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無題  作者: うにいくら


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1/1

ダークウェブ

午前三時すぎ。


俺はベッドの上でスマホをいじっていた。


海外掲示板のスレで、ダークウェブとかアングラ系の話題が流れている。


大半はどうせネタか誇張だ。


「くだらねえな」


そう思いながら流していたら、一行だけ妙に浮いた書き込みがあった。



【/L5r0x_archive/index.html】



説明はない。リンクでもない。


「なんだこれ」


コピーしてググっても何も出てこない。



気になってPCを起動する。


古いアーカイブ系のサイトを辿っていくと、妙に古い個人サイトに行き着いた。


黒背景。青いリンク。点滅するGIF。


「うわ、昔のやつだなこれ。ネット黎明期のホームページかよ」


中央にリンクが並んでいる。


archive(保存)

mirror(複製)

signal(信号)

old logs(記録)

do not open(開くな)


「ベタすぎるだろ」


そう言いながらも、なんとなく“signal(信号)”をクリックした。do not openだけは少し開くのが嫌だった。


リンク先のページは訳のわからない画像だらけだった。


廃墟みたいな廊下。無人の部屋。駅のホーム。


「写真サイトか?」


最初はそう思う。


でもスクロールしていると、少しずつ違和感が出る。


同じような場所なのに、微妙に構図が違う。


「少しだけ違って見える気がする……?」


確信はない。



少し下に進むと英語が混ざる。


【you stayed longer than most(ほとんどの閲覧者より長く滞在している)】


「なんだそれ」


さらに下。


【visitors : 15(閲覧者:15)】


「閲覧者って何だよ……」


そのあたりから、妙な圧が出てくる。


理由のない不快感。


そのとき、PCのメール受信音。


ポン。


差出人なし。


件名なし。


本文だけ。


【image attached(画像添付)】


「……は?」


嫌な予感がした。


でも開かない理由もない。


ビビりながらクリックする。


画像が開いた瞬間、体が固まる。


俺の部屋だった。


机。モニター。ベッド。


そしてそこにいる“俺”。


「……は?」


喉が一瞬詰まる。


冷や汗がこめかみを伝う。


「いや、待て……なんだこれ」


マウスを持つ手が少し震える。


すぐに部屋を振り返る。


誰もいない。


当たり前だ。


でも安心できない。


「どこから撮ってんだよこれ……」


天井。壁。窓。


全部確認する。


カメラは見えない。


「誰かいるのか!?」


返事はない。


再度通知音。


ポン。


件名なし。


差出人なし。


本文だけ。


【Do not react(反応するな)】


「……は?」


さらに続く。


【Do not attempt verification(確認行動を行うな)】


「確認するなって……」


意味がわからない。


心臓だけが速くなる。


3通目


【Any response may be interpreted as confirmation of presence(いかなる反応も“存在確認”として扱われる可能性があります)】


俺は息を止める。


4通目。


【Avoid escalation behavior(事態を進行させる行動を避けてください)】


5通目。


【Final notice(最終通知)】


「……は?」


嫌な予感が一気に強くなる。


手が止まる。


次のメール。


【Observed state unstable(観測状態が不安定です)】


【If instability increases, termination will occur(不安定性が増加した場合、終了処理が実行されます)

