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S7 相沢軍団長


「姉さん……っ!」


 征爾を踏み付けている朱雀は予想外の人物が来た事に驚きを隠せなかったようだ。


「朱雀、その足を退けなさい!」

「は、はい!」


 朱雀は言われるまま、征爾から足を退けて腕の拘束も解いた。


「ふぅ……一時はどうなるかと思ったぜ」


 征爾は大袈裟に呟きながら立ち上がった。

痛みは無い程度の拘束だったため、そう大したダメージは無かったが声に出しておきたかったのだ。

化け物相手に無事だった、そう自己暗示させるかのように征爾は言った。

そして思った。

最高の報復機会であると。


≪目の前にはこの学校に置ける生徒側のトップと言える相沢軍団長。しかも姉となるとこの化け物相手でも優位に立てるだろう≫


 しかも、朱雀は驚く様子であった事から家族内の順位も姉>妹なのだろう。


「全く、貴女は昨日も喧嘩をしたのでしょう?今日も喧嘩をしたとなると学校側も黙っていられなくなるわよ?」

「……分かっている、そんな事は」

「分かっていないじゃない!昨日の今日よ、二日連続となると私の方でも庇いきれなくなるわよ!」

「……今日は特別だもん」


 外見はそう似ていない姉妹の説教が始まっていた。説教をする姉と言い訳し続けて聞いていない朱雀。

あんまり苦痛の様子も無いのが少しつまらないが、それでも朱雀は非を認める当たり、少しは報復出来ていると征爾は思った。

考えてみれば分かるだろうが、連日で暴力事件を起こした――昨日の件は両成敗でケリが付いたらしい――となれば前日の喧嘩にそのまま上乗せする形で問題は肥大化してしまうだろう。相沢軍団長が『軍団長』の役職に就いている以上、ある程度の無茶は通じるのだろうがそれにも限度がある筈だ。


≪昨日の一件は警告程度で済んだが、今日の事は俺次第ではイエローカードに成りうると言う訳か≫


征爾は心の中で朱雀がどんな立場に立っているのかを思い浮かべた。相沢軍団長も身内の恥を抑えるのに必死のようだ。


≪でも本当に姉妹なんだな。……外見は似ていないけど≫


 あれだけ傍若無人無礼無作法な相沢朱雀とは違い、出会ったばかりの俺にも礼儀正しさを見せる相沢美代軍団長。背は征爾よりも高く、琥珀色の目と赤が入った茶髪のロングヘアーが特徴的で出るところは出た正しく美女タイプだ。顔のパーツも良く、眼鏡を掛けているのがより彼女を知性的に見せている。

それに対して相沢朱雀は自らの意思を貫こうと駄々捏ねている子供のように見える。黒のポニーテールが特徴的で目の色も黒だ。


≪姉妹なのに、目の色が違うのは何故だろうか?遺伝学的にはほぼ有り得ないのに≫


 それだけではない。

性格面でも朱雀の方は陽気さや活発さが印象的な元気少女なのだが、姉の美代は冷静沈着で妖美な美しさを持つ大人の女性と言った感じだ。今は両者共に少し姉妹の関係となって私情が入っているみたいではあるが。


「貴女は仏の顔も三度までと言う言葉も分かっているのでしょう!」

「だから、今回は特別だって!」


 だが、二人は一切態度を変えない。征爾は聞いている内に今度は頭が痛くなってきた。意地でも態度を変えそうにない二人を見ていて、征爾が説教を受けている気分になってしまったからだ。

朱雀を助けるつもりではないが、このまま無駄に時間を取られるのも嫌だと思ったため、征爾が切り出して行く事にした。


「だから、貴女と言う子は……」

「あの……、助けていただきありがとうございます、相沢軍団長」


 説教の合間へ強引に感謝の言葉を入れる征爾。

藪蛇な可能性もあるが、ずっと目の前で説教を聞き続ける様子を見るなど気が滅入るだけだ。この選択は間違っていないだろう。


「え?え?ああ……。そうね、私が助けた事になるのかしら」


 先程も見たような曖昧な返答。征爾はこの時、初めて悟った。


≪この人たち、姉妹なんだな≫


 思わぬところで感謝の気持ちを言われると見せる仕草、口調。それが非常に良く似ていた。外見や性格などは大きく違うが、想定外の事を言われた時の対応。咄嗟の事になると似ている場所も出てくるようだ。


「……コホン。妹の失礼、申し訳ありません。お詫びを申し上げたいのですが、そちらは?」

「自分は時任征爾、と申します。朱雀さんとはクラスメートです」


一人称もいつもの『俺』から『自分』に変えて礼儀を正して返答した。仮にも相手は軍団長。最高級の敬意を表す必要があるだろう。


「それでそちらは?」

「ふへぇっ!」


 ここの呼び出した張本人だと言うのにすっかり蚊帳の外になっていた神奈かんなが怯えたように俺の後ろに隠れてしまった。天下の軍団長様を前に平生を保っていろ、なんて言うのも彼女には酷だと征爾は思ったので、彼女の代わりに紹介する事にした。


