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魔法の法律的解釈  作者: 佐村 蒼
1章、魔法学校とクロノス一族
10/29

9、逃亡を希望します

*ややR15です。



姉さん、ピンチです。…違う、私に姉さんはいない。

先生、ピンチです。…ダメだ、目の前にいるの、一応先生だよ。

あ、わかった!

クノス、ピンチです!

魔法世界の私の保護者だよね、クノス!

そんなこと思ったことないでしょ、とクノスの突っ込みが聞こえる気がするけど、今は無視だ!

助けて、クノス!


***


事の起こりは、十数分前。

魔法薬学の御堂みどう先生に、授業後に薬品瓶や器具の片付けを頼まれて、一緒に魔法薬学準備室へと赴いた。

御堂先生は、まだ若くて、26歳だとか。

誰から情報って、…陽菜ちゃんですよ。意外と情報通な妹です、ええ。

魔法薬の研究のせいらしいけど、先生の髪は綺麗な銀髪だ。目の色は、普通にこげ茶色だけど。

だけど、どうして魔法世界って美形が多いのかなー、っていう感じで、先生も綺麗な顔立ちをしてらっしゃいます。

クノスがかわいい、海斗がかっこいいなら、先生は綺麗。

無表情で淡々としてるから、彫刻みたいだ。

それでも目の保養だなぁとか思いつつ、年が近いこともあって、普通に話をしていた。

ごくごく普通の世間話。

普通の話もできるんだなぁなんて、失礼な感想を持ったことは秘密、で。

学校に慣れたかだとか、食堂のメニューがどうだ、だとか。

そんな中身のない話をしているうちに、魔法薬学準備室に着いた。

先に入った先生に続いて部屋へと入れば、そこは研究室をかねているらしく、よく分からない器具が山ほどあって。

なんだか、魔術師の研究室みたい。…魔術師なのか。

乱雑した部屋で、先生は持っていた器具を入れるための木箱を適当なテーブルに置いていたけど、それ以外にあいているスペースが見つからなくて。

部屋を見渡しながら、一緒に運んできた薬品瓶の入った箱を、どこに置こうか訊こうとしたときだった。

ふっと、上から陰が差して。

何事かと思えば、先生がすぐ横に立っていた。

「御堂先生…?」

「なんですか、新宮さん」

すぐ横は壁、反対側は先生。

なんとなく先生を見上げる形になれば、背中に壁があたった。…まずいかも。

「あの、ちょっと離れていただけませんか」

「どうして?」

どうして、って!今にも触れそうな近さに立っておいて、それはないだろ!

それでも相手は先生だし、年上だし、この前の海斗相手みたいな態度は取れない。

両手がふさがっている状態では、上から覆いかぶさられても、とっさに逃げ出せない。

…先生も身長あるよなぁ。

ちょっとまずい状況なのに、上から覆いかぶさられて、一瞬思考がズレた。

クノスが175センチで、海斗が181センチって言ってたから、多分178センチくらい。

クノスと海斗のちょうど中間。

「新宮さん、」

声をかけられて、ハッとする。現実逃避してる場合じゃなかったんだった。

私の頭上の壁に、手を付かれて。

上から降ってくる、声。

ゆっくりと近づけられる顔に、じんわりと恐怖が滲んでくる。

これは、なに。

何が、起こっているの?

「あんまり簡単に信用しない方がいいよ?」

ふぅ、と吐息がかかるほど、近く。

耳元で囁かれた声。

ビクリ、と微かに揺れてしまった自分の身体が恨めしい。

あぁ、もう。この薬品瓶、床に落としていいかな。

「落とすなよ?」

考えを読まれたのか、反応してしまったからなのか。

かすかに笑いの混じった忠告は、ますます私を緊張の渦へと落とし込む。

もうちょっと男性経験を積んでおくべきだったか。そういう問題じゃないのか。

どうしよう、どうしよう。

どう切り抜けたらいいんだろう?

そうして、冒頭へ戻る。


でも、心の中でいくら呼んでも、クノスは来てくれなかった。…当たり前か。

それでも、なんか特殊な魔法使いみたいなんだから、来てくれたらいいのに!なんて、クノスに八つ当たりして。

そこで、ひとつ小さく深呼吸。

気持ちを落ち着けなきゃ。

思い切って、俯いていた顔をあげれば、思いのほか近いところに先生の顔があって、慌ててもう一度俯くはめになった。

耳元で、笑いを堪えないでください!

