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夢ノ継づき——魔法と錬金術と最後の物語  作者: むぎちゃ
1章 第3部 脱獄犯編—『正義の魔法使いと小さな花束』
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53話 不和

◇ ✪ ◇(瑞穂視点)

 

 それは死刑宣告だと感じていた。

 昨夜に聞いた無謀な作戦、タイムリミットはたった7日。

 透花の最後の言葉を聞いてから誰も口を開くことな解散となった。

 話の内容を思い返してもゴールが見えない。

 野犬事件も苦戦をしたが、今回の事件はそれを凌駕することは一瞬で分かる。

 

 瑞穂はショッピングモール内のベンチに座り、吹き抜けの高い天井を見つめていた。

 平日の夕方は瑞穂たちと同じような学生のカップルや親子が笑顔を浮かべて歩いている。

 

「兄貴、大丈夫?」


 拓斗が両手でアイスクリームを持ち、片方を瑞穂に渡してきた。


「サンキュー」


 受け取って、無造作に一口食べる。

 少し離れたベンチでは璃乃・明日香・澪がそれぞれアイスを口にしていた。

 険悪なままの空気を少しでも緩和しようと、今日は5人で情報収集に出てきている。

 

 桐野が作った組織の一味がこのモールで強盗を働いた——その情報をもとに、襲われた店を訪ねる予定だった。


 この状況でも拓斗の璃乃に対する態度は硬いまま。

 璃乃も釣られるように拓斗と距離を空けている。

 昨日の作戦会議後に澪に恭平のことと資金援助の件、璃乃と拓斗の件も含め相談をしたが解決の糸口は見つからなかった。

 

「なぁ拓斗、璃乃と明日香と——」

「兄貴、その話はいいよ」


 すぐに話を切られてしまう。

 璃乃には澪からアプローチをしてもらっているが、璃乃はアイスクリームを食べながら首を横に振っており明日香がなだめていた。それはどう見ても上手くいってない。

——失敗だ。

 

「このショッピングモールにもう一軒強盗に襲われて店舗があるね。兄貴行こう!」


 拓斗は瑞穂の袖を掴み、璃乃たちが座っている場所とは逆方向に歩き始める。


「ちょい待て。あいつらも呼ばないとしょうがないだろう」


 拓斗の手を振り払い、璃乃たちを呼ぼうとする。


「おーい!次の店に聞き込みに行くぞ!」


 瑞穂は自分らしくなと思いつつも手を振り、大声で3人を呼んだ。


「……」


 拓斗は隣で何も言わない。


「……」


 歩いてくる璃乃も、俯き、シャツの裾を握り締めている。


「璃乃ちゃん……」


 明日香も何とか璃乃をなだめているようだったが、璃乃は顔を上げようとしない。雰囲気は最悪。


 強盗に襲われた宝石店へ向かう道中も会話は無かった。

 店のすぐ近くにトイレがあったので、また小休憩となった。


「アイス食ってまだ10分も経ってないのにこれかよ……」


 拓斗は腹が冷えたとのことでトイレに籠り、瑞穂はトイレ前で一人嘆いていた。

 

「お疲れ、お互い上手くいかないね」


 澪がため息まじりに言ってきたその一言に、思わず笑ってしまいそうになった。


「お疲れ、拓斗も普段はいい奴なのにこの件になると、てんで駄目だ」


 普段ならアホみたいなことで笑ってるくせに、璃乃が絡むと別人格。

 やきもちか、過剰な正義感か、それとも他に何かあるのか、瑞穂にも分からなかった。


「こっちも、璃乃は素直でいい子なのに……昨日のこともあるし、今日の駅で集合したときにね、拓斗が明日香に——」

「あぁ……あれか」


 瑞穂は思わず額を押さえた。

 

 あれはもう、どうしようもなかった。

 小言から喧嘩になり、グループは男女で真っ二つに分断。

 どっちも悪くない、でもどっちも面倒くさい。

 これが、一番しんどい。

 

 「このままじゃ作戦どころじゃないな……」


 彼は小さく呟いたが、澪の方を見ると彼女も静かに頷いていた。

 璃乃の気持ちも聞きたいが、もし瑞穂が璃乃の方ばかり行ってしまうと拓斗をフォローする人がいなくなってしまう。

 瑞穂は「はぁ」とため息を吐くことしかできなかった。

 

「瑞穂、今のうちに情報を整理したい。私たちがしっかりしないと7日後に最悪なことになる」


 澪の言う通りだった。自分たちが崩れる訳にはいかない。


「あぁ、そうだな。まずは期限は今日を入れて7日」


 澪が大きく頷く。


「桐野の捕縛後の動きは烈火と透花に任せるとして、俺たちがすることは——」


 瑞穂の言葉を受けて「3ステップに分かれる」と澪は右手を三本立てる。

 瑞穂は澪の指の動きを見つめながら、作戦内容の咀嚼していた。


 ①末端から指示役へ。

 ②幹部の割り出し。

 ③桐野の潜伏先を突き止める。


 澪はゆっくりと最後の指を拳の中へしまい込み「私と拓斗がたどり着いたのは①の指示役までだった」と言い苦笑していた。

 

 末端は闇バイトで集められた人たちであり、それを小規模の範囲で指示を出しているのが指示役。さらに広範囲を統括してにいるのが幹部。

 ここまでが澪と拓斗がたどり着いた情報だ。


 “神無月地方“は大きく5つのブロックで分かれており、今、瑞穂たちがいるショッピングモールや神無月高校、南地区ブロックの海沿い地域だ。

 一番発展している大都市が中央地区ブロック。この二つのブロックを総称して“神無月町“と呼んでいる。


 それ以外の地域は山林や農業区画の西地区ブロック。その他に北地区と東地区ブロックがあり、別称で呼ばれている。

 澪曰く、事件性が地域によりやや偏りがあるとのこと。

 彼女は幹部が地区ごとに指揮していると推理している。

 

「我ながら情けないね」


 澪のその声に責任感と悔しさが混じっているのが、瑞穂にはよく分かった。


「俺と璃乃も野犬事件の時は何度も失敗をして、自分自身に嫌気が差した。だから澪の気持ちもよく分かる。澪はよくやってるよ」


 澪は目を大きくして瑞穂を見つめた後、クスっと笑みを零す。


「瑞穂がそんなことを言うなんてね。子供だと思ってたけど、成長してるんだね」


 心から言っているであろう褒め言葉は瑞穂が素直に受け取るにはまだ少し早かった。

 

「うるせぇ!昴みたいなこといいやがって。鉄心もたまに会うとすぐ俺と拓斗の背が伸びただの言ってきやがって——」

「みんな瑞穂と拓斗が可愛いんだよ」


 瑞穂と4歳しか変わらないのに随分と澪は大人に見える。

 少し熱くなった頬を冷まそうと冷房の吹き出し口の下へ向かって顔を上げる瑞穂に澪は改まった様子で言った。


「晃司のためにも私たちがやるんだ。絶対に戦争を止めよう。それが……」


 言葉に詰まっている澪を振り返って見ると、一筋の涙が流れていた。

 澪の兄弟弟子——天野晃司。

 彼は約1年半前に死んだ。それは瑞穂が見た初めての仲間の死だった。

 あの事件から澪は透花との関係が表面的なものに変わっていった。


——忘れられない、忘れたくない過去は誰にでもある。


「晃司は誰よりも優しく、正義感の塊みたいなやつだった。俺もその想いを受け継いでる」

「あぁ——ありがとう。瑞穂」



 目を細める彼女の頬にもう一筋の涙が流れる。これが最後とばかりに。

 

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