【四】お、俺?
「クタバルナシャイ!」
力の抜けるようなかけ声と共に、女が鞭を地面にたたきつけた。
ただ地面に叩きつけただけなのにも関わらず、中庭の地面に何かで斬りつけたような跡が無数に残った。
後の一本一本が結構な深さである。
それを見て、翔と海斗が舌打ちする。
「『鎌鼬』の能力者…か…」
「そのようだな…。全く厄介な相手だ。戦いたくはないな。
このような中距離タイプは倒しにくい。その上、敵の武器は鞭だ。
海斗、こいつは貴様に任せた。 俺は奥の奴を斬る!」
「へ? お、俺?」
いきなり厄介事を押しつけられ、目を海斗が白黒させて言う。
それを、さも不思議そうな顔で翔が見返す。
「なんだ、何か文句でもあるのか?」
「いや、別にねぇけど…」
「なら、さっさと準備をしろ。俺は先に斬りに行くぞ!」
「……」
あきれて声も出ないが、逆らう勇気もないので素直に従う。
と、あることに気づいた。
「おーい。捕縛だぞー? 捕殺と間違えるなよ??」
「……俺に指図できるのは悠癸だけだ」
当然のように言い切った翔に思わず絶句する。
まぁ捕殺しても俺に責任ねぇし…。
どうせ忠告聞かねぇだろうから、もぅいいっか。
と言うか、明らかな陣営ミスだろ!
心の中で叫びつつ、諦めたのか、海斗は腕を回し戦闘準備を始めた。
「あーあ…。面倒だけど、まぁ頑張りますかね…」
海斗のやる気のない声と共に、二人は弾けるように二手に分かれた。
海斗は鞭から発生する鎌鼬の射程外へと飛び去り、翔はその正反対――女の横をすり抜け、男の方へと走った。