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【序】契りと狂いの桜
校庭の隅で密かに咲き誇る一本の桜。
校舎の陰に隠れている上に、他の木々に囲まれているためか、その桜の存在を知る者は少ない。
十一月下旬だというのにも関わらず、本当に密かに、静かに咲き誇っているその桜の存在を。
――契桜――
その桜の存在を知っている数少ない者である 神崎悠葵はそう呼んでいた。
そのワケを知っている者は、いない。
その桜の容貌からは「契」という言葉は浮かんではこない。
どちらかというと「狂桜」。
もしくは「狂わせ桜」という方があっている。
桜自体、季節感が狂っている上に、その桜を見ていると、なぜか落ち着かない気がする……そんな桜だからだ。