生き返りたいのに、冥王様が離してくれない〜そっちのミスで死んだんだから、責任取ってくれますよね!?〜
「生き返れ」
怠惰に寝転がるアナスタシアにそう言ったのは、骸骨頭の下っ端死神だ。そう、ここは死者の国。またの名を冥府、冥王ハデスが治める地である。
「貴方に言われなくても、出来るものならやってるわよ」
アナスタシアが冥府に来たのは二年前。死神がそれぞれ持つ「今日のお客様リスト」(訳:今日死ぬ人間リスト)に載っていなかったアナスタシアの魂を、目の前のポンコツ死神がうっかり刈り取ってしまったのだ。そんな経緯なので、アナスタシアはこのポンコツに当たりが強い。
「優雅にお茶を飲んでたら突然意識を失って、『ゴメン!間違って殺しちゃった』ですって!?思い出したら腹立ってきたわ」
当然生き返らせろと詰め寄った。しかしこのポンコツの上司――冥王ハデスは、「死者はどんな理由であっても生き返らない」とあっさりアナスタシアの懇願を退けたのだ。
「ホント、ホント悪かったよ!だからこそ、こうして方法を見つけてきたんだろ」
「方法ですって?……怪しいわね」
アナスタシアが疑うのも当然。ポンコツ死神は、アナスタシアが来てから二年間、一度も彼女が生き返るための手助けなどしたことがなかった。貴方のせいなんだから、責任もって手伝いなさいと何度言っても、忙しいとかお腹が痛いとか、のらりくらりとかわしてきたのだ。骸骨のくせにお腹が痛いなんて、せめてもっとマシな言い訳をしろ。
「いや、今回はマジだよ!上からも厳しく言われてるし……」
「上から?まさかハデス様が、生き返りの許可を出したの?」
ベッドにふんぞり返っていたアナスタシアは、勢いよく起き上がった。その瞳は、期待でキラキラと輝いている。しかし、対するポンコツはその骨をカタカタと震わせていた。
「いや〜、それは……その〜」
「何を言い淀んでるの、いいから早く事情を話しなさい」
「わ、分かった!話す!…………実は冥府の連中は、アナスタシアを一刻も早く地上へ戻そうと躍起になってるんだ。それも、冥王様に内緒で」
「それは嬉しい話だけど、今更どうして」
これまで非協力的だったくせに、諦めかけたころにそんな話があがるなんて。一体どういう風の吹き回しなのか、アナスタシアには全く見当がつかなかった。困惑するアナスタシアに、ポンコツは勢いよく答える。
「どうしても何も、冥王様がアンタに惚れてるからだよ!!」
「………………は?」
今このポンコツはなんて言った?冥王ハデスが、アナスタシアに、惚れている??あぁ、可哀想に。会わないうちに前よりポンコツになったのか。
「ちょっ、その顔!信じてないだろ」
「あのハデス様が私に惚れるですって?信じるわけないでしょ。貴方不敬罪で処刑されるわよ」
死神に対して処刑という概念があるかは分からないが、まあそれくらい馬鹿げた話というわけだ。アナスタシアは早々に興味をなくし、また惰眠を貪ろうとベッドに横になる。そんな彼女を、ポンコツ死神は必死で揺さぶった。骨が肩に食い込んでかなり痛い。
「痛っ、痛い!聞くわよ、聞くから離しなさい」
渋々起き上がってベッドに座れば、ポンコツは改まった様子で話し始める。
「アンタが冥王様のお気持ちを信じる信じないは、この際どっちでも良い。とにかく、生き返りについて話をする」
「えぇ、そうしてちょうだい」
「いいか、冥王様が仰った通り、死者の蘇生は原則なしだ。例えそれが、おっちょこちょいな死神によるささやかなミスが原因でも」
(こいつ……ぶん殴ってやろうかしら)
そうは思うものの、この骨に本気で拳を当てたなら、コイツと一緒に自分の指も砕けそうだ。飛び出そうになる拳を必死で押さえつける。
「しかーし!我々は気づいてしまった。おっちょこちょいな死神のミスで人が死ぬことがあるのなら、同じく生き返ることもあると!」
「……意味がわからないわ」
