デトックス
●マンションの一室・エステルーム
二十代の女性・上田はソファで紅茶を飲む。
マスクをつけたエスティシャン・長野、上田の前で一礼する。
長野「上田様ですね」
上田「はい」
長野「本日担当させていただく長野です。よろしくお願いします」
上田「お願いします」
上田、やや不愛想な態度で応じる。
長野、笑顔でベッドに招く。
長野「こちらへどうぞ」
上田「はーい」
上田、ベッドで仰向けになる。
長野、ベッドのそばに立って一礼。
長野「それでは施術を始めていきます」
上田「お願いします」
長野、上田の顔にタオルをかける。
机に置かれたアロマディフューザーが起動する。
長野、上田の全身にオイルを塗っていく。
長野「今回の施術は、デトックスに特化しております。老廃物を取り除くことで、一気に身体が軽くなりますよ。違いが一目で分かると思います」
上田「それは楽しみですね」
長野「きっとびっくりすると思います」
長野、嬉しそうに笑う。
長野、上田の指圧を始める。
長野「上田様は、普段何のお仕事をされているんですか?」
上田「まあ……普通に会社員です」
長野「デスクワークって肩が凝りませんか?」
上田「結構凝りますねー。お風呂上りとか、なるべくストレッチして伸ばしてるんですけど……」
長野「なるほど。今回の施術で嘘みたいに軽くなりますから、期待してください」
長野、自信満々に笑う。
上田、冗談めかして尋ねる。
上田「そんなに断言しちゃっていいんですか?」
長野「はい、施術に自信があるんです。効果が出すぎてリピーターがいないくらいなんですよ。正直、困ってます」
上田「へぇ、それはすごいですね」
感心する上田、大きなあくびを洩らす。
それを見た長野、優しく声をかける。
長野「眠たいですか?」
上田「はい、ちょっと……」
長野「紅茶のリラックス効果です。全身の感覚が鈍くなって、触られているのも分からなくなりますが、血行が良くなった証拠なので大丈夫です」
上田「なるほど……」
上田、ぼんやりとした口調で応じる。
長野、淡々と施術をしながら質問をする。
長野「お仕事は上手くいってますか?」
上田「はい……最近は色々とプロジェクトを任されたりして……」
長野「すごいですね。尊敬します」
上田「いやいや……」
上田、褒められてニヤッと笑う。
長野、指圧を続けながら質問する。
長野「上田さんは学生時代はスポーツをされてましたか?」
上田「どうしてですか?」
長野「運動部特有の引き締まった体つきだったので。当てましょうか、バスケ部ですよね?」
上田「そうです、当たりです」
上田、眠たそうに答える。
長野、いきなり上田の耳元に顔を寄せると、早口で喋り始める。
長野「ポジションはセンター、部活のキャプテンで明るく元気な人気者。勉強は少し苦手。現代文は得意。一番苦手なのは英語でいつも赤点だった」
上田「えっ、なんで……」
長野「どうしてだと思います?」
長野、上田の顔をグッと鷲掴みにする。
長野、指に力を込めながら、猫撫で声で話す。
長野「もしも、私があなたにいじめられていたクラスメートだとしたら?」
上田「ひっ!」
上田、怯える。
長野、顔から手を離して優しく笑う。
長野「冗談ですよ、冗談! 私、趣味で占い師をやってるんです」
上田「え……?」
長野「バーナム効果ってご存じですか? 誰にでも当てはまりそうなことをそれっぽく言って、さも的中させたかのように錯覚させるテクニックです。びっくりしました?」
上田「なんだぁ……脅かさないでよ……」
上田、安堵するも、ふと思い出したように言う。
上田「でもお姉さんの顔、どっかで見たことあるかも……でも知り合いに長野って苗字はいないし……」
長野「どうなんでしょう。自分で言うのもなんですが、地味でありふれた顔立ちなので。誰かに似てるってよく言われるんですよー」
上田「そっか……」
上田、相槌を打ちながら眠る。
そこで暗転して時間経過。
長野、上田の顔にかけたタオルを外す。
長野「施術終了です。お疲れ様でした」
長野、手鏡を上田の前に持ってくる。
上田、瞬きしてから鏡に注目する。
長野「どうですか? 顔の艶とハリが良くなってますよ!」
上田「ほんとだ……」
上田、感心する。
長野、鏡を下ろし、にんまりと笑って上田に問う。
長野「ところで上田さん。取り除いた老廃物はどうしますか?」
ベッドのそばに、切断された上田の手足が置かれている。
手足の無い上田、呆然とする。
上田「え……?」
長野「言ったでしょう。違いが一目で分かるほど、身体が軽くなるって」
長野、狂気に歪んだ表情で笑う。
長野「長野って旧姓なの。気付かなかったよね、真理ちゃん」
長野、憎悪を露わにして上田の顔を撫でる。




