一攫千金のカロリンメイト
「はあ~、かったるいなあ~。今日もくっそつまんねぇ残業かよ~」
俺はやさぐれフリーターの相田だ。
いつものバイト先の倉庫で、早く帰れねえかなあとか。重い荷物をベルトコンベヤーに乗っけては、早く終わらねえかなとか考えていた。
終業時間はとっくに過ぎているんだし。
周りで同じ作業やってるやつらは、よくやってられるよなあ。
拘束時間9時間の簡単軽作業のはずが、毎日のように残業でしかも荷物が重い。
いつか詐欺で訴えてやるぞ。ここ。
「相田くん。お疲れー」
「はい! お疲れ様でした!」
やっと帰れるー。
倉庫から出る頃には、とっくに陽は沈み。代わりに太陽と同じ大きさの満月が浮き出ていた。真冬の凍りそうな真夜中となった道路を、震えを帯びているくたびれた足取りで歩いていると、寒い夜風に乗って、人の呻き声が微かに聞こえてきた。
空耳なのかな?
なんかうんうん聞こえるけど?
空耳のようにも聞こえるぞ?
外灯があるから、真っ暗ではないけど。
目を凝らすと。
あれ? 人のようなものが倒れている?!
ちょっと臭うが。気になって、近づいてみると。
ボロボロの服装をした老いた男が、道端で倒れていた。
その倒れている男の傍には、小汚い占い小屋がポツンとある。
どうやら、この男は占い師なのだろう。
「う……うーん……」
未だにうんうんと唸っているので、俺は何も言わずに、夏ものの作業服であるチノパンから、今日の夜食の一個しかないカロリンメイトを渡してやった。
男はカロリンメイトを受け取ると、すぐに口の中に放り込んでから、もぐもぐと咀嚼して飲み込んだ。それからにっこり笑って口を開けた。
「ありがとうー!! 君は命の恩人だ! しかし、こんな老い先短い薄汚れた男を救うなんて! 君はなんて良い奴なんだ!!」
「あ、ああ。そんなこと気にすんなよ。いいから。いいから」
俺はさっさと帰ろうとしたが、男が急に立ち上がりとうせんぼをした。
「興味本位で聞くんだが、なんで助けてくれたんだ?」
「まあ、いいじゃないか、そんなの。……たまたまだよ。たまたま。じゃ、俺帰るから」
「待った! 待て待て!!」
「なんだよ。もう~」
「ほれ! これはお礼だ。この宝くじを貰ってくれ。わしからのほんの些細な感謝の気持ちだ」
「お、サンキュー!」
「当選の発表は明日の新聞を見ればいい」
「あ、ああ」
俺は、絶対に当たらないだろうなとは思ったが、その男から宝くじを貰った。




