S5 関わりたくない女
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翌日、今河橋高校の始業式があったのだが、始業式後のクラスの雰囲気は一変していた。
昨日の喧嘩に負けた須藤たちはすっかり大人しくなり、勝った相沢朱雀も面白く無さそうな様子でホームルームに望んでいた。
クラス委員についてだが、大半が朱雀を押したのだが、朱雀が一言。
「あたしがクラス委員長になったら皆を扱き上げるけど、それでもいいならやるよ?」
その一言に絶句したクラスメートたちはすぐに自分たちの意見を撤回していた。結局クラス委員長は敗者となった須藤が選ばれた。朱雀がいる以上、横暴は働けないだろうし、不良のリーダーとして人を統べる術は有していたみたいなので丁度いい人選だろう。
よって彼女が表立って行動しなければ関わる事も無いだろう、そう思っていた時期が征爾にもありました。
「と、時任君。す、少し……付き合ってくれませんか?」
「……井上。修飾語はちゃんと言おうな。誤解されるぞ」
「はうぅぅぅ……」
用件は言われていないが、その顔を見ればすぐに分かる。
そう、征爾の前の席に座っているこの井上神奈が相沢朱雀にお礼を言いたいから一緒に来てくれと言い出したのだ。
先程、昨日の煽りをした事で須藤から謝られた時に大泣きして、クラス全員が焦って宥めに行ったら、征爾が宥めた時にきっかりと泣き止んだのだ。
それ以来完全にクラス内では征爾が神奈の保護者となってしまったのだ。
出来れば断りたかったのだが、放置していると教室の中で本当に泣き出してその責任が征爾に問われる事になるので了承するしかないのだった。
≪流石に井上を泣かしたとなるとタダでは済まないだろうし≫
征爾は平凡な高校生活を送りたいだけであって、周囲の人から『明確』に嫌われながら過ごすのは嫌だった。征爾は手に持っていた本を鞄の中へと仕舞い、神奈と一緒に朱雀に会いに行くこととなったのだ。
「それで何用かしら、時任君?」
「……用事があるのは俺じゃなくて井上の方なんだが」
会っていきなり名指しで用件を聞かれた。彼女と面を向けて話すのは入学式の誰も居ない教室が最初で最後だったからこれが二回目だ。だが、彼女の立場が立場だ。
入学初日に同じクラスの不良九人相手に無双した化け物女である事。そして征爾が望むのは平凡な高校生でありたい事であって、彼女のような化け物との関わりは極力避けたかった。非日常は非日常を呼ぶと言われているのだから、平穏が欲しい征爾にとって相沢朱雀は非日常の原因になるとしか思えなかったのだ。
「あ、あのぅ……」
神奈さえ居なければ。
「た、助けて下さって……あ、ありがとう……ございます!」
朱雀の前に出て可愛らしくお辞儀をする神奈。
「え?え?え?た、助けたつもりは無いんだけど……」
その態度に朱雀は慌てた様子で征爾に顔を近付けた。
≪えっと時任君。何がどうなんだか、理解出来ないんだけど、教えてくれるかな?≫
驚きながらも声を殺して征爾に話し掛けてくる朱雀は珍しく女っぽく可愛かった。誘導次第ではもっと面白い事で出来るのでは無いのだろうか、そう思いもしたが後の報復が恐ろしいと言う結論に至ったので告げ口をしてやる事にした。
「自己紹介の時、井上の番で須藤たちが煽っただろう。それで相沢さんが仲裁に入ったモノだから、井上からしてみれば助けてもらったと言うわけだろ」
その目に求められたままの答えを言ってみた。と言うか、そのために喧嘩を買ったんじゃなかったのかと征爾は問い詰めたくなった。
「あ、あ、ああ~!」
朱雀も納得した様子で神奈を見た。どうやらお礼の意味が本当に分かっていなかったらしい。
≪まぁ、それでこそ脳筋武芸娘だ≫
征爾は朱雀がどう対応するのか楽しみにしていたが、その期待は裏切られて終わる。
「どうしたしまして。あたしも須藤たちを放置するわけにはいかなかったし」
そう言ってウインクをする朱雀。そのウインクが似合っているので、これまた厄介だった。
≪こりゃ見事な社交辞令だな……、こんな事も日常的にやってきたって訳か≫
「い、いえ……!そ、その……、この……」
思いがけない朱雀の笑顔に神奈は顔を真っ赤にしながら小さくなって、ボソボソ小さな声で何か喋っていた。聞き取れないまでに小さな声で喜んでいる姿は何とも言えない程可愛い。
これが見れただけ役得かな、と征爾は思った。
「それよりも時任君」
「うげっ!?」
そこに突然の名指しに驚いて、征爾は露骨に嫌そうな声が出てしまう。これまで蚊帳の外だった筈の征爾に突然矛先が向いたからだった。
≪俺、何か悪い事したっけ?≫
「昨日の喧嘩、野次馬で唯一驚いていなかった。時任君、貴方は何者なの?」
昨日の戦い、思い返してみれば征爾は『力』を使って何があったのかの一部始終を見た。見ていたため、驚きを持ちながらも平生でいられた。それが朱雀にとって違和感となったらしい。それよりも、あんな決闘中に野次馬を見渡す余裕があるとか何者だよと言いたくなった征爾だったが、それを堪えて事実を隠した回答をした。
「……俺は少し古武術を齧っただけの一般人だよ」
一般人と言う所は嘘だが、とある古武術を習っていたのは事実だった。――まぁ、その古武術はただ一つの事に特化している上に実用性皆無で、『力』行使時でないと実戦では使用出来ないようなピーキーな代物なのだが。
「嘘だ!そんなハズがない!」
そう言って、朱雀は突然征爾に殴りかかった。
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本名:井上神奈(いのうえかんな)
称号:小動物
今河橋高校の新入生で一年A組所属。
小動物のような小さな体が非常に可愛らしい少女。ドジでちょっとヤンデレ?
偶然交通事故になりかけた所を征爾に救われた少女。
何事にもチャレンジしようとはするが、臆病な性格が相まって中々交友関係を築けていない。だが、一度打ち解けてしまうとその人に対しては非常に強気な面が出て、強引に引っ張って行くほどになる。
征爾とは席が前後で、困惑していた時に助言をしてもらった事から何となく良い人だと思って慕っている。
一番ひ弱な一般人。