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魔法の法律的解釈  作者: 佐村 蒼
1章、魔法学校とクロノス一族
16/29

15、今日はエイプリルフールではありません


お父さんがいて、お母さんがいた。

側にいる小さな女の子は、幼いころの私。

まだ小学校にあがる前くらいみたい。

お父さんは嬉しそうに笑ってて、お母さんはちょっと怒ったような、困ったような顔。

近くにいる幼い私は、なんだかはしゃいでいる。

…いつの記憶だろう。

何かを褒められて、嬉しかった。

認められた、みたいな気がした。

そう感じていたと、私の記憶が教えてくれる。

けど。何のときの記憶かについては、沈黙したままだ。

『だって、お父さんのむすめ、だもん!』

はしゃいでる私が、舌足らずに言う。

きっと、誰かに言われたんだろうな。

意味もわからずに、喜ぶ幼子。

何を褒められて、認められたんだろう?

お父さんの娘、ということは、父も同じ何かがあったということ?

ねぇ、父さん。

お願い、幽霊でいいから会いに来てよ。

聞きたいことが、いっぱいあるの。


***


意識が浮上して、目を開ければ、見知らぬ白い天井が見えた。

ぼんやりとしたまま、ゆっくりと身体を起こす。

薄ピンクのカーテンに仕切られた、白のパイプベッド。

あぁ、ここは。

「あら、目が覚めた?」

カーテンの間から、心配そうな顔を見せたのは、保健室の先生。

おっとりとした、40代半ばの女の先生だ。

やっぱり、ね。一瞬病院かと思ったけど、それにしては設備がなかった。

ここは、学校の保健室だ。

「気分はどう?着地したときには意識があったって聞いたから、頭とかは打ってないはずなんだけど」

そういえば、そんなことがあったんだ。

覚醒したばかりのせいか、頭の動きがひどく鈍い。

「黒須くんも、心配してさっきまでいたのよ」

クノス。

名前を聞いて、ようやくクノスが泣きそうな顔で、

私に駆け寄ってきていたのを思い出した。

…無事だって、言いにいかなきゃ。

「新宮さん?」

きっと、ぼーっとしていたんだろう。

先生がいつの間にか、私の顔を心配そうに覗きこんでいた。

「やっぱり、どこか調子悪い?」

「だ、大丈夫です!あの、えっと、お世話になりました!」

あわててペコリと頭を下げる。

そうすれば、先生はどこかまだ心配そうな顔をしながらも、クスクスと笑ってくれた。

「そう、大丈夫ならいいんだけど」

「はい、もう大丈夫です」

そのまま退室を告げて、ベッドから降りる。

校長も心配していた、と聞いたので、一言挨拶しようと、校長室に向かった。

私に何かあれば、校長だって困るだろうしね。


それが、どうして。

こんなことに。


校長室に着いて、ノックをしようとすれば、中で何かを言い争う声。

思わず躊躇って、扉の前でピタリと手を止めた。

…後でにしようかな。

そう思って、踵を返した瞬間に、耳に飛び込んできた声。

「一歩間違えば、沙耶は死ぬところだったんだ!!」

…この、声は。

クノスの声?

自分の名前と、死ぬなんて物騒な単語と。

さっきの事故が頭を掠めて。

クノスは何の話をしてるの?

立ち聞きはいけない。

そう頭の片隅で思いながら、足は一歩もそこから遠ざかろうとせずに。

むしろ、ふらふらと扉に近寄って行く。

ペタリと扉に耳をつければ、校長の声も、途切れがちではあれど、聞こえてきた。

「落ち着き…さい。彼女は無事だったのだし、…も戻ったようじゃないか」

「わからないだろ。ただ命の危機に、身体が勝手に動いた可能性のが高い」

「だとしたら、お前のやるべきことは、彼女に能力を取り戻さ…ること…」

「沙耶は忘れてるんだ、簡単には出来ない」

何の話だろう。

能力を取り戻すとか、忘れてるとか。

クノスの声は聞こえるけど、校長の声は少し聞き取りづらい。

そういえば私、さっきどうやって助かったんだっけ?

記憶が少し曖昧になっている。

あんな体験をしたせいだろうか。

「今回のような一族の介入から身を守るためには、早急に必要なことだ」

ぼんやりと考えていれば、突然また物騒な単語が聞こえる。

介入、って。

それは、さっきの事故の話を指しているの?

そうだとすれば、さっきのは。事故じゃなく、故意に起こされたものなの?

そう解った途端、背中に冷たいものが走る。

だって要は。

命を狙われてたってわけで。

「っ、沙耶をクロノス一族には巻き込まないと、言ってただろ!?」

「いつまでも甘ったれたことを!!そんなんでは一族をまとめあげ、魔法を守ることは出来ない!!」

荒がった校長の声。

「そんなこと、」

「そもそも魔法の改正には、必要なことだ」

「それは俺との婚姻で、話がついたはずだ」

…婚姻て、何?

もうさっきから、訳がわからない。

次々と、意味の分からないことが、扉の向こうで会話されている。

一体何が。

起こってるんだろう。

私の話をしていたんだと思っていたんだけど。

誰と誰が、結婚するわけ?

「…まだ何も告げてないんだろう?」

「急いては事を仕損じる。あんたの口癖だろ」

あまりの内容に、パニックになって。

だから、クノスが扉に近づいてきていた足音に気付けなかった。

カチャリ、とノブを回す音がして、我に返った。

ここにいたら、立ち聞きがバレてしまう。

…それに。今クノスと顔を合わせなければ、今の会話はなかったことになる気がして。

慌てて踵を返して走り出す。

「沙耶っ!?」

後ろでクノスの声がした。

当たり前だ、こんな距離じゃバレバレだ。

でも、怖くて。

私はそのまま走り続ける。

…クノスは追ってこなかった。


そのまま学園内を走り続けて。

止まったのは、腕を掴まれたから。

「おい、新宮っ」

右腕を掴まれ、急に止められたせいで、身体が傾いでよろめいた。

見上げれば、秀麗な御堂先生の姿。

あの無表情が、眉を寄せているせいで、ほんの少し崩れている。

どこをどう走ってきたか解らないから、なんで先生が目の前にいるかも分からない。

「どうした?死にそうな顔で走って」

「…御堂、先生」

この人もクノス側の人。

でも、ポジション的には、中立だったはず、だ。

その言葉を信じて良いかも、今の私には分からないのに。

頼ってもいいだろうか。

甘えても、いいんだろうか。

頭の片隅では、警報が鳴ってる。

けど、混乱したままの頭は、目の前にある糸に手を伸ばさせた。

「クロノス一族って、なんですか…。魔法の改正って、なんなんですか?」



もたらされた真相は、不思議な神話物語。



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