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妄想人の『理想的妄想』

作者: ゆっくん

誰だって理想の中じゃ強くて、かっこいいものなんです。

どこかの歌詞の一説に「ずっと探していた理想の自分ってもうちょっとかっこよかったけど」とありますが・・・まぁ、理想は理想なんですね。

そう思ったこともある、いつかの日の妄想です。

 女性が数人の男性に囲まれている。

 ナンパだろうか? それとも、危ない何かの撮影だろうか?

 なんにせよ、これを見逃したら僕はきっと、後々勝手な罪悪感に苛まされることになるだろう。

 拳を握る。ちゃらちゃらとした男たちだ。どうせ、集まって強さを維持することしかできないクズなんだ。

 「おいっ!」

 思い切り声を張り上げると、男たちが振り向いた。

 「あぁ?」

 「お前ら、離れろよ。嫌がってんだろうが」

 いつにない剣幕で僕は男たちに迫っていく。

 すると男たちもこっちのほうにへらへら笑いながら近づいてきた。

 「なに? 正義のヒーローぶってんですかぁ?」

 「おいおい、お前一人で勝てると思ってんのか? ぶぁーか!」

 ぎゃははと汚く笑い散らす。唾を散らしながら、汚く。

 「バカはどっちだよ、クズ共」

 言い返してやると、男たちの笑いが止まった。まさに、カチン、という音が聞こえそうなぐらいに男たちの顔は怒りに歪んでいた。

 「お前、調子のってんじゃねえよ!」

 男の一人が大きく殴りかかってきた。

 僕はそれを冷静に避け、空いた腹へと拳を入れる。

 確かな手応えと共に食い込む拳。

 「ぐっはっ!?」

 男は倒れこんで、残った数人が顔を見合わせた。

 「死ねやぁあああ!」

 雑魚の捨て台詞のようなことを言って、数人が一気に襲いかかってきた。

 だけど、どれも大振りな攻撃で避けるのは容易かった。

 一人目がまっすぐと拳を打ち込んでくる。それを避けると、次に二人目が横からストレート。さらに避けると後ろからキックをかまそうとしてくる奴が見えて、それをしゃがんで避けた。

 攻撃の的が一点に集まって、それぞれの攻撃はお互いにあたって同士討ちという結果になった。

 僕は避けただけで、何もしてないのだから正直阿呆らしい。

 お互いの攻撃を受けて倒れてる奴らを傍目に、僕は女性のもとへと近づいていった。

 「今のうちに逃げてください!」

 「ありがとうございます!」

 女性はお礼を言うと、その場から走り去っていった。

 男たちは体制を立てなおしたようで、もはや元の目標であった女性のことなど忘れて、僕へと標的を変えている。

 「まだやるんですか?」

 「黙れ糞がああああ!」

 一人が威勢よく殴りかかってくるが、それもやっぱり大ぶり。

 僕は身体を横に少しずらして、足をちょいと出す。

 「ほわっ!?」

 それに引っかかった男は無様に地面へと顔から転んでいった。

 そのままうずくまって動かなくなったのを見て、他の男達はおののいて倒れた男を抱えて走り去っていった。

 「……バカだな」

 僕は吐き捨てるようにいって、まわりからの注目を無視するようにしてその場を後にしたのだった。


 …


 「あの、すいません」

 後日、街を歩いていると突然声をかけられた。

 誰かと思ってその声の主を確かめると、それは前に助けた女性だった。

 「やっぱり! あの時はありがとうございました!」

 「いえいえ、無事なようでよかったです」

 「はい。……あの、できればお礼をしたいのですが、お時間ありますか?」

 本屋にいって、欲しい本を買いに来ただけだったから特に他に予定はなく。僕は頷いた。


 お礼、と銘打って僕がつれていかされたのはおさわりパブだった。

 今までいったこともない場所に僕は戸惑いながら、無理矢理押し込まれるようにして店内へといれられた。

 入って席に座らせられると、しばらくしてから一人の女声が僕の元へとやってきた。

 化粧をしていたものの、確かにそれは先程の女性だった。

 「お礼、させてくださいね……」

 艶かしい声で僕を誘惑するようにして、女性は僕の方へと擦り寄ってきた。


 ◇


 ……という段取りだ。

 よし、いける! 僕はなんの根拠もないのにそう思って、拳を握った。

 「おいっ!」

 思い切り声をあげると、男たちがこちらに振り向く。よし、ここまで予定通り!

 「あぁ?」

 「お前ら、離れろよ。嫌がってん」

 「っせぇよ!」

 セリフを言い終わる前に、一人の男が飛びかかってきた。僕は抵抗する間もなく思い切り殴られる。

 周りの人々が白い目で地面へと倒れた僕を見てくる。あの女性でさえも「うわっ、ないわ……」というような目で見てくる。

 男たちはといえば、げらげらと笑って女性のほうへとまた向き直った。

 「おい……お前ら……やめろって」

 起き上がる僕を見た男の一人が、他の男達に伝えたようで、男たち全員が僕の元へとやってきた。

 「あのさ、何したいの?」

 がすっ! 腹に蹴りが入る。

 「あっ、お金くれるのか、ありがと!」

 どごっ! 拳が顔へと打ち込まれる。

 「ってことで……お前には用なしっと!」

 がっ! 顔に蹴りが入った。

 その間に女性は逃げたのだろう。男たちはなにやら不満の声をもらしながら、どこかへといってしまった。


 ……うん、なんとなく、わかってました。こうなるってことは。

 妄想の中の僕は、いつだってかっこよく、強くいられるんだ。

 そうなれないから、妄想してるんだけど……。

 涙が自然と流れる。僕は、しばらくその場で倒れていた。


妄想人の『理想妄想』――終

妄想人シリーズ、と題しまして第二弾です。

なんともくだらない妄想ですが、こういう「自分が強い」理想的な妄想をしたことってあるんじゃないかと思います。

女性の方はどうなのかはわかりませんが、男性なら一度はあるんじゃないでしょうか?

理想の自分ってどこまでも理想のままなんですよね。

今回はその対比、というか妄想(理想)と現実は違うんだよ、という風にしてみました。

相変わらずキャラクターに名前はつけてませんが、今回も1時間程度の執筆。

この話の元はたいてい、俺の中の妄想が元です。

妄想は付きぬもの・・・・次があれば、また。

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