「流れはこうだ。俺は明日も仕事のため、小船に乗ってステュクスの川を渡り、地上へ向かう。小船にアンタが同乗していることに気づかずな」
「流石に気づくでしょ……」
「いいや、気づかない!俺ならそれくらいのポカはやる!そうしてアンタは小舟に乗り無事地上に戻るって手筈だ。てことで、明日迎えにくるから。アンタの魂が入る器も、ちゃーんと地上に用意してあるから安心しな」
一方的に捲し立てると、死神は足取り軽く部屋を去っていく。正直ガバガバな作戦だが、それで生き返れるならやってやる。部屋から出る死神の背中を見ながら、アナスタシアはそう意気込んだ。
*
二年前。今にも泣きそうな顔で立つアナスタシアの前には、作り物のように美しい男が一人。濡羽色の髪は腰ほどまで長く、黒曜石のような瞳はどこまでも深い。切れ長の瞳に形のいい眉、薄い唇とすっと通った鼻筋。完璧な造形美を持つこの男こそが、冥王ハデスだ。
アナスタシアはつい見惚れてしまってから、ハッと我に返って抗議した。ポンコツ死神の手違いで死んだ自分を生き返らせろと。そんなアナスタシアに、ハデスは冷たい声で言う。
「確かにお前の死は定められたものではなく、冥府に非があることは認めざるをえない。しかし、その為にお前を生き返らせたのでは、生死の理を崩すことになる」
「でも、私本当は死ぬはずじゃ――」
「それについては謝罪しよう。だが、生き返らせることはできない」
「そんな……じゃあ私、これからどうなるんですか」
この宮殿の外にいる亡者たちの様に、自我を失いあてどなく冥府を彷徨い歩くことになるのか。アナスタシアは絶望の面持ちで問いかける。
「本来死者は生前の罪を審判にかけられ、冥府における魂の在り処を決められる。善人は美しき地エリュシオンに、常人はこの宮殿の外エレボスで亡者となり、悪人は冥府の果てにあるタルタロスで罪を贖う」
「……」
「しかしお前は、本来定められていたよりずっと早く死した。よって、審判に足る材料がない」
(要するに、どういうこと?)
審判ができないのなら、自分は一体どこに送られるのか。まさか、この男の気分で決められるのでは?アナスタシアは不安でいっぱいの気持ちだった。
「審判が出来ぬ以上、そのどこにもお前の居場所はない。よってこれを特例とし、我が宮に住まうことを許可する」
「我が宮って……。このお城のこと?」
「あぁ、そうだ」
こんな経緯でアナスタシアは、ハデスの住まう宮殿に身を置くことになった。最初こそ警戒していたが、贅沢な食事にふかふかのベッド、大きなバスタブと可愛いわんちゃん(地獄の番犬ケルベロス)。冥府に来て約二週間、正直生前と比べてもずっと快適な日々だった。とはいえ、生き返ることを諦めたわけではない。
(確かにここでの日々は悪くない……けど、このまま永遠に犬以外に話し相手がいないのは嫌。ていうか、生き返って幸せになりたい!)
そんなアナスタシアが立てた作戦が、『冥王ハデス様とマブダチになって、特別に生き返らせてもらおう大作戦』である。鉄は熱いうちに打てということで、アナスタシアはその日のうちにハデスに絡み出した。
「ハデス様、よろしければお食事ご一緒しませんか?」
「……一人で食べろ」
あえなく断られるが、こんなことは想定済み。アナスタシアは袖を目元まで運び、しくしくと下手な泣き真似を披露して見せる。
「あぁっ、誰かさんの部下が犯した取り返しのつかない間違いのせいで未来を失ったのに……。あんなに広い部屋で、食事すら一人で取れと仰るのですね」
「…………」
「あまりの孤独感に、今日はもう何も喉を通らないかも」
「…………先に行って待っていろ」
ハデスは深々とため息をつくと、それだけ言ってその場を去っていった。アナスタシアは計画通りにことが運んでしたり顔だ。
(我ながらウザすぎる絡み方だけど、ハデス様相手にはこれくらいしないとよね!)
