【六】全然違うぜ
場所同じくして、海斗と女がにらみ合ったまま静止していた。
と、海斗が腰を低くしたかと思うと、矢のような早さで女に突っ込んでいった。
海斗が動くと同時に、女はすかさず鞭をかざすと、勢いよく振り抜いた。
空気を裂く音と共に、鞭が海斗を襲う。
寸前のところで回避するが、鞭が地面を叩く直前に鎌鼬が発生し、海斗に向かって飛んできた。
バランスが崩れているために、回避するコトは出来ずに両手を目の前でクロスし、腕でうける。
ガードしても勢いは全く衰えず、制服を刻まれながら海斗はぶっ飛んだ。
中庭の地面を10mほど滑り、やがて止まった。
一面に砂埃が立つ。
中庭は、風が吹き抜けにくい所にあるのでなかなか砂埃が収まらない。
砂埃のため、海斗の様子が女には全く分からなくなってしまった。
女は焦れったくなり、鞭をメチャクチャに振り回し、砂埃舞う所に鎌鼬を発生させまくる。
しかし、風を切る音のみしか聞こえず、全く海斗に当たっている気配がない。
と、砂埃が一気に消えていった。
いや、吸い込まれるようにその規模を縮めているようだ。
砂埃が吸い込まれた先には……海斗がいた。
両腕から血をしたたり落としながら両手を下げている。
右の拳の先には、砂の塊のような球体が宙に浮いている。
どうやらそこに向かって、砂埃は吸収されていっているようだ。
全ての砂埃が吸収されると、海斗はゆっくりと右手を前につきだした。
そして静かに腕を引くと、一気に殴る動作をする。
すると砂埃が固まった球体が一直線に女に向かって飛んでいった。
唐突な反撃に、横に転がるようにして回避した女の上を、砂埃の球体が飛んでいき、校舎に当たった。
凄まじい轟音と共に、砂の球体は弾け、直撃したところには大きな傷が出来ていた。
「…砂使イデスカ…?」
「ノゥ!! 全然違うぜ、クレア=アントワネットさんよぉ!」
海斗の声に、女はピクッと反応した。
その顔には驚きの色が浮かんでいた。
「ナ、ナゼダ!? ナゼ私ノ名ヲ……!」
「普通自分の名刺を任務中持つか?」
慌ててクレアは自分の胸ポケットを触る。
そしてクレアの名刺をヒラヒラさせながら笑っている海斗をにらんだ。