【五】楽しませてもらいますよ
「うぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!」
雄叫びを上げながら翔は一気に間合いをつめた。
まるで飛ぶように走っている。
走った勢いを利用し、腰に差している『白夜』を抜き、居合いの如く斬る。
無論、刃を返しているため、斬れはしないが、それでも骨折ものである。
しかし、赤毛の男はいつの間に抜いたのか、諸刃の剣で『白夜』を受け止めていた。
翔の目を持ってしても、敵の抜刀が全く見えなかった。
自分の目を疑うが、手のしびれが現実を物語っていた。
「ふ…ジャパニーズソードか。片方しか斬れないとは不憫だな…」
いきなり流暢な日本語で話し始めたと思うや否や、剣で刀を押し返し、刀をひるがえしながら斬ってかかってきた。
押し返されたため、少し体勢が崩れそうになる。
しかし、翔はあえて体勢を立て直すために後ろに引かず、刃を返し、前に進みつばで剣を止める。
高い金属音が響く。
「…貴様なかなかやるな。俺は神田 翔覚えておけ!」
「ドウモご丁寧に…。私は、ジョナサン=ドーベル。以後よろしくお願いします……。
まぁアナタはここで死ぬので関係ありませんがね…」
「それはどうかな…?」
声と共に、翔を中心として気温がどんどん下がっていく。
秋とは言え、異常な寒さにどんどん変わっていった。
「ふっ、アナタの能力者ですか。…楽しませてもらいますよ」
嬉しそうな顔をしながらジョナサンがささやいた。
彼もまた、霧をまとうように霞み始めた。
潤い冷えた、異様な空気がその場を支配する。