【Do not initiate contact(接触を開始しないでください)】


「……何の終了だよ」


声が出る。


その瞬間、画面が一瞬だけ暗くなる。


すぐ戻る。


だが画像の中の俺が、こっちを見ている。


さっきよりはっきり。


さらに一通。


【Your attention has been registered(あなたの注意が記録されました)】


俺はようやく気づく。


これは詐欺メールみたいな脅しじゃない。


感情がない。


ただ“状態を説明しているだけ”だ。


最後のメール。


【Do not escalate(状況を悪化させるな)】


「……何をしたら悪化なんだよ」


そう言った瞬間。


部屋の空気が一瞬だけ止まる。


音が消える。


そして画面だけが、静かに更新される。


【visitors : 10(閲覧者:10)】


俺はマウスを握ったまましばらく固まっていた。


画面には一行だけ残っている。


【Do not escalate(状況を悪化させるな)】


「……無理だろこんなの」


声が出た瞬間、背中が冷えた。


ウイルスとかそういう次元じゃない気がした。


ただの警告文じゃない。


“見られてる前提の文”だ。




俺はすぐにPCの電源を落とした。


強制的に。


画面が消えるまで待てない。


コンセントも抜く。


とにかく全部止める。




そのまま部屋にいるのが嫌になって、別の部屋に移動して寝た。


妙に落ち着かないまま朝を迎える。



翌日。


まずPCのある部屋に入るのが怖い。


でも確認しないと気持ちが悪い。


ドアを開ける。


何もない。


静かすぎるくらい普通の部屋。


「……やっぱ気のせいか?」


そう言いながらも、机を見る。




あの“部屋が映っていた画像”の画角を思い出す。


天井付近のような、少し上からの視点だった。


俺はその位置をしらみつぶしに探した。


棚の上。


照明の周り。


エアコンの上。


カーテンレールの裏。


「……ないな」


どこにもカメラらしきものはない。


そもそも物理的に設置できそうな場所がない。


「じゃあ何だったんだよ……」




一度、外に出る。


頭を切り替えようとする。


でもずっと引っかかっている。


“見えたはずの部屋”。




夜。


意を決してPCを再び起動する。


ゆっくり。


異常が出たらすぐ落とせるように。




デスクトップは普通。


ブラウザも普通。


履歴も空。


「よし……」


安心しかける。




メールを開く。


何もない。


昨日のメールもない。


送信履歴も受信履歴も空。


「……消えてる」


完全に消えている。




「やっぱ夢だったのか……?」


そう言いかけて、そこで止まる。




ふと、添付画像のことを思い出す。



確かに見たはずだ。


俺の部屋が写っていた。




もう一度探す。


検索履歴。


キャッシュ。


ブラウザの一時データ。


全部見る。


何もない。


「……おかしいだろ」


独り言が漏れる。




そのとき、ふと気づく。


デスクトップの片隅に、見慣れないファイルが一つある。


昨日は絶対になかった。


ファイル名もない。


画像ファイルのアイコンだけ。


開く。




俺の部屋の写真だった。


机。椅子。PC。


そして、ほんの少し違う。


カメラの位置が“今の部屋のどこにもない角度”。


「……は?」


声が出ない。




すぐにファイルを削除しようとする。


右クリック。


削除。




削除できない。


「は?」


もう一度。


削除。


できない。




そのとき気づく。


ファイルのプロパティが開けない。


サイズも日時も表示されない。


ただ“存在している”だけ。




背中が冷たくなる。


「いや……意味わかんねえだろこれ……」




そのとき、PCが一瞬だけ反応する。


通知音。


ポン。


だがメールはない。


履歴にもない。




画面右下にだけ、一行出る。


【visitors : 1(閲覧者:1)】


ゾっとした。


「……やっぱ夢じゃねえのかよ」


だが俺はそこでようやく気づく。


「これって俺の部屋をリアルタイムで見られてる人数なんじゃないか?」


「てか、ずっと俺の部屋を配信されていたのか?」




俺は気味が悪くなりPCを落とす。


今度はちゃんとシャットダウンする。


部屋は静かになる。




その夜は何も起きない。


夢も見ない。



翌朝。


PCを起動する。


普通に立ち上がる。


異常なし。


ファイルもない。


履歴もない。




「やっぱり全部勘違いだったな」


そう言って、椅子に座る。



ポン。


【redundant observer removed(余計な観測者を除去)】



【visitors : 0(閲覧者:0〕】



その後、俺がPCを開くことは二度となかった。


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