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魔法の法律的解釈  作者: 佐村 蒼
1章、魔法学校とクロノス一族
13/29

12、日常に戻りたいです

ちょっと短めです。



一週間という約束の時間を過ぎて、私はまた魔法世界へと戻ってきた。

戻ったのは、寮の中。

時刻は、昼過ぎ。今日は金曜日だから、学校に復帰するのは週明けにした。

人気のない寮の、私の部屋の到着で、クノスは早々に部屋から出て行った。

ここは女子寮だから、当然といえば当然なんだけど。…到着場所、変えられないんだろうか。

けれど、部屋から出て行くクノスの横顔が、淋しそうで。

でも、それに私は何も言えなくて。

取り残された部屋に、すでに馴染みが出来ている分、余計に泣きそうだった。

自分の立ち位置を、見誤りそう。

クノスに対する不審を抱いたまま、こっちに戻ってくるっていう選択も辛いけど。

魔法世界に戻ってこないっていう選択肢を、どうしても言い出せずに。

どうしたらいいのか、どうすればよかったのか。

人気のない寮で、ぽつんと膝を抱えているなんて。私、何しにここに来たんだっけ?

でも、そんなぐちゃぐちゃした想いを払拭してくれたのは、

学校を終えて、寮に戻るなり声をかけてきた陽菜ちゃんだった。


「もう、沙耶さん!帰ってきたんですね!?一週間もいきなり留守にしたら、心配するじゃないですか!」

「あ、ごめん…」

その勢いに気圧けおされて、思わず謝ってしまう。

そっか、クノスが時間感覚が狂うから、こっちに戻るときは同じだけ時間経過した時点に戻すって言ってたっけ。

そうすると私は一週間も、学校からも寮からも、いなくなっていたことになるのね。

「ごめんね、ちょっと向こうに戻らなきゃいけなくて」

「それならそれで、一言教えてください…」

本当に泣きそうな顔で陽菜ちゃんが言うから、申し訳なくなる。

一応別次元の世界ではあるけど、一種のタイムトリップをしているみたいなものだから、

どれくらいいなくなるとか、言いづらかったんだよね。

けど、こんなふうに心配してくれる人がいるのって、いいな。

「心配してくれて、ありがとう。次にいなくなるときは、ちゃんと言うから」

「またいなくなるんですか!?」

「あー…、たまに?」

「もう…、授業ついていけなくなっても、知りませんよー」

唇を尖らせて意地悪なことを言いながらも、

私のことを案じている様子を隠せてない陽菜ちゃんが可愛い。

その後には、わざわざ私がいなかったときの分のノートまで持ってきてくれて、本当にいい子なんだと思ったり。

いいなー、本当にこんな妹がほしかったなー。

魔法世界で、唯一信用できるはずのクノスに対して、なんだか不信感を感じてしまって辛かった気持ちが、

こうして、優しくしてくれる人が身近にいるって感じるだけで、

ゆるゆると、リボンをほどくみたいに、ほどけていく。

「うん、ありがとね、陽菜ちゃん」

「え、え?沙耶さん?」

いきなり頭を撫でた私に、陽菜ちゃんは一瞬戸惑ったようだったけど。

すぐに、へらりと笑ってくれて、癒しだなーとか、おっさんみたいなことを考えてしまう。


ふと、後ろで足音がして。

振り返れば、クノスが立っていた。

…何度も言いますが、ここ女子寮ですよ?

「クノ、黒須くん」

「あのさ、ちょっと話あるんだけど、いい?」

「…うん」

なんだろう、この雰囲気。

いや、お互い気まずいのは事実なんですけどね。

なんか別れ話をしたてのカップルかなにかみたいだ。

けど、そんなふうに茶化す場面じゃないのは重々承知してるので(むしろ、茶化して緊張をとりたいだけなんだろうな、私)、

何も言わずに、クノスの後をついていく。

なんとなく視線を感じるのは、前を歩いてるのがクノスだからなんだろうな。

なんだか、いつの間にか学園生活の中に紛れ込んでしまったみたいで、

ついこの間の、父さんの遠縁の話とか、そういうシリアスな雰囲気がどこかに行ってしまったみたい。

良くも悪くも、学園生活の中には、恋と友情と、青春しかなくて、

私達が気まずいのも、ケンカしたからみたいな。そんな雰囲気にしかならない。

クノスは周りの視線も気にせず、中央塔にある小さめの談話スペースへと入っていった。

促されるように、クノスの隣のソファに座って。

ずっと彼が深刻そうな顔をしているから、どうにも声がかけにくい。

「黒須、くん?」

「うん…、よし」

声をかければ、ようやく何か心が決まったようで、

彷徨っていた視線が、つい、と私に向けられた。

その目の色は、今までのクノスとはどこか違って。

年下だと、子どもだと思っていた人物が、

一人の人間として――男性として、立ち現れるような。そんな感覚。

「…沙耶?」

少しだけ、呆然としていたのかも知れない。

慌てて意識を戻せば、クノスはふっと口の端を緩めた。

「あのさ、先に謝っておく。色々、話せてなくて、ごめん」

「…話せてないって、やっぱり何かあるの?」

「うん、ある。改正作業についても、魔法についても、実は沙耶にちゃんと話せてない。けど、まだそれは話せない」

「最初の説明は、嘘ってこと?」

「嘘なわけじゃなくて。…うん、でも、印象は変わるかな」

「それって、一番最初に話すべきことなんじゃないの?騙してたことにならない?」

「うーん…。改正作業に、沙耶の力が必要なのは本当。それに、ここで過ごしてもらわなきゃいけないのも本当」

「でも?」

「『でも』の続きは、まだ話せない」

「一個だけ教えて。改正作業のための人間は、『抽選』で選んだんじゃないのね?」

「それも、言えないよ」

そう言ったクノスの苦い笑顔が、それが本当なんだと教えていた。

そう、私は抽選で選ばれたわけじゃないんだ。

他の何らかの要因があって。

何か理由があって、嘘をついて連れてきたんだ。

…くっそー、法律改正とか色々悩んだのがバカみたいだぞ。

「…危ないんだ」

「え?」

「沙耶が、本当のことを知ると。魔法の改正って、色んな人の利権とか思惑が絡むから」

「改正するのは、本当なの?」

「改正作業に、沙耶の力が必要なんだって言ったでしょ」

だって、それも信用していいか、わかんないんだもん。

ムッとした私に、クノスは少し淋しそうに笑って。

俯きながら、もう一度「ごめん」と言った。

けど、次の瞬間に、クノスは私を見据えて。


「でも、沙耶のことは、俺が絶対守るから」


そんなことを、強い視線と、強い口調で言うから。

つい、心臓が、妙な心音をたてる。

クノスのこと、疑っていたはずなのに。なんだか、信用していいみたいな気にさせられる。

おかしいな、私それほど単純じゃないんだけど。

「とりあえず、そういうことだから。クラスでは、普通に口聞いてくれると嬉しい」

クノスは話はそれだけというように、そう言って立ち上がり、談話スペースを後にした。

その後姿を見送りながら。

まだ、私の心臓は、ドクドクとうるさくて。

なんだか、してやられた気分に、溜息をひとつこぼした。



まだ見えてこない、思惑という名の糸で作られた蜘蛛の巣。





お気に入り登録、評価を下さった方、ありがとうございます!

嬉しくて、珍しく連続更新です。

最初のころと矛盾しないように書いているつもりですが、何かおかしなところがあれば、教えてくださると嬉しいです。

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