婚約破棄の翌日に元婚約者が別の女をエスコートしていたので殴りましたが、私は間違っていません
王国立学校の卒業パーティーで、エリアは思いっきり扇子で元婚約者の顔を殴った。
エリアは怒っていた。
「婚約者の私以外をエスコートするなんて、信じられない!」
頬を押さえたサーキットが、慌てて弁解する。
「昨日、婚約破棄しただろう!」
「昨日、婚約破棄したばかりなのになぜ、エスコートする相手がいるの!?」
そのとき――
ピンク髪の少女が、サーキットにしなだれかかる。
「あ、あなたがエリア様ですね?サーキット様を責めないでください!」
エリアは少女を指差し、声を荒げた。
「あんたも悪いに決まってるじゃない! 信じられないわ! 昨日、婚約破棄したばかりなのに、別の女と卒業パーティーに出るなんて! バカなの?」
サーキットは少女を庇うように前に出る。
「待て。婚約破棄は昨日だが、申し入れたのは随分前だ、だから――」
少女は彼の背に隠れながら、震える声で続けた。
「サーキット様はずいぶん悩んで・・・やつれてらっしゃいました」
その言葉を聞き、エリアの怒りはさらに燃え上がる。
「はあ!? 何を言っているの!ちゃんと月に二度もお茶会してあげたし、学園でのお昼ご飯も食べてあげてたわ!」
サーキットは顔を覆いながら、吐き出すように言った。
「その時間が、辛くて耐えられないと何度も言っただろう。
成績を他人と比べて笑われて、剣で負けた日は何時間も責められた。
お昼ご飯に付き合っていたのは、僕に瑕疵が無いよう無理して一緒にいたんだ。」
「わからないわよ! バカ、バカ、バカ! 私、帰る! お父様、帰ります!」
エリアの父が一歩前に出る。
「サーキット君。婚約破棄したばかりなのに女の子を連れてくるのは軽率だよ。後日、君の家と話し合いの場を設けよう。エリア、帰るぞ」
「ええ、早く!」
卒業パーティーの喧騒の中、この騒動はやがて紛れていった。
⸻
帰宅後――
エリアは枕に当たっていた。
ドスドスと、何度も殴りつける。
「なんで! 私が! 卒業パーティーで! 振られなきゃならないのよー!」
その様子を見ながら、弟のコリオは内心で呟く。
(その性格じゃないかな……)
「ピンク髪のあの女、どこの誰なのよー!」
「パン屋の看板娘です。毎朝のランニングで出会って、愛を育てたとか」
「はあ? 貴族ですらないの? バカじゃない!」
怒鳴られ、コリオは一歩下がる。
「僕に当たらないでくださいよ。そんなにヒステリックだから振られたんじゃないですか?」
「なによ! 私が悪いって言うの!」
枕が飛んできた。
コリオはそれを避けながら、淡々と言う。
「剣の腕を他人と比べたり、首席じゃないと責めたり。ずっと人を見下す言い方してたじゃないですか。愛想尽かされたんですよ」
「私はハッパをかけただけよ!」
「言う側はそう思ってても、言われる側は違います。言葉の暴力が多い人と一緒にいるの、きついんですよ。僕も姉上のこと嫌いですし」
「本当のことしか言ってないわ!」
「追い詰めて支配しようとしてくる人とは、ちょっと無理です」
「ちょっと! あんた、弟だって言っていいことがあるわよ!」
コリオはため息をついた。
「姉上はまず、“言っていいことと悪いこと”を覚えた方がいいですよ。サーキット様を追い詰めたのは、姉上なんですから」
エリアは腕を組み、吐き捨てるように言った。
「私は間違ってないわ」
コリオは何も言わなかった。
言っても無駄だと知っているからだ。
「婚約を破ったのは向こうよ。
義務も責任も理解しないで、恋愛ごっこに逃げたのはあっち」
静かな部屋に、エリアの声だけが響く。
「私は正しいことしか言ってない」
その言葉に、もう反論する者はいなかった。
――最初から、いなかったのかもしれない。
コリオは、何も言わないまま部屋を出た。
扉が静かに閉まる。
その音にさえ、エリアは振り向かなかった。
「……私は間違ってないわ」
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乙女ゲームのバッドエンド絵師、ゲーム世界に転生する 〜バッドエンドしかない世界で、運命を捨てる〜




