子、風間 薪男
僕はバレエが好きだ。
理由は上手く言えない。
音楽に合わせて体を動かすと、頭の中が静かになる。ただそれだけ。
学校では、静かすぎるのがいけなかったらしい。
何もしていないのに、存在が浮いた。
家でも同じだった。
父も母も良い人だ。
でも、僕を見る目はいつも心配で満ちていた。
可哀想なものを見る目だ。
だから隠した。
バレエのことも、気持ちも。
上手くなりたかった。
期待されたかった。
息子はすごいと思われたかった。
僕を見る目を期待に変えて、自慢の息子だと言って欲しかった。
正直、価値観の話なんてどうでもよかった。
男とか女とか、自由とか抑圧とか、全部遠い世界の話だ。
僕はただ、ちゃんとした人間でいたかった。
お母さんが言った。
「昔、私は大変だったから、あなたには自由でいてほしい」
善意と優しさからくる言葉だった。でもその瞬間、胸が締め付けられた。
僕は、哀れまれている。
救われる側に置かれている。
違う。
僕は壊れてなんかいない。
「価値のない人間だと僕が思うのはいい」
それは本音だった。
自分を低く見ることで、世界と折り合いをつけてきた。
「でも、お父さんとお母さんにそう思われたら……」
そこから先は、言葉にならなかった。
怖かった。
存在そのものを否定される気がして。
僕は、バレエで証明したい。
逃げていないこと。
生きていること。
分かってほしい。
でも、分かってもらえなくてもいい。
ただ、哀れまないでほしい。
僕を、僕として見てほしい。




