【十二】朱雀来来
愛理が不意に顔を上げ、男に一ベツをくれると、短く唱えた。
「槍ッ!」
すると、無数の火炎槍が発生し、男に向かって勢いよく飛んでいった。
やむおえず、男は呪いを解き、後ろに飛ぶ。
そして間をおかず、今度は愛理に呪文を唱える。
「この世の音と動を司る精霊たちよ。
我に彼の者の自由と声を封じる力を!
影法師の谷底(Bottom of a Shadow Ravine)!」
小さな悲鳴と共に、愛理は動くことも声を出すことも封じられてしまった。
代わりに鬼人の如く怒っている悠癸が自由になる。
「てめぇぇ! 絶対ぇ許さねぇ! ブッ殺す!」
体中から青白い電流を放ちながら、悠癸が男に突っ込んでいく。
あまりの速さに、彼の自動には青白い光と共に残像が残っている。
男が放つ銃弾が数発当たるが、前進は全く止まらない。
霞下段の構えから、鋭い突きを男に放つ。
その突きを避けてハンドガンで反撃しようとする男の右手を『黒光』の峰で力一杯叩く。
風を裂く音と共に、グランドへ右手のハンドガンが落ちていった。
そのままの勢いで重心を移動しつつ、左手に回し蹴りを放つ。
左手のハンドガンも同様にあっけなく落ちていった。
さらに回し蹴り時の軸足の回転を利用し、刀の柄を鳩尾にたたき込む。
しかし、男は後ろに軽く飛び去り、鳩尾への攻撃の威力をほとんど抹消した。
攻撃範囲外に逃げられ、悠癸は再び霞下段の構えに戻した。
悠癸の願いどおり、今の戦闘のおかげで愛理の呪いは解けたようである。
間をおかず愛理がその口を開けた。
「…朱雀来来」
静かに唱えると、愛理の周りを灼熱の風が包み込んだ。
その目には、静かな憎悪の炎がかいま見えた。