!」


 驚くばかりの相沢軍団長とその動きが目で見えていたのか相沢朱雀が納得していた。

≪やっぱりと言ったと言う事は、見えていたと言うわけか、この相沢朱雀は≫

地位は相沢軍団長の方が上だが、天性の才能や能力としては朱雀の方が優れていると征爾は判断した。動体視力は鍛える事が出来るとしても当然限界が存在する。人間の限界と言うモノが。

相沢軍団長は気が付いていなかったので教えなくても良かったかなと思ったが、気にせず話を進めることにした。


「俺がこの能力が発現したのは半年前です。周囲の流れの変調が最初に感じた異変で、後に過去視・未来視の力も身に付きました。特に後者は意識せずに発現する事があります。相沢さんが入学式の日に喧嘩した時、その動きを見る事が出来たのもこの過去視の能力の御陰です。過去視はある程度意識した時を見る事が出来るので、音速の攻撃であっても見切れます」

「……なるほど。過去視があればどんな速い動きでも見ることが出来るわね」


 朱雀はうんうんと頷いていた。彼女に取っての疑問が次々と解けているのだから喜々としているのも分かる気がする。


「今の所、俺が使える能力は『時間操作』と『過去視』、『未来視』の三つだけです。それ以外は怖くて使った事も無いです。この力については、一番似ている術式として魔術に関する書物を調べた事もありますけど、類似項目は存在しませんでしたし、現人神の能力が暴走して大事故を起こしたと言う事件もありましたので……」

「なるほど。確かにその判断は正しいですね。暴走して一地域消滅など起こされては取り返しも付かない事になりますしね。でも、『時操作』の時に魔素移動は見られなかったから魔術ではありませんし、となると虚術の範疇?それは流石に私でも確認は無理ですから……う~ん」


 呆然とした様子も混じっていた相沢軍団長は左手を顎に当ててブツブツと言いながら悩んでいた。ちょっと体を前に倒して、肘を太腿の上に置いた様子は『考える人』にも見えた。そんな彼女が悩んだ末に口を開いた。


「……時任君、それを話したのは私たち姉妹が最初でしょうか?」

「その通りです、相沢軍団長」


相沢軍団長は非常に真剣そうな目で征爾を見つめてきた。


「両親や兄弟にも話していないかしら?」

「はい。お話したのは御二人が初めてです」


 征爾は現人神になった時、常識では理解出来ない事を両親に相談しても無駄だと思ったので真っ先に資料に頼ったのだ。その資料も期待外れであったため、次に期待出来るのは他の『現人神』に頼る事だったのだが、彼女たちが『あの人あいざわ』の知り合いいちぞくである可能性に賭けたのだ。今の所、一番分の良い賭けだと思う。

隠していてもどうせバレてしまう可能性が一番高い相手だ。バレる時が早くなるか遅くなるかの違いしか無いと思っている以上、嘘を言うのも意味が無いだろうと悟った征爾は語ったのだ。


「何故、話すつもりになったのでしょうか?幾ら朱雀の目だとは言っても目の錯覚と言い張れたのでは無いでしょうか?」

「……それは、貴女たちが『相沢』姓だからです」


 その言葉を言った瞬間、ほぼ黙っていた朱雀は顔をしかめた。


「やっぱり、アンタも『父さん』が目的なのね……」


 朱雀は思い当たりがあるようで、『父さん』と発言した。やはり『あの人』の血縁者だったか、しかも父親となるとこれは最高の関係を持てそうな相手だと悟った。


「悪いな。一番頼れそうな存在ではあるからな」


 朱雀の反応から見て、過去に何度か『あの人』へ近付くために、彼女たちへ近付いた人が居るのだろう。そして、それに嫌気が刺している事も分かる。自分よりも自分の親を評したと言うのが気に入らないのだろう。


