S3 学級崩壊
「出席番号一番、相沢朱雀です!勝負事に関しては何でも一番を目指します!」
教室にクラスメートが集まって初めてのホームルームで元気な声が教室内に響きわたった。
≪あの一番乗り娘、無駄に元気だよな……≫
教卓の目の前の席に座る彼女は教卓にいるクラス担任の先生がドン引きしているぐらい元気に挨拶をした。日本の出席番号は基本、あいうえお順なので『あい』の時が来る相沢朱雀は大体出席番号が一番になるのだろう。
何事も一番と言うほど勝気な性格な様子は間違いなく武芸を嗜んでいるに違いない。勝敗が存在するスポーツや喧嘩などの競争になったら天下無双と言わんばかりの活躍をしそうである。
≪あの後に自己紹介をさせられる奴、マジで可哀想だな≫
そう思いながら次の奴を見た。
出席番号二番の少女は征爾の前の席だった。
(何故征爾の前かと言うと征爾は髪が無秩序に伸びているため貧相だと思われ、近くには誰も座りたがらなかったのだ。そして彼女は最後の最後に教室へ入ってきたため、征爾の前しか空いていなかったので征爾の前へ仕方なく座った感じであった)
背が低く、二本の触角のようなツインテールが印象的で非常に大人しそうな小動物の如き少女だ。
≪学校前で助けた小動物じゃないか!≫
征爾は目の前で自己紹介をしようとして立った少女を見て気が付いた。少女と言わず、小動物と言うあたり、彼女の事はもう女では無く愛玩動物にしか見えていない。
「い、い、井上神奈です……、よ、よろしく……お願いしま……」
彼女はそう名乗った。どうやら、入学式には出ずに保健室で休んでいたようで、体調が戻ったから教室に来たようだ。他の生徒たちよりも遅く入ってきたのはそれが理由だったようだ。
≪井上神奈か……覚えておこう、その名前≫
そう思ったその時だった。
「「アハハハハッ!」」
「自己紹介もちゃんと出来ないのかよ!」
「あうぅ……」
小動物のように縮まりこんだ井上は非常に可愛らしく、見たからに虐めたらより楽しそうだろう。でも、出会った人に対してそんなことをするのは無礼極まりない行為だ。
煽りをしていたのは教室の後ろ中央を占拠していた九人の男子生徒たちだった。二十人クラスのうちの半分が男子である事から不良陣営は征爾以外の男子全員が所属していると言う事になる。
中心人物のイケメン金髪はネックレスや腕輪を装着しており、不良たちの中でも一番目立っていた。
「趣味は何ですか?」
「え、しゅ、趣味……?」
「オママゴト?お人形さん遊び?うわぁ、お子ちゃまでちゅね~」
「「「ハハハハ」」」
イケメン金髪の取り巻きが周囲の笑いを取り、目の前の小動物はすっかり赤面していた。赤面している様子は可愛らしいが、そんな所を見ても面白くもない。
助け舟でも出そうかと思った所で予想外の所から声が上がった。
「笑う必要はないでしょ!それが彼女の全力ならそれを受け止めなさい!」
そう叫んだのはこの事態を間接的に作った張本人、相沢朱雀だった。
「へぇ、君がそんな事を言うのか。偽善、偽善」
笑う男たちの中心、先ほど笑いの種にしたイケメン金髪だ。その取り巻きを含めて、おそらくは何処かの中学からそのまま流れてきた不良たち、そのボスとでも言える少年だろう。
「須藤さんにそんな口聞いていいのかよ!」
朱雀の後ろの席の男がそう言うと、相沢は見えないほど速く動いてその男の顔面を鷲掴みにした。
「アンタは黙っていろ」
「いでででっ!離せ!」
見事にアイアンクローを決められた少年は必死の抵抗をするが、それ以上に朱雀の力が強い。決して背が高いわけじゃない彼女が男子生徒の顔を鷲掴みして持ち上げている光景は余りにも不自然で恐ろしかった。このまま空気が止まっていたら、彼女が何をするか分かったものではない。
「ハマから手を離してもらおうか」
そこで猿山の大将たるイケメン金髪が立ち上がって、相沢と面を向けた。
クラスの注目が二人に集まる。
「須藤さんカッケー!」
≪須藤……か≫
取り巻きの言葉から彼の名前を知った征爾は中学時代の評判を思い返した。
須藤晴登。
確か隣の中学に所属していた悪名高い事で有名な不良のリーダーだったはずだ。異名は誰彼構わず喧嘩を売って、余りにも圧倒的だった事から『破壊王』だったか。
そんな不良のリーダーと取り巻きが同じクラスだった。
「ほう、あたしに喧嘩を売っているのかい、それは!」
≪あ~あ、これは完全に火に油を注いだな。学級崩壊決定だな≫
征爾は傍観に徹していたが、最悪の事態を防がなかった事を後悔した。
武芸娘と不良たちの対立は最早明確だ。
初日から学級崩壊とか勘弁願いたい。
そう征爾は願ったがそれは叶わなかった。
「相沢、と言ったか、アンタ。後でグラウンドに来いよ。分からせてやるさ」
喧嘩成立。初日から学級崩壊が決定した。
「あ、あうぅ~」
前の席の神奈は自分のせいでどうしようも無い事になったクラスを見て、ただただ慌てていた。右左と顔を動かしつつも手を口元に当てて慌てている様は正しく愛でるべき小動物のようだ。
征爾は仕方無いな、と思いつつ彼女に話し掛ける事にした。今朝の事は絶対に覚えられてはいないと踏んで。
「……取り敢えず座って落ち着けよ、井上。無駄にややこしくする必要も無い」
「は、はぃっ!」
一触即発な雰囲気の中、残るクラスメート十八人全員の自己紹介は淡々と進行していった。しかし、皆の注目はまったく関係のない方向へと向かっていたのだった。
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本名:相沢朱雀(あいざわすざく)
称号:傍若無人な剣術娘
神種:全
メインヒロイン。今河橋高校の新入生で一年A組所属。
黒髪ポニーテールで凛とした顔付きが印象的な美少女で、剣術の達人。
実家が剣術道場を営んでおり、両親から剣術を始めとした様々な戦い方を仕込まれている。
何事も勝つ事を第一にしており、そのためには手段を選ばないため、周囲からは外見に反して少し嫌われがちである。
力任せな脳筋に見せておいて実はオールラウンダータイプ。
皆がインフレしているこの作品においては相当なチートキャラです。