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S4 決闘

S4 決闘



 入学式が終わり、ホームルームも終わった放課後。

自己紹介の時の喧騒は他クラスにも教室の壁を通り越して聞こえていたらしく、グラウンドには一学年ほぼ全員が集まっていた。

十五クラス三百人の内の三分の二以上、二百人はいるだろう。

野次馬の目的は勿論喧嘩見物である。


 征爾も当然その場に居た。

当初、征爾は見に行くつもりは無かったのだが、前の席の井上神奈(いのうえかんな)の誘いを受けたのだ。


「え、えっと……、と、時任君。い、一緒に来てくれませんか!」


 神奈の言葉は一見誤解が生じそうな誘いだったが、征爾は誤解する事無くその言葉の意味を理解していた。


「取り敢えずは落ち着け。ちゃんと修飾語は付けて言おうな」


 征爾はそう言って彼女の頭を撫でた。頭一つ分違う背丈の差があったため、神奈の頭は征爾に取っては丁度いい位置だったのだ。


「うぅ……」

「分かったから。一緒に決闘付いていくから。泣くのをやめてくれ」


 征爾はそう言って更に頭を撫でた。

普通、同年代の少女にそんな行為は恥ずかしくてやれるような事では無いが、征爾は神奈の事を『小動物』と割り切って世話の掛かるペットのように見ていたので、何の躊躇いもなかった。

≪こうして見ると、本当に可愛らしい小動物だな。放置したら全力で泣き喚きそうだが≫

征爾は余り興味が無かったものの、神奈を泣かせて更なる面倒を起こす気も無かったので決闘を見に行く事となった。




「よくも逃げずにやって来たね、相沢朱雀。降参するなら今の内だよ?」


 そう言っているのは猿山の大将である須藤晴登すどうはるとだった。

髪は金髪に染まっており、腕輪やネックレス、ピアスなどを付けて如何にも不良っぽい風貌だが、手には剣と言うよりは鉄の塊と言えるような物があり、武術の心得はあると見える。

不良の大将として目立つ外見をしているが、それは武器を連想させないための罠なのだろう。

その体格からは正直、『破壊王』の異名を持つ男には見えなかった。


「よくもまぁ、ここまで数を集めたモノだね。何人いようがあたしには関係無いけど」


 そう言いながら拳を構えた相沢朱雀。

須藤には十人以上の屈強な男たちが居るのに対して、朱雀は彼女一人だけ。

一見、不良たちが美少女|(一応朱雀は文句無しの美少女ではある)を襲っているようにも見えなくはない。

騒動の原因の種となった神奈は小動物のように征爾の後ろで怯えていて、彼女の傍まで行けるわけも無く、征爾も彼女の下まで行く意味が無いので傍観しているだけだ。


「皆、行くぞ!」

「「うおおおぉぉぉっ!」」


須藤の後ろに居た男たちがバラバラに朱雀へと駆け出していった。その中には素手ではなく、木刀や金属バットを持っている奴も居た。

≪オイオイ、それは流石に犯罪だろう?≫

そう思いながらも止める勇者は何処にも居ない。止めようものなら彼女に味方していると言われ、彼らから見下される日々が待っているのだろうから。その上で大将の須藤は鉄の棒とも言える武器を持っているのだから、突っ込めるハズもない。


だが、野次馬の予想はことごとく裏切られた。

ブン!ブン!ブン!

ヒュン!ヒュン!パシィ!ビシィ!

木刀や金属バットを見ても一切怯えること無くかわして首に手刀を当てて、金属バットを持っていた男は崩れ落ちた。


「な、何が起きた!」

「え?え?何?何?」


 周囲は何が起こったのか、全く理解出来ていない。そのまま、バットを持った男と一緒に攻め掛かった三人も倒れた。立っているのは朱雀だけだった。


「……目に見えない程の速度で攻撃して気絶させたのか?」

「え?」


 征爾はそう呟いた。

傍らにいた神奈は何が何だか全く分かっていないようだ。

≪見てみるか……≫

征爾はそう思って自己暗示を掛ける。



 征爾には力があった。

時の流れを操るだけではなく、近い時間軸なら覗ける力もあったのだ。

その時間は自由に選択して見る事が出来るため、『速すぎて見逃した』場合でも力を使えば彼は見抜けると言う訳だ。


≪『過去視』展開≫


 征爾は見た。

相沢朱雀を鉄バットが捉える瞬間に左手で横から叩いて軌道をずらし、鉄バットを持った少年の首に手刀で一撃。しっかりとその手刀は首の神経を狙って『一時的に意識を奪う事』、それだけを重要視した戦い方だった。その後で倒れた三人の少年たちも全くもって同様だった。



「……あの女、出来るな」


 あの動きは完全に『対人』に特化した戦い方だった。喧嘩三昧の不良たちよりも明らかに慣れている。人を殺した経験でもあるようなぐらい、徹底した動きだった。身体能力が高いだけではあれほどスムーズに倒すことは出来たモノではない。


 唖然としていたのは野次馬だけではない。

対峙する不良グループ、須藤らも唖然としていたのだ。

そんな中、征爾だけは力を使って状況を理解していた。


「な、な、何をやった!何があったんだ!」

「簡単よ、神経を一瞬圧迫して気絶させただけよ。それなら殺すよりも手間が掛からないし、何より……」


この場に居る彼女の言葉に皆の注目が集まった。


「こうして力を示した方が明瞭な力量差と言うのを示せるからね。まだやる?」


余りにも一瞬だったので理解出来た人は野次馬の中には殆ど居ないだろう。

それ故に野次馬たちも、須藤たちも彼女に恐れた。

理解出来ない異様な強さに震え上がった。

だが、須藤は下がる訳にはいかない。


「いいね、こんな化け物に会ってみたかったよ、僕は!」


そう言って須藤は残る取り巻きたちと一緒に朱雀へと殴りかかった。

だが、大将の須藤以外は殆ど足が震えていた。

≪須藤以外はもうダメだな……≫

征爾は彼らの様子を見て、彼らに勝ち目が無い事を悟った。ただ一人、戦意を失っていない須藤にはまだ可能性があるとは思ったがあの朱雀が偶然と言うのを起こさせるとも思えなかった。