「どいつもこいつも父さん、父さん……」

≪やっぱりマズかったか≫


 朱雀は顔を歪めて肩を震わせている。その鋭い視線で見据える彼女はまさに獲物を前にした猛獣のようだ。征爾は思わず引いてしまう程の殺気を発していた。


「……アンタ、本当に『時』の力の現人神と言うならこれからあたしと勝負しなさい!当然、時の力も使っていいわ、ただしあたしも全力で行く」

「朱雀っ!」


 軍団舎にある備え付けの棍を征爾に向けた。相沢軍団長は慌てて止めようとするももう間に合わない。これはどう見ても殺す動きだ。



≪『時操作』展開!≫


 時の流れを遅くしたにも関わらず、あまり遅くなっていないその拳は体を反らして必死に避けた。


「なっ……っ!」


 絶句してしまいそうになった。だが、見えない程速くはない。


≪……いや、動いて見える程速い一撃なのか≫


 確かに征爾の目にはスローモーションで動くように見える棍。だが、これは時の流れを遅くした世界での話。現実なら見えないほど速い一撃だと言うわけだ。


「これが……相沢朱雀の全力か!」


 征爾は慌てていた。圧倒的優位に居る筈なのに。彼女ならもっと速く、速く、速く動けるのではないか。よもやまさか、征爾の時制御に歯向かっているのではないか。そう思わせられる程、彼女の動きは速かった。

……事実、朱雀が征爾の時制御に『抵抗していた』事は後々知る事になるのだが。


「一撃で決める!それしかない!」


 そう悟って征爾は今まで隠していた技の封印も解く。


 古武術『柴原しばら流徒手葬鬼そうき術』。


 鬼を素手で葬るために作られたとされる武術で知る人ぞ知る『理想論ゆめまぼろし』武術である。どんな相手であろうと急所に一撃、掌底しょうていを打ち込むだけ。ただ、掌底だけに特化させた拳法術、それが柴原流葬鬼術である。

掌底に特化しているため、手の力は強く、その衝撃だけで瓦割だってやれる。ただ、狙いを定める事、零距離を取る事、一撃を貯める事、そのいずれもが動く事が出来る人に対しては不可能だ。相手を牽制するようなジャブや裏拳、強力なストレートがない。ただ一つ、急所を攻撃してその部位に致命的なダメージを与えるだけの能しかない。

故に『理想論ゆめまぼろし』と呼ばれるのだ。だが、征爾にはその大きな弱点三つを補う『手段』がある。


≪狙うは一点。どんな人間であろうと弱点となる左胸、心臓だ!≫


 掌底で一瞬圧迫して心筋梗塞を起こさせる。心筋梗塞が起きたとしても相沢軍団長なら応急処置法も会得されているから蘇生は出来るだろうし、朱雀は生命力も段違いな奴だ。そうタカをくくって征爾は自分の唯一の必殺技を繰り出した。


「掌底!」


 彼の拳は恐ろしいほど速い訳ではない。彼の拳は恐ろしいほど正確に放てる訳ではない。彼の目は高速を捉えるほど優れた訳ではない。だが、彼には『時の流れ』を変える力があった。『理想論ゆめまぼろし』の拳法と呼ばれる『柴原しばら流徒手葬鬼そうき術』、それを実用化させるための力があった。


「ガハァッ!」


 朱雀は声を上げて、倒れ……なかった。前屈まえかがみにはなっているものの、二本の足でしっかりと立っていたのだ。


「なっ!?心臓を捉えたはずだぞ!」


 そう、時で相手の動きを無くして必中となった筈なのに、彼女は動いたのだ。征爾には信じられなかった。動けなくさせたはずなのに、彼女が立っている事を。

その動揺で彼の時操作は断裂し、朱雀の一撃を許した征爾は呆気なく倒されたのだった。



◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆


用語解説:柴原流徒手葬鬼術(しばらりゅうとしゅそうきじゅつ)

使用者:時任征爾


掌底を急所に突く事だけを極めた古武術。ただ化け物と対峙した時でも勝てる可能性が持てるよう『一撃必殺』の拳を生み出すために考えられた武術で知る人からは『理想論』拳法を評されるほどである。

非常に強い掌を持つが、それ以外は平凡でしかないため、急所突きを一度で必ず成功させなければ勝てない。

征爾には『時操作』があるため、時の流れを極めて遅くする事で迎撃される事も、急所突きの攻撃点をずらされることも無く、本当の一撃必殺技を放つ事が出来る。

何故征爾がこれを選んだかと言えば、万が一護身で使わなければいけなくなった時に殺した形跡が非常に残りにくくするためである。

征爾が護身術として習い始めたのは現人神となった中学三年になってからで、即席で武術を作り上げる必要もあった事から掌底しか無いこの柴原流徒手葬鬼術を選んだ。


ちなみに彼の師匠は普通に日本拳法の使い手である。

ようやく主人公が戦いました。

でもまだ戦力としては程遠いです……。

こんな主人公に似合う武器が欲しいです。

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