そして次の日も。
「面白い本を見つけたので、ハデス様も読んで見てください」
「いらん、読んだことがある」
次の日も。
「ケルベロスのお腹で眠ると、温かくて気持ちがいいんですよ!ご一緒にいかがですか?」
「……よくケルベロスが許したな」
次の日も。
「ハデス様の髪、長くて綺麗ですよね。三つ編みしても良いですか?」
「お前は本当に――まあいい、好きにしろ」
そのまた次の日も。
「ハデス様、宮殿にある蝋燭をこっそり消して、いつバレるか試してるんです。ハデス様もしますか?」
「くだらない遊びをしている暇があるなら、ケルベロスを構ってやれ」
毎日のようにハデスに絡みまくり、気づけば一年以上もの時が経っていた。最初こそ鬱陶しそうにしていたハデスだが、慣れたのかはたまた諦めたのか。今ではアナスタシアが何をしても、「お前の好きにしろ」と余裕の表情で彼女を眺めている。
(仲良くはなれてるのかしら?)
それはまあ、初めより距離は近づいたと思うが。マブダチというより、手のつけられない子ども扱いされている気がする。アナスタシアも成人はしている年齢だが、ハデスは数千年と生きているのだから、そう思われるのも仕方ないことかもしれないが。そんな風に頭を悩ませながら、今日も今日とてアナスタシアは、かなり子どもっぽい理由でハデスの部屋を訪れていた。
というのも、怖い話を見て眠れなくなったのだ。冥府に住んでるくせにと思われるかもしれないが、どこに住んでいても怖いものは怖い。ハデスの部屋の前に着くと、枕片手にノックをし、許可が出たので入室する。
「こんな時間にどうした」
アナスタシアが入室すると、ハデスは書類を書く手を止めて顔を上げた。アナスタシアはほっとして息をつく。あまりにも恐ろしい話を見たせいでずっと落ち着かなかったが、ハデスの顔を見ると恐怖も薄れ去ったようだった。
「怖い話を見て眠れないので、ここで寝ていいですか?」
「構わないが、私はまだ仕事がある。灯りは付けたままでいいか」
「はい、大丈夫です」
アナスタシアはもぞもぞとハデスのベッドに潜り込むと、足の先が出ないようにしっかりシーツを被る。こういう時、足が出てると何かに引っ張られるんじゃないかと思ってしまうからだ。
(普通に考えたら、恋仲でもない男性の部屋で眠るなんて、絶対にあり得ない話よね)
そうは思うものの、ハデスならいいかと思う自分がいる。ハデスにマブダチ認定されて生き返らせてもらうつもりが、アナスタシアの方がすっかり彼に懐いてしまっていた。
(なんだかんだ優しいんだもの。この前だって、退屈している私のために地上の本をたくさん持ってきてくれたし――)
そんな事を考えるうちに、心地よい眠気が襲ってくる。あんなに目が冴えていたのに、こうもすぐに眠くなるとは。アナスタシアはまどろみに身を任せ、目を閉じた。
*
それからまた一年近く。時間はポンコツ死神により提案された『うっかり死なせちゃったならうっかり生き返らせてもいいよね作戦』が決行される日の朝に戻る。宮殿内にアナスタシアの姿は既になく、ハデスは震えながら跪く臣下を冷たい目で見下ろしていた。
「こんな馬鹿げた企てをするとは……。呆れてものも言えんな」
その声音は氷のように冷たく、平坦だった。臣下は床に頭をこすりつけ、声を震わせながらも言い募る。
「わ、我々はハデス様の為を思い……!あのような無価値な小娘にお心を砕かれるなど――」
「無価値か。では、私の目を盗み、生死の理を曲げ死者を地上に送り返そうとする……そんなお前には、一体どれほどの価値がある?」
「ひぃっ!ど、どうか、どうかお赦しを……!」
彼らがくだらない企みをしていたことは全て見通していたハデスだが、今日まで黙っていたのには理由がある。最終的に踏みとどまるなら、見逃してやろうと考えていたのだ。しかし、愚かにも言い訳を口にした臣下には軽蔑させられる思いだった。ハデスは蒼白な顔つきの臣下たちをそのままに、宮殿を出た。向かう先はステュクス、地上に向かうためアナスタシアが渡る予定の川だ。