「あ~、彼女は井上神奈と言います」

「……君の彼女?」

「違います」


 軍団長は笑みを浮かべて聞いてきたが、征爾はすぐに否定した。

出会って二日目に恋人関係になっていたらそれこそ作り話だ。


「でも、朱雀。何で貴女は時任君と喧嘩したの?昨日の須藤君たちは理由を聞いていたから許容するように学校側にもお願い出来たけど……場合によってはただでは済まされないわよ?」


 美代軍団長はギロリと朱雀を睨みつけた。

≪……これ、まずそうだな≫

おそらくそれなりの『理由』があれば問題無く出来るのだろうが、征爾のこれまでの立ち振る舞いでは攻撃する理由が無いのだろう。征爾にもされる理由など思いつかないのだ。唯一有りうる可能性は一つだけ。

初日から化け物のような力量を発揮した少女だ。征爾が『現人神』である可能性に勘付いているかも知れないが、征爾はそれを告白する訳には行かない。


「だって、あいつが……」

「『だって』じゃないわよ!あれほど勝手な喧嘩はしないでと言ったじゃない!」


 人を言い訳にした朱雀のせいで、目の前で姉妹の説教が再開されてしまった。

征爾は呆れんばかりの様子で彼女たちを見つめた。


「……軍団長ってもっとクールだと思っていた」


 すっかり蚊帳の外となってしまった被害者の征爾も呆れんばかりの様子で呟いた。荒くれ者のトップと言うとそれ以上の荒くれ者か、もしくは彼らを統べる人徳者か。征爾のイメージでは相沢軍団長は人徳だと思っていたのだが、どうやらそうでも無かったらしい。あの相沢朱雀が睨まれて縮こまっているのだから。


≪放置するのは面白いかも知れないが、俺には巻き込まれる趣味などない。仕方ないか≫


 様子を見ていた征爾は後々を考えて再び身を乗り出す事にした。


「あの、相沢軍団長!自分としては今回の件については全く問題視していません。怪我もしておりませんし」


 征爾は事件に関与して無駄に名前が上がるのも避けたかった。地味で過ごしたいのに被害者の一人として哀れまれるようになったら今度こそ周囲から注目されてしまうだろう。だが、征爾の目論見は簡単に捻り潰されてしまう。


「被害者の意見と加害者の躾は別問題です!」

「ううう……」


 完全に弱者と強者が入れ替わったかのごとく、朱雀は怯えていた。


「だから何故危害を加えたのですか!」

「アイツが……、アイツが……怪しかったから」


 わざわざ弁護してあげたのに、火に油を注ぐかの如き発現をする朱雀。征爾は頭に手を当てて、ダメだこりゃと呆れんばかりだった。仏の顔も三度まで、もう弁護のしようもない。


「人を怪しいとか言わないの!」


 ゴツン!

見事な拳骨が朱雀の頭に入った。音がここまで聞こえてきた上であの相沢朱雀が非常に痛がっていた。

≪音を響かせた上でこの有様とか……マジでこの人も化け物臭いな≫

改めて征爾は彼女たち相沢姉妹の事を高く、そして愉快な人だと評価した。そしてもう、征爾は彼女の説教を止める事を完全に諦めたのだった。


「……遠くない内にこの二人には話す事になるかもな、ふふふ」

「と、時任君?どうしたんですか、いきなり笑って?」

「き、気のせいだ、気のせい。ハハハ」


 征爾は神奈に独り言が口に出ている事を聞かれて少し焦ったが、笑って誤魔化す事にした。征爾と言う異常が入ってもその在り方が変わらない二人を見て、つい笑みを零してしまったのだった。

――結局、朱雀が三十分説教を食らっている間、征爾もこの場からは動かずその説教を聞き続ける事となったのだ。


≪うん、軍団長と相沢の印象が大きく変わった気がしたな≫


 今日一日だけで彼女たちの姉妹関係と言う人間性が強く現れた面を見て、何だか征爾は好感を抱いていたのだった。




◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆


本名:相沢美代(あいざわみよ)

称号:天下無敵の軍団長


今河橋高校三年J組所属で『軍団』の軍団長を務めている女子生徒。

相沢朱雀の実の姉に該当するが、血の繋がりは無い(※)。

冷静沈着で妖美さが光る眼鏡美女だが、朱雀の前では豪胆で力任せな面も見せるなど性格を場合に応じて変えることが出来る女性。

(本人曰く、自らの演技力の賜物との事)

その演技をするために多大な努力をしており、どんな性格も『擬態』出来るのは努力で培った才能の御陰である。

(※美代は特別養子縁組によって、相沢夫妻に引き取られている。特別養子縁組は戸籍上で養子を実子扱いであるため、朱雀とも実の姉妹関係にある。長女も美代となり、朱雀は次女に当たる)


この作品、相沢一族がチートです。

作品中最強は彼女たちの親父の予定。


規格外の神様は出ない予定です。

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