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S6 突然の暴力


「嘘だ!そんなハズがない!」


 朱雀は突然征爾に殴りかかった。

突然の攻撃だったが、そう速い訳でも無く、威嚇のような拳。

征爾はそれを容易く避けた。力は当然だが使っていない。使う理由も無いし、使わずとも予想出来たからだ。


≪失言を言った瞬間に何かアクションを起こすのではないか。そう予想していたけど、本当に殴りかかって来るとはな……≫


 不良の言葉に乗って、喧嘩をしたぐらいの女番長が相手だ。突然の攻撃に備えていた甲斐はあったようだ。


≪だが、俺には切り返しが無い。『力』は最終手段だ≫


 征爾には彼女に対する決定打が欠けていたのだ。

『力』を使って彼の使える古武術を実用的なモノにしてしまえば、彼女に対して勝てる可能性はあるだろう。が、あれは最終手段。

今この場には目の前の相沢朱雀だけではなく、彼の近くにいる井上神奈も居る。特に神奈は小動物的な存在である事から、脅されてしまえば簡単に秘密を吐いてしまいそうな少女だ。


≪あれを使うのは『必殺』を誓った時のみ……。殺される心配が無いなら封印するしかないだろう≫


 だが、素手で戦うには彼女が武芸の達人であろうと自らの間合いに入るべきだ。ましてや距離をとった瞬間、彼女の事だ。遠慮無く『魔術』を使って潰してくるだろう。アンチ・マジック素材など、護身道具のように持っているハズも無く魔術に対する対抗手段と言うモノを習った事も無いため、打たれたらそれこそ手も足も出ない状況になると征爾は考えて、より間合いを詰めた。

そして彼女の肩に向けて掌を向けた。


≪肩を潰せば勝機はある……はず≫


 朱雀は迷うことなく征爾の腕を取り、引き込んだ後に地面へと叩き付けて征爾の頭を靴で踏みつけた。

一瞬だった。一瞬過ぎて対抗する術も無く、踏み付けられたのだ。利き腕である右腕を後ろに取られた状態でしかも頭を踏み付けられている。


≪予想はしていたが、ここまで化け物か≫

「……参った」


 征爾は躊躇うことも無く、降参を宣言した。そうでもしておかないと重傷を負わされる危険だってある。この女の事だから魔術治療に関する知識もありそうだが、痛みは勘弁願いたい。

まだ抵抗しようものなら、出来る事は出来た征爾だがそれは多大なリスクを払う事となるため早急に降伏したのだった。最初の一撃を避けたのはその後の彼女の動きを見たかったに他ならない。どれほどの体術を有しているのか見てみたかったのだが、結果的に言えば征爾とは次元が違う存在であったのだ。

だから、征爾は即座に降参したのだった。


「え?え?え?あ、相沢さんが、と、時任君に、な、なんで!」


 二人の一番近くに居た神奈は今更と言わんばかりに慌てていた。まぁ、無理はないだろう。気が付いた時には征爾の頭を踏み付ける朱雀の姿があったのだから。


≪それにしてもまぁ、予想以上の化け物だな。人じゃないと言えばそう断言できそうな、そんな奴だな≫


 征爾は心の中で彼女をそう評価した。

正直、高等学校の枠に収まるような人物ではない。飛級して大学、いやもう社会にも十分通用するような人材である。

『何でこんな凡百と一緒に過ごしているのか』

それを思わせるような化け物、それが相沢朱雀だ。


「俺には抵抗する意思は無い。だから、足を退けて腕の拘束を解いて……」


 もらえないかと言おうとした瞬間だった。


「そこの貴方たち、何をしているの!」


 征爾が相沢朱雀に踏み付けられている所で上級生が来たのだ。

しかも、その上級生には見覚えがあった。少し赤がかった長髪を持った女子生徒。女性としては背が高く、眼鏡を掛けて大人の女性をイメージさせるような人だった。彼女はこの学校に入ってまだ『二日目』なので他学年の人など殆ど知る筈もない征爾でも知っている人物だった。


「あ、相沢軍団長……っ!」

「え?え?え?」


 そう、入学式の時に新入生へ挨拶をした相沢美代みよ先輩だったのだ。現場を取り押さえられたとなれば朱雀も言い逃れは出来ない……、相沢姓?


≪ちょっと待て。まさかこの二人……≫

「姉さん……っ!」


その姓から予想出来た言葉が朱雀から放たれたのだった。




◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆



用語:今河橋高校

全校生徒九百人、一学年が二十人クラス×十五の三百人で構成された高校。

クラスはAからOまで通し番号となっている。一年の時は入試の成績から平均的になるようにクラス分けされるのだが、A組の須藤と征爾は真面目にテストを受験しなかったのもあって、本来の実力よりも低い評価をされて同じクラスとなった。


県下一の進学校で、少し授業料は高いが最高の環境を自負しているほどである。

山の麓に構えているため、通学の便はそう良くないが広大な敷地面積を誇る。

三つあるグラウンドに加えて野球場、サッカースタジアムが完備しているだけでなく、闘争場も備え付けられてある。

また体育館も四つある上に柔道場や剣道場も存在している。

文武両道を掲げており、所属生徒は全員部活動に所属する事が校則で義務付けられている。

ちなみに生徒全員が大学へ進学する進学校であるが、大学進学率七割程で高いとは言えない。

それは高い目標を掲げて浪人する人が多数居るためである。


なお実在の今川橋とは何ら関係はありません。


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