次の瞬間須藤らは突然足が乱れてけてしまったのだ。


「「「ハハハハッ、何あれ?格好悪い~」」」


野次馬から突然の笑い声が響いた。

よく見ると、足元が凍っており、そのせいで足が上がらなくなり、体だけが勢い良く前に進み転倒したようだ。そして、転倒して地面に接した部分も凍って起き上がれない様子だった。


≪氷……だと?今は春先だから地面凍結なんて魔術か何かで無いと有り得ない!何があったんだ、一体!≫

そう思いながら征爾は再び能力を使った。



≪『過去視』展開≫


 征爾は見た。

何もしていなかったはずの朱雀から突然『魔術』が展開しているのを。

魔術は発動までに自己暗示のための『詠唱』『構成』『魔素調達』『魔方陣展開』の四段階に分けられるのだが、最初の三段階が一切見当たらなかったのだ。

≪嘘だろ?≫

そう思いながらも征爾は何度も何度も見直した。だが、何度見ても見えた光景は同じだ。

≪魔術の発動工程を無視とか魔術よりも『虚術』の範疇だぞ。『無詠唱魔術展開』……そんなモノを使うとか化け物か、あの女≫



 魔術――常識と言う言葉では説明しきれない現象を意図的に引き起こす術――現代においては技術の一つとして確立しているが、『アンチ・マジック素材』と呼ばれる魔術に対する対抗素材の存在アンチ・マジックによって余り重要視されない技術となったものだ。

過去ではイスラム国家の選民思想として魔術=権力だった時代もあるが、今ではそんな常識などあるわけが無い。

特に武術を嗜む人間は特に魔術を嫌う傾向が根強く残っており、正直に言うとあの武芸娘たる朱雀が魔術を使った事は想定外だったのだ。


「ま、魔術だと……武術と魔術は相容れないはず!」

「そ、そんなっ!」

「対策手段なんて知らないぞ!」


慌てる不良共は皆地面に這いつくばっていた。

誰も氷を溶かす手段など持っている筈も無く、立ち上がる事が出来ないのだ。


「お前たちを叩きのめすには圧倒的な力を見せつけるのが一番だ。だから選べ、ここで氷の彫像となるか、地面になるか、それとも負けを認めるか。さぁ!」


その光景は学校の番長とヤクザの幹部のやり取りにも見えた。

当然、学校の番長には抵抗する手段すら残されていない。


「……魔術まで使うとはね。流石に打つ手無しだ」

「須藤晴登……アンタ、数使わなかった方が良かったんじゃない?数使われたら手段は選ばないわよ、あたしも」

「降参だ。皆を助けてやってくれ」


須藤はそう宣言した。この時、完全に上下が決まった。不良の長が女番長に降った。そしてこの学年のトップが明確に決まった瞬間でもあった。


「……分かった。それじゃ解除してやろう」


彼女はそう言って魔術を解いた、その瞬間。


「掛かったな、馬鹿め!」


魔術が解けた瞬間、須藤と一緒に凍っていた部下の一人、濱野園はまのそのは渾身の力で朱雀に殴りかかったが、その拳が彼女に届く事は無かった。

ピシィ!ドゴッ!


「消え失せろ、下郎が!」

「ガハァッ!」

「ハマッ!」


朱雀の拳が濱野園の腹に直撃し、濱野園は脆く崩れ落ちた。


「これで勝負あり、だな」

「お前等、抵抗はするな。これ以上は無意味だ!」


須藤は負けを認め、相沢朱雀は勝ち誇ってグラウンドから去っていった。

野次馬は湧いていた。悪名高い不良の討伐、そして新しい女番長の誕生に。

そして一人、征爾はずっと彼女の事を睨みつけ続けていた。




◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆


本名:須藤晴登(すどうはると)

称号:破壊王の異名を持つクラス委員長


イケメン金髪の不良。

アクセサリーを大量に付けているが、実はひとつひとつが魔術などの簡易術式防御式が組み込まれている護身具である。

才能はあるが、それと対等に渡り合える存在がこれまで居らず、その存在を探すために不良となって見境無く喧嘩を売っていた。

能力は非常に高いが中学時代はその才能と対等に渡り合える存在が居なかったため、対等に渡り合える存在を探すために不良となり、色々な人を挑発しては叩きのめしていた。

その時、周囲構わずに攻撃して物を破壊したことから『破壊王』の異名を取っていた。

得意にする武器は大剣だが、一高校生がそんな物を持てるハズもないので、鉄の棒で代用している。

対等以上の存在である朱雀を見つけたため、彼に目標が出来て暴れる意味が無くなった。

性格は意外と真面目だったりする。


魔術が出てきましたが、設定上では一つ明瞭な対抗手段が存在するために弱い扱いです。ただ、その明瞭な対抗手段に頼って他の対抗手段が無いため、奇襲的には使えます。


どれぐらい弱いかと言えば、鉄球を真っ直ぐ投げて、道中にある電磁石へ簡単に引き寄せられて真っ直ぐ飛ばないのと同じような感じです。

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