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夢ノ継づき——魔法と錬金術と最後の物語  作者: むぎちゃ
1章 第3部 脱獄犯編—『正義の魔法使いと小さな花束』
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56話 雨季

——Day2  6月12日 神無月高校——


 ◇ ★ ◇(璃乃視点)

 

 昨夜遅くから降り続いている雨は止むことなく辺りを濡らす。

 それは璃乃の心すら濡らす勢いで強く、長く降り注いでいた。

 

「本格的に梅雨の時期になってきたから、これから夏に向けて水の事故には気を付けてね」

 

 璃乃は佐藤先生のホームルームを締める声を上の空で聞き流していた。

 教室には部活動の準備をしている生徒が楽しそうに話しており、自分だけ浮いているようにすら感じてしまう。

 昨日のボヤ騒ぎの最中に全員の足を引っ張ってしまったことを忘れらずにいた。

 もしあれが強盗、もしくは魔法使いや錬金術師だったら、あの失敗で人が死んでしまっていたかもしれない。

 そう思うと、余計に無力感に襲われる。

 

 机に肘を着き、足元に落ちているゴミか分からない物までボーっと眺めている。

 隣の席には紙屑が一つ。その先には——

 と、視線を滑らせるように窓の外を見ていた。

 

「なんにも見えないな」

 

——トントンと肩を叩かれ、後ろを振り向く。

 

「璃乃ちゃん大丈夫?このあとカフェで作戦会議なんだよね?私、部活だから作戦会議の後の調査には間に合うと思うんだけど……」


 明日香が申し訳なさそうに「ごめんね」と謝ってくる。

 

「澪さんも部活出て言ってたから大丈夫だよ!方向性も考え直さないとだし、作戦会議の内容はあとで伝えるね」

 

 明日香はその後も何度も謝り、楽譜を片手に教室を出て行った。

 

「私も行かないと」

 

 重い腰を上げて、近くのカフェへ向かった。

 璃乃がカフェへ着いた頃にはすでに澪、瑞穂、拓斗が席に座っていた。

 

「すまん、ちょっと用事があって先に来てた」

 

 そう瑞穂は言って、カフェオレをひと口飲んだ。

 璃乃もフラペチーノを買い、席に着いた。

 一昨日から続くとてつもなく暗い雰囲気が4人を包み、会話もない。

 ただ氷の解けて崩れる音が鳴るだけだ。

 

「作成会議でしたよね?明日香ちゃんも夕方から調査に合流するって——」

 

 口火を切る璃乃だったが、澪と瑞穂は目を合わせてくれない。

 

「璃乃、そのことなんだけど……」

 

 澪の言葉に嫌な予感がし、璃乃の胸をグッと締め付けられる。

 テーブルの下でスカートを握りしめ、どうにか気持ちを外へ吐き出そうとするが、内側にある陰が、後に言われることを予想してくる。

 拓斗は目を瞑り、腕を組んでおり璃乃には興味がなさそうだった。

 

「璃乃と明日香には調査から抜けてほしいんだ」

「えっ?」

 

 聞こえていたが、脳が理解を拒否した。

 拓斗は目を開き、冷たい視線を向けてきた。

 

「足手纏いなんだよ。昨日の件があって確信した。お前は魔法使いにはなれない半端者だってな!」

「拓斗。お前は黙ってろって言っただろう」

 

 拓斗を制止しようとする瑞穂の苦悩している姿を見ることが出来そうになかった。

 明らかに自分が瑞穂の足を引っ張ている。

 そう考える事しかもうできない。

 

「違う。足手纏いとは思ってない。だけど、野犬事件の時の怪我が癒えていない状態で魔法使いと戦うことになったら璃乃を守ってあげれないかもしれない。だから、ね?」

 

——私はまだ守られる存在なんだ。

 澪のフォローすら卑屈に捉え、拓斗の言ってたことも理解してしまっている自分がいることに嫌気が差す。

 

「俺たちが調査をするから少し休んでくれ。今は——」

 

——ガチャーン

 思いっきり立ち上がった璃乃の膝はテーブルを揺らして一口も飲んでいないフラペチーノを床へ零した。

 

「……分かりました」

 

 逃げるように店を飛び出した。

 

「璃乃!!」

 

 瑞穂の呼ぶ声を振り切るかのうに後ろを見ずに、痛む右脇腹を抑えて神無月高校へ戻った。

 澪は、床に転がる氷の溶けたフラペチーノを見つめて、そっと目を伏せた。


 

 下校する神無月高校の生徒たちは傘も差さずに俯いて走る一人の少女を気の毒そうに見ている。

 その視線すらも怖かった。

 強くなったはずだったのに。

 痛みから足がもつれ、水溜りのある所へ飛び込むように転んでしまう。

 

「何やってるんだろう……私……」

 

 昨日の情けない自分がまた顔を出してくる。

 

「痛っ——」

 

 何も考えたくない時に右脇腹の傷は役に立ってくれる。

 嫌なことが痛みで吹き飛ぶ。

 おもむろに立ち上がり、再び足を前に出す。

 

「……ハァ……ハァッ……」

 

 神無月高校の校舎が見えてきた。

 雨は強くなり、校舎は雨露に消えていく。

 何も見えなくなる中、璃乃はただ前に向かって走り続けた。

 頬だけに嫌な温かみがある二筋の水滴が何度も流れては落ちていく。

 

——前が見えない。全部、ぼやけてる。

 

 そこに一つ影が見えた。

 

「璃乃ちゃん!!」

 

——その影は、泥だらけでずぶ濡れなこんな私を抱きしめてくれた。

 

「明日香ちゃん!私……私……」

「辛かったよね。璃乃ちゃんはずっと頑張ってたもんね」

 

 親友は傘を投げ出して一緒に濡れてくれた。

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