ステュクスに着くと、アナスタシアを乗せた小舟はもう出立しているようで、少し先にその影が見えた。ハデスは静かに目を瞑った。冥府は全て彼の手の内。どれだけ離れていても、この目と耳で全てを捉えることができる。彼の耳に、遠く離れた小舟で交わされる会話が届く。
「正直さ、ハデス様に逆らってこんな事をするなんて、俺的には絶対無しなんだよ。でも、アンタには申し訳ない事したって思ってるから」
「……そう」
「まあ、罪滅ぼしって奴だよ!命懸けの!……だってのにアンタ、意外と嬉しそうじゃねえな」
死神の言う通り、川を渡るアナスタシアは暗い顔をしていた。何度も宮殿の方を振り返っては、迷うような表情をしている。そうして、やがて意を決したように口を開いた。
「ねぇ、やっぱり戻って」
「ハ?今なんて……」
「戻ってって言ったの。折角協力してくれた貴方には悪いけど……」
「ちょ、アンタ、自分の言ってること分かってるのか!?こんな作戦、ハデス様にはすぐにバレる、てかもうバレてる!今を逃したら、もう二度とチャンスはないんだぞ!」
「そんなの分かってるわよ!!……でも、このまま何も言わずに出ていくなんて、やっぱり出来ない。この二年間、すごく良くしてもらったもの」
「で、でもさぁ」
「お願いだから戻って。もう二度と、生き返れなくてもいいから」
その言葉を聞いた瞬間、ハデスは小さく笑みを浮かべた。水面に向けて、一歩踏み出す。水に沈むはずだった彼の足は闇に溶け、次の瞬間には小舟の木板を踏みしめていた。
「お帰り、アナスタシア」
柔らかな力で、彼女を背後から抱き寄せる。振り向いたアナスタシアは、突然現れたハデスに目を白黒させていた。アナスタシアだけでなく、彼女を連れ出した死神も。
「お前を拐かしたのは、そこの死神か?」
「ハ、ハ、ハデス様……」
死神は全身の骨を震わせ、恐れ慄いている。死神に死という概念があるのか、本人ですら分かっていないが、まさに死を目前にした心地だった。
「待ってハデス様!このポンコ……じゃなくて、死神さんは、私の為を思って……。悪い死神じゃないっていうか、ポンコツなだけで!いや、コイツが全ての元凶なんだけど」
どうもこの死神に恨みという名の深い思い入れがあるらしいアナスタシアは、庇うべきか突き放すべきか決めかねているようだった。そんな彼女に、ハデスはふっと笑いを漏らす。
「冗談だ。そいつの無能さは知るところだが、悪意を持って事を成す奴ではない」
「む、無能……」
地味にショックを受ける死神を横目に、ハデスは告げた。
「私たちは戻る、お前はこのまま仕事に迎え。くれぐれも、予定にない者を連れてこないように」
「しょ、承知しました!」
ハデスはアナスタシアを横抱きにすると、また水面に向けて一歩踏み出した。
*
ハデスがステュクスの川に向けて足を踏み入れた時、アナスタシアは思わずギュッと目を閉じた。しかし目を開ければそこは、見慣れたハデスの部屋の中だ。
「え、えっ!?何で!?」
「冥府は私の庭だ。そう驚くことでもない」
ハデスはそう言うが、とても驚かずにはいられなかった。ハデスの腕から下ろされても、しばらく呆然としていた。しかし、彼に伝えなければいけないことがあると思い出す。
「その、ごめんなさい……。勝手に出て行って」
ハデスはアナスタシアの謝罪を聞くと、しばらく考え込むように黙っていた。長い沈黙のあと、そっと口を開く。
「お前がそこまで生を望むのは、いったい何のためだ?」
「え?」
「怒っているわけではないんだ、お前が自らの意思で私のもとに戻ると決めたことは嬉しい。だが、この二年の時を経ても、お前が生への執着を捨てきれない理由が知りたかった。…………私はお前がいない冥府など、考えることもできなくなってしまったから」
思いがけない言葉に、アナスタシアは目を見開いた。ハデスは、これまでにないほど饒舌に言い募る。
「だがお前は、そうではないのだろう。ここでの日々より魅力的なものがあるから、地上での生を渇望している」
