S10 憧れの存在
結局、征爾の目が覚めた時には既に日が落ちかけた時間になっていた。養護教諭から聞いた話によると朱雀が気絶した征爾を保健室まで運んでくれたらしく、ベッドの上で寝かされていた。
起き上がった征爾は下校完了時間が迫ってきていたのもあって、急いで教室に戻って鞄を回収して下校したのだった。
通学に二時間以上掛かる征爾が帰宅したのは夜の八時を過ぎており、親にも叱られてしまった。理由を聞かれたが相沢姉妹と現人神について話していたなどと答えられる筈も無く、適当にはぐらかせておいた。半年前から少し疎遠になってしまった両親に話す気も無く、両親も放任主義なので深くは追求してこなかった。
食事後、自室に戻った征爾は鞄から勉強道具を取り出して、律儀にも予習復習に取り掛かった後、征爾は本棚からある人物の伝記を取り出して読み返した。
『相沢悠歳伝』、今日やりあった相沢朱雀の実の父親の事を書いた伝記書である。
相沢悠歳警視正(33)、今現在で唯一知られている『現人神』である。十六年前、当時十六歳の彼はとある現人神が起こした『クーデター事件』を鎮圧。その後一年間、臨時で日本国の『元帥』を務めた人物であり、世界的にも危険視されている『一人対軍戦闘』をやってのけた経験を持つ化け物でもある。
今の日本に置ける『守護神』と呼べる人物でもあり、現人神の象徴でもある人物だ。
「唯一世間に知られている現人神、その娘の相沢美代、朱雀か……」
独り言を呟きながら今日秘密を話した二人の姉妹の事を思い出す。彼女たちは征爾の事をどのように重い、相沢悠歳に伝えたのだろうか。同じ現人神ならば、保護まではいかなくても何か道標を示してくれるかも知れない。
征爾はそれに大きな期待を寄せていた。
「不安はある……。だが、それ以上に相沢悠歳氏に会えるかも知れないと言う期待の方が大きい」
これまで自分の力について数多く調べてきて、そして必死に隠し続けたこの力。それが何なのか、どのように使うのか、どれほど危険を引き起こすものなのかを教えてもらえる可能性が高い。相手があの現人神である以上、力を悪用するなどと言った話にはならないだろう。
「明日が楽しみだ」
そして征爾の意識は落ちていった。
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本名:相沢悠歳(あいざわゆうさい)
称号:世界最強の現人神
神種:全
相沢朱雀の実の父親にして美代の養父。年齢は三十三歳。
『一人対軍戦闘』の経験を持つ、核兵器に匹敵する力量を持つ本当の化け物。
十六年前に起こった現人神が起こしたクーデター事件を解決に導いた人物で、その後の国防に関わった後、外国から危険視されて警察に左遷された。
相沢姉妹に英才教育を叩き込んだ張本人。彼女たちに自分たちの二の舞にはなってもらいたくないとして、ある程度の力の知識について与えているが世界の敵にする事は良しとしておらず、現人神の力についてはあまり教えていない。
クーデター事件で付き従った友人のほぼ全て(妻以外全員)を失っており、その影響で精神崩壊を起こしており、半廃人化している。




