【十】置いていくよー
翔の勝敗が決した頃、まだω班――悠癸と愛理は校内をさまよっていた。
怪しいとにらんでいた理科室はモヌケのカラであり、図書室、調理室、木工室、パソコン室、音楽室、etc...
とりあえず、あらゆる部屋は捜したが、どこにも敵の姿を確認できなかった。
流石の二人も少々うんざりしていた。
「……ねぇ、ユー君。ひょっとして、もぅ敵さんいないんじゃないかなぁ?」
「え?…まぁ愛理がそう言うなら居ないかもなぁ」
愛理のかわいさに思わずうなづいてしまう。
こんな悠癸の姿を見たら翔は悲しむだろう。恐らく。いや、絶対に。
そんなことは思いもせずに、にこやかに愛理を見つめ続ける悠癸。
「でしょ? 何にしてもちょっと休憩しない??
屋上で風に当たりに行こーよー?」
「良いね!」
明らかに何かを企み、いかにも嬉しそうに悠癸が答えた。
そんなコトはツユ知らず、はしゃぎながら歩いていく愛理の後ろ姿を幸せそうに眺める。
「何してるのー? 置いていくよー?」
「あぁ、今行くぞ」
駆け足で後を追いかける。
そして、そのまま競うようにして屋上へと駆け上がっていった。
「ははは、まだまだ愛理には負けないよ♪」
肩で息をしている愛理を見つめる悠癸の顔は、子どものように無邪気である。
彼らに言わせれば16歳は十分大人だというかもしれないが…。
「相変わらず足速いねー! 全然追いつけなかったよー!」
「大丈夫! すぐに追いつけるようになるs……」
ただならぬ気配を察知して、言葉をきる