ハデスがアナスタシアを見つめる。まるで愛の告白のような言葉と熱い眼差しに、顔がじわじわと熱を持つのを感じた。これだけ真剣に話してくれたのだ、自分も全てを打ち明けるべきだろう。
「笑わないで聞いてくれます?」
「あぁ」
「私、結婚がしたかったんです……。家族を幼い頃に亡くしたので、家庭に憧れがあって。誰かに愛されてみたかった」
孤児として教会で育てられたアナスタシアにとって、家族は一番の憧れで、最も手の届かない存在だった。シスターや教会の子たちは、家族のような存在だったが、それでは足りなかった。顔も知らない母を思い、泣き腫らしたことだってある。
「死んじゃった時一番に思ったのも、これで私は永遠に独りなんだってことで。その、だからどうしても、生き返りたかった。生き返って、家族を作りたかった」
「……アナスタシア」
「でも、いざ船に乗ってステュクスの川を渡り出すと……。ハデス様に二度と会えないんだって実感したんです。その瞬間私、もし生き返っても、早く死んでハデス様に会いたいって思うんだって気付きました。だからその、もう良いんです。生き返るとか、結婚するとかは」
全て言い終えて、小さく笑った。するとハデスはベッドに腰掛け、横に立つアナスタシアの腕を引く。腕を引かれるままハデスの膝に跨り、向かい合うように座った。至近距離にハデスの美しい顔があり、ついドギマギしてしまう。
「あ、あの、ハデス様?」
「初めは騒々しい娘だと思っていたが、今では可愛くて仕方がない」
「えっ」
「お前を地上に返すことはできないが、もう一つの望みを叶えることはできる。アナスタシア、私はお前を愛している。……私の妻になってくれ」
今自分が、何を言われているのか分からなかった。声も出せず固まるアナスタシアにハデスは「駄目か?」とねだるように問いかけた。アナスタシアは顔を赤くしたまま、ただブンブンと首を振る。
「駄目じゃ、駄目じゃないです」
「そうか」
そっと後頭部に手が添えられ、気づけば唇が重なっていた。大きな手のひらに頭を撫でられると、なんだか緊張も解れていく。そっと顔が離れる。目の前の彼は、ほんの少しだけ頬を赤らめて微笑んだ。「愛してる」ついさっきかけられた言葉が、頭の中で反響して止まない。
「その、一つ聞いてもいいですか?」
「なんだ」
「どうして私のこと、好きになってくれたのかなって……。全然心当たりがなくて」
純粋な疑問と、少しの期待を込めて聞いてみるが、なかなか返事が返ってこない。悩むように黙りこくるハデスの姿に、アナスタシアは絶句した。
(も、もしかして私の勘違い……?「愛してる」って行ったのも、本当は私を好きなんじゃなくて、ただ冥府に留めておくために、とか)
嫌な考えばかりが頭をよぎる。残酷な真実を知りたくなくて、悩むハデスに向けて勢いこんで告げた。
「な、無ければ!無ければそれはそれで!!」
「ん?あぁ、すまない。何から話すべきか考えていた」
居た堪れなくて膝から降りようとするアナスタシアの腰を、ハデスの腕が捕まえた。口づけを終え離れた距離がまた近くなる。
「私を見ると、嬉しそうに駆け寄ってくる姿が可愛らしい。眠れないと私の部屋に来るところも。何か頼み事をする前は、不自然に褒めて機嫌を取ろうとしてくるのも、微笑ましくて好きだ。あとは、好きな物は最後まで食べないところ、寝起きが悪いところ――」
「も、もういい!もういいです!!」
「……そうか、また気になれば聞いてくれ」
アナスタシアを見るハデスの目は、溶けてしまいそうなほどに甘い。マブダチになることも、生き返ることも出来なかった以上、『冥王ハデス様とマブダチになって、特別に生き返らせてもらおう大作戦』という二年がかりの計画は失敗したとしか言いようがない。にもかかわらず、アナスタシアはこれまでにないほど満ち足りた気持ちで、目の前の愛しい人を見つめていた。
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