表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
夢ノ継づき——魔法と錬金術と最後の物語  作者: むぎちゃ
1章 第3部 脱獄犯編—『正義の魔法使いと小さな花束』
66/69

61話 安易な拷問

——神無月町魔法使いのアジト——

 

 時刻は23時を回っていた。

 瑞穂たちはアジトへ戻り、事の経緯を烈火と透花に説明をしている最中に澪からメッセージが入った。

 

 23:04―澪

「“カラスのヒナ“の確保に成功した。今から戻るね」


 メッセージに既読を付けた瑞穂は、拓斗と共にソファーに座り澪の帰りを待っていたが、いつの間にか眠ってしまっていた。

 

「瑞穂。澪が帰って来たぞ」

 夢見心地には重すぎる烈火の気だるそうな声で自分が寝ていたことに気が付いた瑞穂は首を回わし、コリをほぐそうとする。

 烈火の声は疲れた体に余計なストレスを与える。

 

「寝てたのか……俺。拓斗は?」

「拓斗は部屋に返した。あいつも相当疲れていたみたいだからな」

 

 全身が軋んでいる。関節を動かすとメシメシっと体が悲鳴を上げてしまう。

 烈火は瑞穂の隣でいつも通りに熱いお茶を飲んでおり、無精ひげを蓄える顔が湯気で揺れている。

 

「お疲れのところ悪いが、瑞穂にはもうひと踏ん張りしてもらうぞ」

 

 湯飲みを置いた烈火は立ち上がった。

 そして瑞穂の手を引っ張り、立ち上がるのを無理矢理手伝ってくれる。

 

「そっとやってくれ。痛いから——」

 

 全身が疲労で叫び続ける中、いつもならダイニングテーブルがあるとこに目を向ける。

 しかし、ダイニングテーブルは端に寄せられており、二脚の椅子のみが置いてあった。

 そこには透花と澪がおり、両手両足を鎖で繋がれている男が椅子に座らされていた。

 この男が——

 

「指示役“カラスのヒナ“だ」

 

 澪は男から視線を外さないように睨みを利かせている。

 

「見るだけで分かるな、いけ好かないガキってことがよ。ママの元へ帰ってずっとおねんねしてろ」

 

 指示役は一瞬で瑞穂の地雷を踏みつけ、嘲笑を浮かべる。

 

「てめぇ!!」

 

 思わず瑞穂は飛びつき、指示役のカラスのヒナの顔面を殴ろうとする。

 

「待て!気絶されたら時間が無駄に過ぎる」

 

 透花が瑞穂の襟を掴み、引きはがす。

 何とか怒りを胸にしまい込もうと、八つ当たりもかねて隣の椅子を蹴り飛ばした。

 

「私が瑞穂の気持ちを分かってる。だから落ち着いて」

 

 澪の言葉と優しく叩く暖かい手が、彼を必要以上に冷静させた。

 

「幹部の居場所を吐け。さもなければ殺す」

 

 透花は冷徹な言葉を男に吐き捨てる。

 

「教えるかよ。死ね」

 

 その言葉に、透花の目が一瞬だけ細まった。

 

「なら——」

 

 透花の手が一閃し、男の右目を握りつぶした。

 グッチャリとした音が、部屋の空気を凍らせる。

 

「ギャアァ——!!」

 

 男は目から血を流し口からは涎を垂らしながら、椅子の上で鎖がゆらし、悶え叫んでいる。

 

「これが拷問……うっ——」

 

 金切り声が響き渡り、床には粘度の低い血と糸を引く唾液が交じり合って溜まる。

 瑞穂は地獄のような光景に思わず嗚咽しそうになり、視線を背ける。

 透花は左手で瑞穂の顎をグッと掴み、視線を無理やり戻した。

 

「瑞穂!目を背けるな!お前は背負わなければならないんだ。そう決めた自分の決断に誇りを持て!」

 

 血で汚れた右手は言葉では語れない“現実“を瑞穂に見せようとしているようだった。

 それは希望と呪いが同居し、彼の決心を強固にするものだ。

 瑞穂は心の中で薄氷を踏むように一歩前に足を進めてしまう。

 冷然たる声が思考の世界から瑞穂を呼び戻した。

 

「もう一度言う。幹部の居場所を吐け」

「殺せ……殺せ!!」

 

 指示役の男は掠れる声で断末魔を叫び、人格は崩壊しかけているようだった。

 透花は男の首元を掴み、冷たく鋭い視線をぶつける。

 男は瞼を閉じ、彼女の視線を見ることはなかった。

 透花は手を離し、一瞬の猶予を彼に与えた。

 しかし、男は再び無理やりに笑みを浮かべ「殺せ」とだけ言った。

 透花に瞳は揺れることなく、静かに手を振り下ろした。

 

「アァーー!!」

 

 床にコンッと音が鳴り、瑞穂が視線を向けると、男の耳が落ちていた。

 血が噴き出すよに床一面に流れるが、透花は左手に魔力を集めて、処置をしようとする。

 

「俺に……触れる……なー!殺せー!!」

 

 激痛に襲われているであろう男は透花の手を避けるように体重をかける。

 椅子の右脚が浮き、ガチャッーンと椅子ごと倒れる。

 

「お前はまだ死なせない」

 

 動じない透花は伸ばす手を止めない。

 

「やめろーー!!」

 

 透花の左手が触れた瞬間——

 

「グヌゥォーー?!!」

 

 男の足元から錬成陣が浮かび上がり、体は巨大化し、肌が緑色へ変色していく。

 

「これは!?錬金術!?」

 

 男は人の形を崩し、怪物のそれになっていく。

 縛っていた鎖を引きちぎり、爪はナイフのように尖る。

 

「澪!瑞穂!烈火を守れ!」

 

 透花の言葉を受けて、2人は烈火を囲うように陣形を取る。

 

「グヌゥォーー!!」

 

 もうそれは人間だった時の彼の要素を一切持ち合わせていない怪物だった。

 怪物は透花に対して、手を振り下ろす。

 しかし、怪物の手が透花に触れることはなく瞬時に、消し飛ばされる。

 

「そういうことだったのか。お前の望み通り、殺してやる」

「グヌゥォーー!」

 

 透花が手を振り上げ瞬間に消し炭となり、この世から消えた。

 瑞穂が見た怪物の最後は涙を流しているように見えた。

 

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