Disappointment to a falsehood
偽りと哀しみを交えて出来る一つの式はとても痛かった
Disappointment to a falsehood
その日、友人の縁を切った。
あぁそうか。結局はあの優しさも、楽しさも嘘偽りだったんだ。
あんたといても、全然つまんないよ、って返された言葉が痛い。
あんたとなんか、友達にならなきゃ良かった、って返された言葉が痛い。
一緒に描いた油絵も、一緒に彫った彫刻も、今では懐かしい思い出となって、哀しい思い出になった。
同じ学校、同じ部活、同じ道程。
全てが憎くなる瞬間だった。あぁ、何もかもゼロにしたい。
普段なら楽しい登下校、教室内、部活動。全てが懐かしい。
まだ、学校生活は始まったばかりなのに。
声を掛けてくれる人はいるし、昼食を一緒に食べれるグループもいる。
それほどクラスに馴染めない訳ではなかったけど、あまり乗り気にならなくて今は一人。
決して一人が好きな訳じゃないし、翌々日にはちゃんと明るく振舞おうと、決心していた。
多分、立ち直れる。多分、大丈夫。
携帯を手に取り、縁を切った相手の電話番号、メールアドレス、全てを消した。
出来る事ならこの削除と言う二文字のボタンで相手の存在を消してしまいたい。
出来る事なら入学式の時に戻りたい。何も話さず、友人と言う関係ではなくクラスメートと言う形で終わりたい。
家に帰って、私はB1の大きな画用紙を用意し、パレットに数種類の絵の具を出し、筆を手に取り絵を描いた。
美術部でもある私は、絵を描く事が好きであり生き甲斐でもあった為か、数日前に起こった事がほとんど消し去った。
モヤモヤしていたものが心から消えた。代わりにそれが絵となり私の前に姿を現したみたいだ。
「これが・・・、上出来だわ。いい絵が完成した。」
一人、部屋の中でそう呟いた。そう言えばコンクールが近い。
この絵を出そうか。こんな、何も考えずに描いた、自分のありのままの心を。
しかしこの絵をとても否定出来なかった。あまりにも上手くいったから。
「いつもなら、コンクールの絵、4、5枚描いても上手くいかないのに。」
いつもこんなにいい絵が描けたら良いのに、と付け加えて私はベッドに横たわった。
翌日、コンクールに出す絵を先生に見せた。
先生は私の絵を見た途端、目を丸くして驚いていた。
「これは相原さんのありのままの心かな?」
「はい。これをコンクールに出してもいいでしょうか。」
肯定の言葉が欲しかった。
数秒後、先生はとてもいいわと褒めてくれ、コンクールの絵はこれに決まった。
その後先生にちょっと待っててと言われ、私は美術室で待機した。
先生はと言うと、職員室から何か持ってきて、また美術室は私と先生の二人だけになった。
「何ですか、これ。」
私がそう尋ね、そして指差した先には誰が描いたのか分からない大きな、絵の具で曲線を描いただけの絵だった。
しかしながら私には、とても絵とは言えないただの色とりどりの曲線が、一枚の芸術的な絵に見えて仕方なかった。
「これね、私が昔彼氏と別れちゃった時に描いた絵なの。ちょうど相原さんと同じ、高校一年の時だったわ。」
これで何となく、先生が私に何を言いたがっているのかが分かった。
要するに私と同じ、何も考えずに描いたありのままの絵を見せたのだろう。
私のはこんなのではなく、辛うじて絵にはなっているが。
「これが先生のありのままの絵ですか?」
「そうよ。こんな絵でもね、コンクールで入賞したのよ。」
信じがたい返事だった。失礼ではあろうがこんな曲線に色をつけただけのものが入賞だなんて。
しかしそれを打ち明けた先生が言いたかった事は、こんな絵でも素直さが伝われば賞をとれる可能性も低くない、と言う事だろう。
「相原さんの絵は、私の絵よりずっと素晴らしいわ。きっと、優秀賞も夢じゃないわよ。」
「ありがとうございます。」
私はお辞儀をして、一人美術室から出て行った。
正直、すごく嬉しくて叫びたくなるくらいだった。ずっと、憧れていた先生に褒められたのだから。
あの先生はすごい。勿論絵もすごいが、生き様がすごい。私には到底真似の出来ない尊敬する先生だった。
あの先生を目標に、私は多分絵を描き続けていたのだろうと思った日も無くはない。
「よし、また絵を描こう。」
私はそう呟いた。飽きるまで、絵を描いてやろう。
家に戻ってふと気が付いた。作品名をまだ考えてない。
何にしようかと悩み、作品をもう一度見直して更に悩んだ末、決まったのがこの名前。
Disappointment to a falsehood
私は紙にそう描いた。訳すと、虚偽への失望。
思いのほかネーミングが上手くいった。まさに絵通りの名前だった。
「虚偽への・・・失望。いい名前が出来た。」
黒一色の背景に、奇妙なピエロが二人。
一人は仮面で顔半分が隠れてあり、もう一人は泣いていた。
つまり一人のピエロが嘘吐きで、もう一人はそれに騙され泣いている様子。
我ながら、最高に良い絵が描けたと改めて思った。
友人が仮面のピエロ、そして自分が泣いているピエロだ。
「友人は仮面・・・か。はは、全くその通りだ。」
友達だと思っていたのに、今は友人と名乗れない存在になったものだ。
この絵はコンクールに出した後、プレゼントとして捧げよう。
この絵の基になった虚偽と失望をくれた人に。
06.12.18