62話 魔術師
——Day3 6月13日 神無月町の魔法使いのアジト——
ソファーに座る神無月町の魔法使いの表情は暗く、事件の進展がない事を物語っていた。
瑞穂は烈火、透花、澪、拓斗と共に昨夜の指示役の“カラスのヒナ“が怪物になったことについて話し合いをしていた。
しかし透花は足を組み瞼を閉じており、口を開かない。
代わりとばかりに澪が口を開いた。
「あれは錬金術でしたね。透花さんの魔力がトリガーになって、一般人であるカラスのヒナの魔力が暴走したと考えるのが自然ですよね」
深紅色のソファーに沈み込むように座る烈火は大きく頷く。
「その認識で間違いないだろう。錬金術は系統に分かれている。使い方は邪道だがあれは増幅系統の錬金術だろう」
錬金術は“六系統の種類“がある。
——分解系、抽出系、融合系、増幅系、減少系、創造系。
六系統の種類はその目的により使い分けており、先に戦ったガレインの錬金術《血動弾波》は自身の血液を流れる液体を対象を撃ち抜く球体へ変化させていた。
今回の錬金術はバフを目的とした増幅系と烈火は言っているが、カラスのヒナが怪物に変換したと考えると増幅系ではなく、変換系と考えるのが自然だ。
「聞かせてくれ、なぜ増幅系と言い切れるんだ?」
いつの間にか浅座りになっている烈火は、ソファーの前に置かれている湯飲みを持ち、お茶を一口飲む。
湯飲みを置き、徐に体を捻じりながら後方へ向き、棚の中から紙とボールペンを取り出した。
「ポイントはカラスのヒナが魔力を使える者ではなかったという点だ」
烈火は一枚の紙にボールペンで錬金術の六系統を殴り書きをする。
分解系……構造や物質などを解体。
抽出系……素材などの性質を抽出。
融合系……異なる物を融合させ、新たに付与。
増幅系……力や性質を増幅させ、拡張。
減少系……存在や力を抑え、削ぎ落す。
創造系……? よく分からない。使える奴があまりいない。
※注目は詠唱頭語!!
「透花の魔力をトリガーにしたのは間違い。あの瞬間に錬金術のスイッチが押された。そこからの道筋の違いだ」
ボールペンは線を描いた後に空白の円を作った。
「変換とは何を変換させるんだ?カラスのヒナの体を怪物に変換された?確かにそれも可能だろう。しかしそれは命の変換と言ってもいいくらいに膨大な魔力を必要とする」
烈火はボールペンである文字を答えとして大きく書いた。それは——
【オーバーヒート】という単語。
「そうか。無理やり魔力を増幅させて熱を上げた。その結果が……」
「怪物化だ。要するに透花の魔力をスイッチとしてカラスのヒナ自身にバフを掛ける仕掛けを施した。しかし一般人であるカラスのヒナがバフと己の魔力消費による熱に耐えられる訳もなかった」
烈火はボールペンをテーブルの上に投げ捨てて、頭を搔きむしった。
彼が投げたボールペンがテーブルの端で止まる頃、透花は徐に立ち上がり、頭を下げた。
「私のミスだ。リスクを考えずに敵の術中にまんまと嵌められた。すまないと思ってる」
耳のにかかる髪の束がそっと触れて落ちる。ひと房、ふた房。床を差し示すように垂れていく。
「カラスのヒナは自分に錬金術が組み込まれていたことを知っていたってこと?」
拓斗はソファーから離れたダイニングテーブルの手前にある不揃いな椅子に座り、向か合わせに座る澪に聞く。
「あの反応から見て確実に知っていたね。今となれば私と拓斗が捕まえた他の指示役がなぜ自殺したのか合点がいったよ」
「……自分が怪物になることを恐れて——」
拓斗の言葉に、誰も返さなかった。
室内に静かな風が吹いたかのように空気が重くなる。
ソファーの背にもたれかかった烈火は、天井を見上げて不敵な笑みを浮かべていた。
「ヒントは得た。まず指示役クラスには尻尾切りとして錬金術が仕込まれている。そして——」
烈火の言葉を受け、4人の視線は彼へ向かった。
「桐野亮介もしくは幹部の中に魔法と錬金術の両方を使える者がいる可能性がある」
魔法と錬金術を使う人間など瑞穂は過去に一度も聞いた事がなかった。
「……それは一体何者なんだ?」
アジトの一室の空気が止まったように感じた。
「——それを我々は魔術師という」