あぁ、せっかく気持ちを落ち着けたのに。

自分の頬が、赤くなっているのは分かる。だってさっきから、すごく熱い。

だからきっと。

先生だって、分かってる。

「なに、が…、したいんですか…」

頑張って出した声は、震えていた。

みっともない、とは思うけど、どうしようもない。

「何が、って?」

授業中とは違う、微妙に熱を持ったトーンの声。

無表情で、彫刻みたいだと思った先生の顔は、私のすぐそばで、微かに、けど意地悪そうに、微笑んでいる。

「生徒困らせて、楽しい、ですか」

「生徒を困らせてるつもりはないけど?」

「え?」

その、一瞬だった。

思わず先生の方へと振り向いた瞬間に、唇に触れたもの。

…最近、こういうパターン多くない?

呆気にとられる私に、視線を合わせたまま御堂先生はニッコリ笑った。

「新宮は、生徒じゃないだろ?」

先生は、一体何枚猫を被っているんでしょうか。

「…何の話ですか?」

18歳かって言われたら違うけど、生徒かって言われたら生徒ですよ。

だって、一応入学して、在学してるもん。

嘘をつかなくて済むことで、思いっきり不審そうな声を出せば、先生は意外そうな顔をした。

この人、表情筋けっこう動くんじゃん…。

「魔術使えなくて、魔法学校の生徒?」

「!」

それがバレてるとは。

え、なんで?クノスと練習してるところ見られた?

それとも、先生だから、校長から話がいってるとか?

どう誤魔化せばいいか分からなくて、とりあえず否定しか出来ない。

「い、言いがかりです」

「最初に驚いた時点で、アウトだね」

そう言いながら、御堂先生はニヤニヤ笑っている。

人のこと苛めて楽しいのか、このヤロウ。

「先生が、変なことを言うから驚いただけです」

「へぇ?」

心底信じてません、って声。

海斗も嫌な感じだったけど、それ以上だなー…。

なんだろう、変な人に絡まれる月間なのかな。

「本当のこと、吐かせてやろうか」

突然、また耳元で声がする。

さっきまで人の顔、覗き込んでたくせに。

「本当もなにも、…んっ」

反論しようとしたところで、思わず口を閉じた。

だって、変な声が出そうだったから。

突然、耳に、ざらりとした生暖かい感触。

「せんせ、何を…っ」

ゆっくりと下から上へとなぞられて、身体がピクッと反応してしまう。

「ん、やっ、」

「お前、感度いいな」

そんなのどうでもいいから!

耳元で、吐息交じりに喋るな!

ていうか、人の耳をむな!

必死にその感触に耐えていたから、いつ身体に腕が回されたのかも気付かなかった。

薬品瓶の箱ごと、先生の腕に囲われていて。

いつの間にか先生の舌は、耳から首筋へと移っている。

「せんせ、やめ、てっ、」

「…本当のこと、言う気になっただろ?」

ようやく舌を私の肌から離した彼は、楽しそうに笑っている。

なるか、バカ!

精一杯、恨みをこめて睨めば、「正直に言わないなら、続きするけど?」なんて脅された。

「何が、目的ですか」

どうしてだろう。

この前から、なんでこんなに窮地に陥ってばっかりいるんだ。

…クノスに叱られそう。

なのに。彼は。

「んー?何も?校長からじきじきにフォロー頼まれてるだけだし」

……。

…は?

「はい?」

「先生側にも、事情を知っている人間が一人くらいいた方がいいでしょ」

年が近いから、って理由で頼まれたんだよねー、と御堂先生は、楽しそうに言う。

えっと、えっと。

話についていけないんですけど。

「…今のは?」

「何が」

「今の、嫌がらせの理由は?」

「あー、新宮にちょっかいかけてみたくなったから?」

「いりません」

そんな理由で、人を脅すな!

いまだに感触が残る耳もとを、手でごしごしと擦れば、「傷つくなー」なんて、まったく傷ついてない声がする。

なんなの!もう、本当に一体なんなの!

余りの展開に、私が声もなくしている間も、御堂先生はフォローすることなく、「久しぶりに笑ったなー」とか言いながら、表情筋をほぐしている。

もう少し、普通に笑ったらいいのに。

そして、「はい、ありがとう」とようやく、抱えていた薬品瓶の箱を受け取ってもらって、

私は即刻、魔法薬学準備室を出た。

「また困ったことがあったら、おいでー」

「もう二度と来ません!」

そんな捨て台詞を残しながら、なんだかもう一度ここに来るような気がして、慌ててその考えを振り払った。


それを見ていた人影に、私は気付きもしなかった。



ようやく御堂先生を出せましたー。

これで、主要キャラは全部出したはず…。

次回は、現代に一度戻る予定です。


今後の更新ですが、隔日でも難しそうで、週1くらいになりそうです…。

なるべく更新していきたいと思ってますので、また読んでいただければ嬉しいです。

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