【八】氷月来来
霧と冷気に包まれた空気が、翔とジョナサンのお互いの感覚を麻痺させていた。
双方とも微動だにせず、感覚を限界まで高め、相手の気配を探っている。
下手に動けば、最悪、居場所がばれてしまため、あくまで微動だにせず。
視覚も嗅覚も奪われたこの状態では、聴覚だけが頼りなのである。
このままだとラチがあかないな…。
しょうがない、やるか…。
そう翔は決意し、ゆっくりと『白夜』を構える。
それは斬ったり突いたりするための構えではなく、刀身を起こし、天を突き上げるような構えであった。
「……氷月来来」
『白夜』の刀身に集中し、静かに唱える。
無論、どんなに接近していても全く聞こえはしないほど静かに、である。
唱え終わると同時に、場の空気が更に冷え、『白夜』が凍った月を思い起こさせるような色に変化し、かすかに光を放ち始めた。
「…天氷柱」
白夜の柄を強く握り、静かに唱えると、天を突き上げるように素早く刀で空を突いた。
空気を裂くような音と共に、身の丈並の氷柱が無数に降ってきた。
翔の現在地とは全く異なるところからの音であるから、コチラの居場所はばれない。
それに、これではジョナサンも避けられはしないだろう。
しかし、一応追い打ちをかけておく。
「…土氷柱」
コチラは無動作で、唱えた。
すると、地面から天氷柱による氷柱ほどの大きさの氷柱が突きだした。
天からと地からの挟み撃ち。
これでは回避のしようがないはずだ。
死んでさえなければ、最高である。
何にしろ、最低、敵は気を失っている予定なので、静かに『白夜』を鞘になおした。