【十一】雷霆来来
気配をたどって前を見ると、屋上のちょうど中心に、茶色のロングコートにその長身を包んだ男が腕を組んで立っていた。
男から10メートルほど離れているにも関わらず、相手の殺気がコチラまで伝わってくる。
「残念だね、愛理。とうとう発見してしまったようだよ…」
「みたいだねー。どーしよ??」
殺気が手に取るように分かるほど放っている男を前にして、のんびりと考え込み始めた。
典型的な動作――掌にコブシを軽く叩きつけて悠癸が目を開いた。
「そうだ! 捕縛しようっ!」
「うんっ、そーしよー!」
そして、静かに男を見すえ、悠癸が愛理の前に立つ陣営を組み、身構える。
いつでも抜刀できるよう、『黒光』の柄に手を軽く置く。
「東洋剣士と炎の魔術師ですか。厄介ではあります、が…」
渋い声でささやいたかと思うと、男はいきなりコートの中からサイレンサー付ハンドガンを二丁取り出し、フルオートで乱射してきた。
多少は予測していた事態であったため、その場を動くことなく、流れるように全ての銃弾を斬り落とした。
静かに男を見すえたまま、悠癸は刃先を下に向ける。
「…雷霆来来!」
勢いよく唱えると、刀を点にかかげあげた。
みるみるうちに、『黒光』の刃が青白いかすかな光に包まれていく。
「俺はただの剣士じゃねぇ! 雷霆剣士だ!
てめぇの情報に追記しなっ!」
そう言うなり、悠癸は『黒光』を横一文字に振る。
距離があるにも関わらず、何を思ったのか男は回避した。
すると、先程まで男がいた場所一帯に青白い稲妻が落ちた。
「雷剣士ですか…。かなり厄介ですね…。 しかし、私が負ける要素は全くありません。
それでは、コチラからも行かせてもらいますよ!」
そう叫ぶと、男は目を伏せて、呪文のようなモノを唱えだした。
「この世に生を受けし万物の精霊たちよ。我に彼の者の四肢の自由を奪う力を!
自由を奪う鎖(Blockade Chains)!」
不意に悠癸の両手両足が、鎖を巻き付けられたように重くなった。
霞下段の構えをとり続けるだけで精一杯になってしまう。
歯を食いしばる悠癸の顔を、心配そうに愛理がのぞき込む。
「だ、大丈夫、ゆぅ君!?」
「あぁ、大丈夫だ。こいつは『呪』使いだな。呪文で精霊を操り、敵を攻撃させるんだ。
俺との相性最悪だぜ。と、言うか絶対、今日の魚座の運勢最悪だ。」
ボヤクが状況は変わらない。
どうやって戦況をくつがえそうか考えていると、いきなり愛理が動いた。